表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あゆみ  作者: 夢霰
9/17

PART8『進行』

 夏休みも残り一週間を切った。

 赤坂の事件以来、静香は廃墟地帯に来なくなっていた。

 空也は廃墟地帯の部屋の窓から夏の空を見上げながら呆けていた。

 そんなある日だった。

 イヤホンから流れる音楽とは別に、扉が開く音が聞こえた。

 目をやると、静香が立っていた。

 相変わらず制服姿で。

「久しぶりだな」

「そうね」

 そう言いながら、静香はソファーに座った。

「なにか飲む?」

 暇だった空也は、紅茶でもいれようかと立ち上がった。

「いや、いらないわ。それより、この前手伝ってくれるって言ったよね?」

「ああ、赤坂のときのか」

「そうよ。とりあえず、これ読んでくれる?」

 静香から手渡されたのは、茶色の封筒だった。

 その中身は、いつかの雨の日に拾った『あしあと』と書いてあるノートだった。

 空也は黙ってそれを開けた。


『私が生きてきた跡を残す日記』


 めくった1ページ目にはそう書いてあった。

 読み続けると、どうやら病気の少女が書いた日記らしい。

 部屋には、いや、廃墟地帯すべてが無音に包まれ、ノートのページがめくられる音しか聞こえないような気がした。


 読み終えた空也は、静香にノートを返した。

 もっとも、静香は拾ったのだから、返したというのは変かもしれないが。

「それで、頼みというのは?」

「この日記の中にかかれている、屋敷の場所に行きたいのよ。誰も住んでいないって書いてあったところ」

 最初、言っていることがわからなかった。

 意味はわかる。なんのことを言っているのかということも。

 ただ、一人で行けないのか?

 なんでも知っているのなら、いけるはずではないのか?

 知らなくても、こいつなら調べて行けるのではないか?

 その疑問が頭の中を巡った。

「もちろん、私もそうしようとしたわよ。でも、なぜかこの場所がどこにあるのかもわからないのよ」

 不思議なこともあるものだ。

 空也はそう思いながら調べるために立ち上がった。


 見つけるまでにそれほど時間はかからなかった。

 あそこまで放置されるほどの場所が少ないからだ。

 家が地面に埋まっているって、いつの時代から放置されているのだろうと思わせるくらいだ。

「距離は電車で一時間ってところだな。俺もついていかなければいけないのか?」

 廃墟地帯の古びたビルの一室の、ソファーの上で寝転んでいる静香に空也はたずねた。

「どっちでもいいわ。どうせならきなさい」

「なんだそれ」


 それから数時間後には電車の中だった。

 リズム良く揺れる箱の外の景色は、時間が経つにつれ、人工物の量が減っていった。

 リズムの良い音もどんどん複雑になった。

 最初乗っていた人々も次々と降りて行き、電車の中には空也と静香だけになっていた。

 途中から、静香が険しい顔になっているのに気がついた。

「大丈夫か?電車に酔ったか?」

 空也は静香の顔を覗き込んだ。

「いや、大丈夫よ。それより、目的地につくまで話しかけないでくれる?」

 空也はそう言われるが、険しそうな顔の中にある不安そうな目を見逃さなかった。

「わかったよ」

 理由も聞かないほうがいいと判断した空也は、電車の外を見た。

 そこには、青い空と草原が広がっていた。


 電車がとまり、駅からでた。

 都会にいた空也は景色に圧倒された。

 こんなところがあったのか。

 日記に書いてあった通り、道を真っ直ぐ歩いた。

 その間、静香の口が開くことはなかった。

 何分か歩いていたら、それが見えた。

 ぼろぼろな大きな豪邸。

 鉄格子の扉が半分倒れている。

 庭に入ると、日記にあった通り、その豪邸がよく見えた。

 蔦が巻きつき、ガラスは割れていた。

 空也たちの周りには子供の遊具があった。

 ただ、日記にあったベンチだけがなかった。

 ふと、違和感に気づいた。

 確か、日記では最後にここは爆発されたのではなかったのか。

 空也は屋敷を見渡した。

 左から右へゆっくりと。

 最後まで身終えると、視線を元に戻した。

 その視線の先には、数秒前は屋敷しかうつしてなかったが、いつの間にか少年が居た。

 空也より背が低く、少し長めの黒い髪が耳を完全に隠し、片目も隠れている。

 そのもう片方は、見かけない青緑の目をしていた。

「よく来たな」

 少年は口を開いた。

 空也と静香はどうしたものかと目を合わせた。

「まぁ、日記を見てここに来たのだろうけど」

 少年の言葉で、日記の内容を思い出した。

 この少年が飛騨勇一なのか?

 空也が想像してた人物像より子供に近かったので驚いた。

「日記にも書いてあったと思うけど、この建物は一度崩れてしまってな。元通りにはしたんだけど、やっぱりあのお嬢ちゃんがいなくなったせいか、元気がなくてね」

 屋敷の元気がない……?

 空也は言葉の意味を理解できなかった。

 それは、天才の静香も同じらしく、不思議そうな顔をしていた。

「意味わからないような顔してるけど、いつかわかるさ。そして、またここに来るだろうね、おまえさんたちは」

 少年はそう言うと、ゆっくりと歩き出した。

 空也と静香の間を通り過ぎる。

 通り過ぎる瞬間に少年は小さな声で一言言った。

「秘密基地、ばれてるぜ」


<注意>次話で前作『あしあと』のネタバレがあります。

本文に出てくる『あしあと』は日記風小説として前作を投稿しています。

まだの方はそちらからお読みください。

https://ncode.syosetu.com/n4324dx/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ