PART7『本音』
空也は恭一を公園のベンチに寝転ばせた。
隣のベンチに腰をおろして、買ったジュースの蓋を取った。
『怪力お化け、近づくな!』
そんな言葉が空也の頭の中に響いた。
昔、小さいころに言われた言葉。
久々に人に手をあげた。
一口ジュースを飲むと、息を吐いた。
自分の手を開いたり閉じたりしてみる。
そんなことを繰り返してたとき、横から声が聞こえた。
「いい天気だな」
「起きたか、赤坂」
恭一は返事もしないで身体を起こした。
いててて、と小さな声でつぶやいている。
「痛いだろ」
「痛い。おまえ、どんな力してるんだよ。あの成田まで蹴り上げるなんて」
「あのときまだ寝てなかったのか。おまえ、案外タフだな」
雲はあんなにゆっくりと流れているのにな。
空也はそんなことを思った。
「なぁ、秋元。一つきいていいか?」
「なんだよ」
「俺じゃないやつが俺みたいになってたらどうしてたんだ?」
恭一は、空也が買った湿布を貼りながら聞いた。
「そんなもの決まってるだろ」
「なんだよ」
「なにもしない」
「え?」
恭一の手が止まった。
「なんでだよ」
「一つだけって言っただろ」
ま、いいけど、と空也は続けた。
「なんで知らないやつを俺が助けないといけないわけ?」
空也はいかにもめんどくさそうに言った。
「でも、おまえほどのチカラがあったら何人も救える。それなのにしないのか?」
「おまえは優しすぎるんだよ。優しさなんてそんなにいらないぜ、生きていくのに」
恭一が空也を睨む。
「睨まれたって、俺の考えはかわらねぇよ。俺はな、自分と自分に近いやつを守るだけで精一杯なんだよ。あれこれ助けるやつは本当に余裕なのか、ただのお人好しが無理しているかだな。おまえが 誰でも助ける正義のヒーローになるなら止めやしねぇ。ただな……」
空也の声のトーンが落ちる。
「自分を守れねぇやつが幻想いだくな」
空也に睨まれた恭一は、蛇に睨まれた蛙同然だった。
「俺がおまえを助けるのは、これが最初で最後だ。あとは自分の力でなんとかしな」
空也はそれを言うと、ベンチを後にした。
久しぶりに人に説教なんて垂れたな。
廃墟地帯に向かいながら空也は思う。
あいつだけなんだよな、俺が寝てても起こしてくるやつは。
建前で仲がいいやつはあそこまでしつこくならない。
赤坂にはあれくらいしても、あれだけ言っても……。
「受け止めてくれるだろう」
廃墟地帯のいつもの建物に入り、いつもの部屋に向かった。




