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あゆみ  作者: 夢霰
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PART6『憤怒』

 空也は恭一の家を訪れた。

 昨日、いじめられてることを知り対策を考えた。

 だが、対策らしいものが一つしかなかったのだ。

 それを恭一に話に来た。

 インターホンを押し、恭一を呼んだ。

「秋元、どうしたんだよ」

「昨日からいろいろ考えたんだよ」

 昨日、という言葉で恭一は下を向いた。

「おまえをいじめているやつをぶん殴ろうかと思ってな。そして、やめさせる。次、おまえに手を出したら今より酷い目に合わせてやるってな」

 空也は恭一に案を言った。

 しばらく沈黙が続いた。

「やめといたほうがいいんじゃないか?」

 恭一はぼそりと言った。

「なんでだよ。これからも今まで通りに、もしかしたらもっと酷くなるかもしれないんだぞ」

「いいんだ。そもそも、秋元には関係ないだろ」

「関係ないってなんだよ。友達だろ。とにかく、俺は明日行くぜ」

 恭一は何も言わずに家に戻って行った。

 空也は戸惑い、悩んだ挙句帰ることにした。

 帰り道、静香に会った。

 相変わらず制服姿だった。

「なんでこんなとこにいるんだよ」

「さぁね。それより明日はやめといたほうがいいわよ」

 静香は冷たく言った。

「なんでだよ」

「赤坂君はあなたが思ってるような人間じゃないわ。行っても失望するだけよ」

 空也はため息をついた。

「そんなの知らないね。珍しいな、おまえが忠告なんてしてくれるなんてな」

 嫌味っぽくそれを言うと、空也は静香を追い越して行った。


 次の日、空也は学校につくと、恭一がまたなんかされているのだろうかと思い、この前と同じ曲がり角まで行った。

 案の定、声が聞こえる。

「このゲーム、前からしたかったんだよなぁ。赤坂、ありがとうな」

 その言葉を聞き、空也は迷わず飛び出した。

 そこに居たのは恭一と、サッカー部キャプテンの成田だった。

 キャプテンだけあって、体格も身長も空也より大きい。

 こいつだったのか……。

 空也は小さくつぶやいた。

「お、幽霊部員の秋元君じゃないか。なにしにきたの?」

 成田がこちらに気づくと、そう話しかけてきた。

「もう赤坂から色々なものを取り上げるのはやめてもらおうか」

「取り上げる?借りてるだけだよ。俺ら、親友だからな」

「なに言ってんだよ。おまえが無理やり取ってるのは自分で確認してるんだよ」

「あぁ、そう」

 成田は馬鹿にしたように言った。

 それと同時に、空也の視界がぐるっとまわった。

 黒いアスファルトが目の前にくる。

 誰かに後ろから押さえつけられたようだ。

「秋元!油断したな。俺が一人だと思ったか?」

 成田の足がこっちに近づいてくる。

 少し遠くにいる恭一の顔が成田の足と足の間から見えた。

「おまえ……俺がくることを知っていたのか」

 空也はやっとのことで声を出した。

「ああ、おまえの友達の赤坂が教えてくれたぜ」

「えっ」

 空也は恭一の顔を見る。

「ま、確かに俺が持ってこいって言ったよ?あいつも最初は断ったりしてたけどな、少し痛めつけたら持ってくるようになった。それからは断りもせず持ってきてくれるんだぜ?」

 成田の足が目の前で止まった。

「あいつが、自分の意思で、俺に持ってきてくれたんだ。わかるか?」

 一言一言を強調しながら成田が言う。

「そんな訳ないだろ。なぁ、赤坂」

 ずっと黙っている恭一に質問を投げつけた。

「俺……」

 恭一は恐る恐る口を開いた。

「俺……物を持ってくることが、あげることが、自分の存在する理由なんだよ。生きる理由なんだよ。だから……だから、秋元は首を突っ込んでくるなよ!」

 空也は一瞬なにを言われたのかわからなかった。

「そうだぞ、秋元よ。おまえがおとなしくしないと、あいつの名誉と……あいつの命がなくなるぜ」

 その成田の言葉を合図に、成田の仲間が恭一の足にナイフを突きつけた。

「俺の存在意義を取らないでくれよ、秋元」

 恭一の二度目の言葉でやっと理解し、なにかが切れた。

 ものすごく小さな音でなにかが切れたのだ。

 秋元はすごい力で押さえつけている力を振りほどき、恭一のほうに走って行く。

「どけ!ナイフ野郎!」

 空也が叫ぶとナイフを突きつけているやつの顔が強張る。

 鈍い音が響いた。

 恭一の身体が後ろに倒れた。

 その場に居た空也以外の者はなにが起こったのかわかっていなかった。

 殴られた本人の恭一でさえ。

 空也は恭一の首元を掴むと、何度も何度も殴りつけた。

「おまえの生きる理由がこんなやつに金や物を献上すること?ふざけんなよ。こんなことが生き甲斐なら死ね。俺が殺してやるよ」

 空也の拳に返り血がつく。

「他にもやることがあんだろうが!てめぇはあれだけサッカー好きっつってて、それしないでなにしてんだよ!部活が嫌なら外の活動に行けや!それも嫌なら自分で見つけろや!なにが存在意義だ!こんなやつの言いなりになるくらいなら死ね!」

 鈍い音が繰り返し響く。

 何度も。

「お、おい……やめろよ……」

 ついに成田が止めに入った。

「あ?」

 空也が振り返って成田を見上げた。

 その目はまるで獣のような目をしていた。

 成田が後ずさりする。

「おまえも言ったんだろ?おまえは生きる価値がない。これくらいしかないって、言ったんだろ!」

 最後の言葉と同時に成田の腹に空也の拳がめり込んだ。

 成田は腹を抑えて、頭が下がった。

 その頭を空也は両手で持つと、膝を顔面にぶつけた。

 成田の身体が倒れていく。

 成田の身体が地面に着く寸前に、空也は思いきり、成田の身体を蹴飛ばした。

 成田の巨体が少し飛んで行った。

「おまえ、こいつから巻き上げた物全部返せよ。金もだ」

 空也は成田を見下ろして冷たく言い放った。

 なんの反応も見せない成田の顔の前のアスファルトを思い切り殴りつけた。

「わかったな?」

 成田は小さく激しく頷く動作を見せると気を失った。

 空也が見渡すと、ナイフを持っているやつしかいなかった。

 空也を押さえつけていたやつは逃げたらしい。

 そいつは震えながら空也を見ていた。

 どうやら身体が動かないらしい。

 空也はそいつの前まで行くと、しゃがみこんで同じ目線にした。

「おい、おまえ。おまえもあいつの言いなりなんかになってんじゃねぇよ」

 そいつはコクコクと頷いた。

 空也は立ち上がると、恭一を担いで歩き出した。

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