PART5『絶望と疑問』
早くも半分の夏休みが過ぎ去っていた。
そのほとんどを空也は廃墟地帯で過ごしたが、あの日以来、静香はここには来ていなかった。
すでに夏休みの特別授業は終わっており、学校にいるのは部活がある人だけだろう。
親は空也のことを部活熱心な子供とでも思っているに違いない。
空也は廃墟地帯に持っている本は読みつくしていて、やることもなかった。
ベッドに寝転んで天上を見つめていた。
「久しぶりに学校にでも行ってみるかな……」
そんなことを思い立って、空也は制服を柄物のTシャツの上から羽織った。
制服があるのは、親に部活に行っていると言っているから、制服を着てここまで来ているのだ。
暑い日光を浴びながら空也は歩いて学校へ向かった。
学校へ着くと、部活を見に行った。
もちろん隠れながら。
見つかったら何を言われるか分かったものではない。
運動場へ行き、物陰から見渡す。
休憩中なのか、数人がボールを蹴って遊んでいるだけだった。
久々にボールでも蹴りたいな。
そう思って、廃墟地帯にボール持って行こうかと悩んだ。
運動場から離れ、校舎に近づく。
あまり人が通らない道を選んで歩いているときだった。
曲がり角のほうから声が聞こえた。
足音を殺しながら近づいてみる。
顔を出してしまうと見つかってしまいそうなので、耳をすませた。
「おい、金持ってきたのかよ」
どうやらいじめられているらしい。
「ちゃんと言った額持ってきてるな。じゃあ、また今度頼むわ」
足音がこちらに近づいてくる。
空也は急いで隠れた。
人影が通り過ぎ、空也は曲がり角を曲がった。
曲がった先には崩れたように座っているサッカー部のユニフォームを着た男子が居た。
少し遠いところに財布が落ちていた。
落ちている場所に相手が居たのだろう。
空也は財布を拾って座っている男子のそばまで行った。
近づいて、それが誰なのか気がついた。
「赤坂……おまえ……」
そこに居たのは恭一だった。
「……秋元か。なんでここに」
「いや、暇だったから。まだ部活あるのか?」
「そりゃまぁ……」
「もう早退しろよ。コンビニ行こうぜ」
「でも……金が……」
「俺が払ってやるよ。いいから早退してこい。校門で待ってるぞ」
空也は恭一に背を向けた。
空也は校門に行かずに、校舎に入った。
図書室に向かう。
夏休みということもあって、廊下は静まり返っていた。
空也は裸足で歩いているので、歩く音はしなかった。
図書室を開ける音が廊下に響く。
中に入り、見渡しながら歩く。
一つの人影がぽつりとあった。
度の入っていない眼鏡を机に置いて本を読んでる少女。
「おまえ……ここに来ていたのか」
「あら、秋元君。暇で学校に来たんでしょ?」
静香は本を閉じて机に置いた。
空也はため息を一つついた。
「やっぱり知っていたんだな。俺が来るってこと」
「まぁ、なんとなくはね。そして、赤坂恭一君のこともね」
「そのことで聞きたいことあるんだよ」
「めずらしいわね、あなたが聞いてくるなんて」
「そうかよ」
「で、なにが聞きたいの?」
「なにが、なんてわかってるんだろ」
「そうね。まぁ、でも私は他人よ。赤坂恭一君じゃないからね。だから一つだけ教えてあげるわ」
空也は静香の目を見た。
「その代わり、今度私に手伝って」
「何をだよ」
「それはその時まで内緒よ」
「……わかったよ」
空也はしぶしぶ頷いた。
「赤坂君は入部して、しばらくしてからお金を巻き上げられていたわ」
「そんな前から……」
「これだけね、言えることは」
「ありがとな」
空也は図書室を後にした。
校門につくと、まだ恭一は来ていなかった。
しばらく待っていると、とぼとぼと歩いてきた。
「行くか?」
空也がそう聞くと、恭一は頷いた。
歩いて15分ほどのところのコンビニまで行き、適当な食べ物を買った。
そして、近くの公園まで歩いた。
それまで、会話はなかった。
「なぁ、おまえさ、俺に部活来いって言ってたのはいじめられてることに気付いて欲しかったのか?」
恭一は口を開かない。
「まぁ、これ以上は聞かないけどさ、なんかあったら言えよ。仮にも友達だろ?」
恭一は下を向いたままだった。
「今日は俺帰るけどさ、サッカーは部活じゃなくても出来るんだから。行かなくても死にはしないんだぜ」
空也はそれだけ言うと、コンビニで買ったものを全て置いて家に帰った。
*
たくさんの病気を持つ人たちと接したい。
治して、笑顔を見たい。
そう思ってここに就職したのになにをしているのだろう。
面子に任された仕事をしていた賢治は疑問だらけの頭を振った。
少女の肌は白色を通り越して青色になっていた。
「次にやることは……」
賢治はメモを見る。
資料を探すこと、か。
賢治は面子の部屋、と言っても書物だらけでただの倉庫かと勘違いしてしまう場所に行った。
少しだけちらばっていたが、探し物はあっさりと見つかった。
その探し物の横に気になった資料を見つけ、賢治は手を伸ばした。