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あゆみ  作者: 夢霰
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PART14『交差』

 空也は静香を図書室で見つけると、屋上に連れ出して丸長の話をした。

「その人は信用できる人なの?」

 静香は一通り話を聞いた後、怪訝そうな顔でそう言った。

「俺は信用できるけど」

 空也はそう言うと、まあわかっていたけど、と静香は呟いた。

「そうね、私も会ってから判断するわ」


 空也は学校が休みの日に静香を連れて丸長の家に向かった。もちろん丸長には電話を入れている。

 静香は丸長の家に着くまでにどこまで話してどこまで話さないかを空也と相談した。

 静香の異常な能力のことだけを話すことにした。

 丸長の家に着いた。丸長から、家の前に着いたら携帯からメールを送るようにと言われていたため、空也はメールを送った。

 返ってきたメールには、鍵が開いているから入って来てくれという内容だった。

 空也は小さな声でお邪魔しますと言いながら家の中に入った。

 家の中は相変わらず、本や紙が山積みしてあり、部屋の真ん中に丸いちゃぶ台があった。

 以前空也が来た時と同じ場所に丸長は座っていた。

「遠いところよく来てくれた。そこらへんに座ってくれ」

 空也と静香は静かに座った。

 座ってから静香は自己紹介にした。

「お、空也君のガールフレンドかな?」

 丸長が茶化した。

「違います」

 空也ははっきり言った。丸長はそれに対して苦笑した。

「じゃ、本題にうつろうか。君たちの相談事とはなにかな?」

 丸長は少し真剣な顔をした。

 静香は自分の異常なことについて話した。

 丸長はそれを真剣に聞いていた。

 静香が一通り話終えると、何度か頷いたあとこう言った。

「ところでその人の思ったことができる異常というのに、今なにか違和感はないか?」

 静香は少し考え気づいた。

「あなたのこと、具体的に分かることがないわ」

 また、丸長は頷いた。

「やっぱりな。もう一つ確認したいことがある。静香ちゃんと空也君二人ともついてきてくれるかい?」

 丸長は立ち上がると、部屋の奥に進んでいった。

 空也は積み上げられた本や紙を倒さないようにまたぎながらついて行った。

 後ろを見ると静香も同じような動きをしていた。

 空也たちが話していた奥は和室になっていた。

 和室も同じように本や紙で埋まっていた。

 和室の奥に襖があり、丸長は襖を開けた。

 襖の奥には下に降りる階段があり、丸長はそこを降りていった。

 その階段は今までの部屋とは違い、物が一つもなく、靴下を通して冷たい金属の感覚が足に伝わる。

 階段の先には扉があり、それを開けると灰色の部屋に出た。十二畳くらいの広さに、部屋の壁、床、天井は全て鉄でできているような感じがした。

 部屋の真ん中には小さい四角いテーブル一つと、テーブルの周りを椅子が四つあった。

 丸長は入ってきた扉から一番遠い椅子に座り、こう言った。

「静香ちゃんは俺の正面に座ってくれ。空也君はすまないが、静香ちゃんの右後ろの部屋の隅に立っててくれないか?」

 二人は丸長の指示に従った。

「どうだい、静香ちゃん」

 丸長は静香の目を覗き込みながら聞いた。

「なんだか……とても落ち着く」

 丸長は頷く。

「やはりな、静香ちゃんが人の思ってることがわかる意味がわかったよ。俺が空也君に話した、ストッパー解除の話は聞いたかい?」

 静香は頷く。

「話が早い。簡単に言えば人の身体能力がずば抜けて上がることだね。空也君なら腕力だろう。そして、君の場合は目と耳だな。視力と聴力がものすごくいいんだ。視力がいいと言っても遠くのものが見えるだけじゃない。見ている場所が細かいのだよ。例えば指が動いたとして、人差し指だけが動いたのか、中指も一緒に動いたのかの違いでその人がなにを思っているのかを想像してしまう。また、聴力がいいのはいろいろな音の聞き分けができるんだろう。人の心臓の速さや息のあがり方で人の感情を想像してしまう。想像したものを全て組み合わせ、静香ちゃんが今まで経験してきた人の感情から当てはめていたんだな。しかもそれを無意識的に、というか、目と耳がいいなんて想像もしないもんだから、自分は人の考えがわかるんだと解釈したのだろうと、俺は思うよ。

今静香ちゃんが落ち着いているのはこの部屋と俺に理由がある。まず、この部屋は完全なる防音室なんだ。どんな外部の音もここに入ってこない。だから君の耳がいい……俺たちの言い方だと、耳のストッパー解除は意味無いということだね。さっきまでは外の音も聞こえててうるさかっただろう。そして、俺に理由があるというのが、俺は君が来てから無駄な動きを一切していないことにある。どれだけ洞察力がすぐれていたとしても、洞察する対象がなければ意味が無いんだ。俺は人に心理を読まれないようにする訓練を受けたことがあるから出来るが、空也君はできない。だから空也君には静香ちゃんの見えないところにいてもらってるんだ。ここまではいいかな?」

 また静香が頷く。

「さて、ここからは静香ちゃんがどうしたいかが問題なんだが、俺たちがストッパー解除と呼んでいる意味がわかるかい?ストッパーとは栓で止めるという意味があるんだが、それが解除されていると表現している。つまり、ストッパー解除ができるならば、解除をしない普通の状態もできるわけだ。静香ちゃんは常にストッパー解除状態だが、空也君は違うだろ?」

 丸長はちらっと空也と目を合わせた。

「空也君は普段はストッパー解除の状態になっていないはずだ。だから、静香ちゃんもしっかり練習すればストッパー解除を抑えた状態にできる。練習するかい?」

 静香の頭が上下に揺れたのが空也からもわかった。

「ところで話が変わるんだが、空也君に相談したいことがあるんだ。静香ちゃんはこの部屋でもう少しだけ一人で考えてくれ。日頃の疲れもあるだろうしな。必要な物があれば持ってくるからなんでも言ってくれ。空也君は俺についてきてくれ」

 一方的に丸長はこの部屋に入ってきた扉と同じ扉から出て行った。空也も付いていく。

 元々の部屋まで戻ってくると、丸長からまた座ってくれと言われた。

 それと同時に、家の玄関が開いて、誰かが入ってくるのが見えた。


  *


 あの手紙を出してからすぐに連絡がきた。

 賢治は慌てて準備をしていた。

 賢治は丸長秀人に病院のことを手紙に書いて送った。

 いつも観ている患者のこと、もしかしたら父が昔研究していた症状に似ているような気がしたこと。そして、協力してもらえないかという内容だった。

 手紙が届いたであろう日に丸長から電話がかかってきた。

 今からうちに来れたら来てほしい。今までに研究していた資料などがあればそれも持ってきてほしい、とのことだった。

 賢治はその電話を受け、すぐに準備をしたというわけだった。

 住所も電話で聞いていたが、ここからそう遠くではない。

 賢治の目にはいつも見ている患者三の姿と、昔の父が映っていて、車から見える景色はあまり見ていなかった。しかし、事故もなく丸長の家についた。

 マンションに入り、指定された部屋を探す。

 電話では鍵は開けているからそのまま入ってほしい、と言われていた。

 少し緊張したが、静かにドアノブを握り、ドアを開けた。

「お、ちょうどいいところに来たな」

 昔、父と研究室に遊びに行ったときに聞いた懐かしい声だった。

 賢治の目の前には、丸長の他に少年も座っていた。


  *


 丸長の正面には空也、空也の右隣に賢治が座った。

 賢治の自己紹介が終わると、丸長は書類の山から手紙を取り出した。

「賢治君、手紙は受け取ったよ。ここに書かれている内容も読んだ。俺らが探しているものはもしかしたらこの病院にあるかもしれない」

 空也には何の話は分からなかったが、賢治は頷いていた。

「丸長さんもそう思いますか。僕もそう思うんです。あと、彼は……」

 賢治は話を一度区切り、空也に目を向けた。

「ああ、自己紹介はしたけどどういう子か言うのを忘れていたな。空也君は秋元承太郎さんの息子だよ」

 賢治は丸長の言葉に驚いた表情を見せた。今度は空也に賢治を紹介した。

「賢治君は俺が研究していた仲間だった人の息子なんだ。その研究していた仲間というのが俺と君の父親とも仲が良くてね、よく君の話をしていたから知っているのだろう。さて、賢治君も揃ったところで、さっき相談したいと言ったことについて話そう。単刀直入に言うと、賢治君の手紙に書かれている場所にある資料と、少女を奪還したいんだ。そのため、空也君には悪いんだが、ストッパー解除を自在に操れるようになり、一緒に来てほしいんだ」

 唐突の話に空也は混乱していた。

「もちろん、君の身は俺が命に変えても守ろう」

「それは、とても危険だということですか?」

 混乱している頭で考えられることを絞り出すような声で言った。

「ああ、その可能性が高い。何を救い出すのかを賢治君から説明してもらおう」

「ある病院で患者が患者として扱われていないことがわかったんだ。そして、その患者はおそらく、ストッパー解除の副作用が発症したと見られる。僕も父の文献を読んで知っていた程度で、あまり知識がなかったんだが、その病院で発見した資料を見て思い出したんだ。あの資料は父のものではない、つまりストッパー解除の研究を行う場所が他にあるということなんだ。ストッパー解除というものは基本極秘で扱われている。そして、ここにいる丸長さんたちが専門として研究を行える権利を得ているんだ。その他に研究を行うことは禁止されている。それに関わらず資料が発見されたり、研究らしきものが進められていることがおかしいんだ。だから、その資料と患者さん、そして研究されている施設を発見したい。まさか丸長さんが少年にこの件を任せるとは思っていなかったんだけど……」

 その話を聞いて、空也はいくつか疑問があったが、一番の疑問を投げかけた。

「ストッパー解除の副作用ってなんですか……?俺や鈴永も副作用がでるんですか?」

 賢治が戸惑っているのがわかった。答えていいのか悩んでいるようだ。それを見兼ねた丸長は口を開いた。

「正直な話をする。この話を静香ちゃんにするかどうかは空也君に任せるよ。さて、この話をする前にストッパー解除について少し詳しく話す必要があるな。ストッパー解除が現れる要因は大きく分けると二つある。一つは天然、一つは人工的に発症する。前者はそのままの意味で生まれたときから持っている。後者が厄介で、この世のストッパー解除のほとんどの発症はこれが原因だと言われているのだが、ストッパー解除をさせる薬が開発されていて、これにより発症させられる。そして、天然のものは副作用が一切ないと今のところ言われていて、人工的なものはストッパー解除を行った部位から痺れが増していき、最終的には命を奪われるといったものだ。まぁ、その副作用は元々、薬で発症させてストッパーの制御を行わせるため、その薬の副作用ということで呼ばれているわけだから天然には関係ないな」

 ここまで聞いて空也は唾を飲んだ。空也を見つめ、一呼吸置いてから丸長は口を開いた。

「空也君は天然のほうだ。天然はかなり珍しいんだよ。そして、静香ちゃんは……なぜそうなってしまったのかわからないが人工的なものだろうと思う」

 空也の胸の中で安堵と不安が混じり合った。

「……ということは」

「今からストッパーを制御するコツを覚えれば副作用は起きないと思う」

 空也の言葉を遮り、丸長はそう言った。

「よかった。あと、その研究所を発見したいという話なんだけど……その研究所のせいで鈴永はストッパー解除になってしまったんですか?」

 不安が解消された空也は丸長に質問した。

「うーん、そればかりはその研究所のせいかどうかは分からない。ただ、俺達の研究関連でない研究所は、大概が金目的で開発を行っている。だから、その研究所を探せば芋づる式で他の研究所を見つけ出せれる可能性はある」

「じゃあ、丸長さんの研究施設で行われたものという可能性はないんですか?」

 空也は丸長に対して一歩踏み出した質問をした。

「ないな。そもそも、俺達の研究は専門で行っていると言っただろう?色々と制約をかわしていてね、その中の一つに『永久的にストッパー解除能力を発症させる薬の開発は禁止』という項目があってね、現実問題そういった薬を作るのは可能ということはとうの昔にわかっていることだが、俺の研究チームは作ったことがない。だから可能性はないと言えるだろう」

「わかりました。もう一つ聞きたいんですけど、さっきの話に戻ってしまいますが……」

 空也の問に丸長は察した。

「空也君以外で天然のストッパー解除ができるという人は本当に限られているんだ。だから、君のお姉さんも残念ながら天然ではないよ。」

「なるほど」

 空也は少しの間考え込むと、自分も研究施設を探すのを手伝いたいと申し出た。

「ありがとう、君が居てくれると助かるよ。それでは、君の都合の良い時間でいいから、この家に来てくれると助かる。君のストッパー解除を自由自在に操れるよう練習しよう」


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