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あゆみ  作者: 夢霰
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PART13『ちから』

 おじさんは空也を家に上げながら簡単な自己紹介をした。空也の父親とは学生時代の同級生で、仲もよかったそうだ。それからはある研究員として働いていたが、事情があり個人で研究を行っているそうだ。

「丸長さんは何の研究をしているんですか?」

 空也が尋ねたのと、丸長がお茶を入れ終えたのと同時だった。

「その話をする前に、聞きたいことがあるんだ。どうだい?最近は困ったことがないかい?例えば力の制御がしにくいとか」

「なぜその話を知ってるんですか?」

 空也は少し前に身体を倒した。

「昔、君の両親が相談しにきてね。まだ立つこともできない幼い君がおもちゃで遊んでいたところ、頑丈なおもちゃが壊れることが多発してね。不思議に思った君の両親はこっそり君を録画したんだ。すると、君がおもちゃを壊していたんだ。それも、壊したくて壊したんじゃなくて、不本意ながら壊してしまったというものだったんだ。様々な医者にかかったが、なにも原因がわからなくて、君の父親の友人ということで俺のところに話が来たんだよ。そこで見てみたら、君の力の制御ができていないことがわかった」

 そういえば、と言いながら丸長は一口お茶を飲んで話を続けた。

「君のお姉さんはどうだい?元気?」

 空也の表情が少し曇った。

「反応を見る限りまだ治ってないんだね」

「姉のことをどうして知っているんですか?」

「君の姉はね、俺の研究していたところで預かられていた孤児なんだよ。理由は、どうだろう。俺が話して良いのか、君の親から話を聞いたほうがいいのか、俺は子供がいないから分からないな」

 空也は少し悩んで、話してほしいと促した。

「そうか、なら話そう。君の姉のことだが、特別な性質を持っているんだ。知っているかわからないが、フェロモンというものを知っているかい?一般的には昆虫が持っている話が多い。どういうものかというと、メスがオスを誘引するのに使うんだ。そして、このフェロモンは人間にも見られる。ただ、昆虫ほど使いこなしているわけではないんだ。さて、君の姉がなぜ今の状態になっているか知っているか?」

 空也は首を振った。

「君の姉は必要以上にフェロモンを出してしまう体質なんだ。なぜかはわかっていないが、その所為で生みの親に手放されたんだ。生まれたばかりなのにフェロモンを大量に放出してしまうせいで、男性が近づいてきてしまい、当時の両親がとても迷惑に思ったそうだ。二人ともまさか生まれた子供のせいとは思わないから、浮気だと思ったんだろうね。離婚し、母親のほうが子供を引き取った。しかし、それでも男性が寄り付いてしまう。困った母親はどこで聞いたかわからないが、ある病院の前に捨てていったんだ。その病院内で俺は研究をしていたんだが、俺の友人がその子を拾ってね。養子を取ってくれる人がいないか待っていたんだ。そのうち、君の両親がやってきて引き取ったんだが、体質のせいで男性にストーカーされたり、いたずらされたりと精神的にダメージを受けたせいで今、精神病を患っているんだ」

 丸長は言い終えると、力を抜くように口から息を吐いた。

「そして、俺の研究は人間の特異体質についてなんだ。君の姉もそうだが、君もそうだ。話が変わるが、はるか昔の人がマンモスやらを狩っていた時代、どうやってマンモスを狩っていたと思う?」

「えーっと、道具を使って?」

「そうだな。だが、像のように大きく、像より凶暴な動物を道具でどうこうできると思うかい?俺らの研究では、人間はもっと力があったが、今は文明が発達したためその力が衰退したのではないかと考えている。君の姉のもそうだが、昔は女性がフェロモンを自由に操っていたのではないのか。マンモスを狩るために力があったのではないか。そういった力が衰退した俺ら人間の中でもストッパーと呼ばれる力を出したり抑えたりするものを持っている人が稀にいる。君や君の姉だ。力を出した状態をストッパー解除と読んでいる。なぜこのストッパーを持つ者が現代に存在するかは分かっていない。。納得できないという顔をしているが、君も自分自身で経験しているだろう?それが証拠さ」

 戸惑った空也だが、その後は他愛もない話をし、丸長の家を後にした。そして、帰りの電車で、鈴永にも教えてやろうかと思った。


 家に帰った空也は、母の夕理に今日あった出来事を話した。

 夕理は空也に謝った。しかし、夕理も大事な自分の子なのだから、しっかりサポートしてあげたい、と話された。空也はその言葉がとても大事なもののように感じた。


 *


 家に帰った賢治は病院内でストッパーの話を知り、胸の奥に何かがつっかえるような思いをしていた。

 ふと、郵便受けに溜まっている書類に目がいった。ここ最近忙しくて確認していなかったと思い、書類をまとめて取り出すと、机の上に広げた。着替えながら書類の宛先を確認していると、父親の親友だった人の名前を見つけた。急いで中を確認すると、研究を一緒にしないかという誘いの手紙だった。その手紙を見た途端、父親が亡くなったときにしまいこんだ記憶が流れ込んでくるように、かつて父が研究していた症状に、自分が今見ている患者の症状が似ていることに気づいた。大人になって様々な医学書を読んだせいで昔の体験した記憶が薄れてしまっていたのだろう。

 それからの行動は早かった。机の奥底にしまいこんでもう使わないと思っていた便箋や封筒を取り出すと、父親の親友だった丸長秀人に手紙を書き始めた。

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