PART12『自分』
空也はまず役所に向かった。
役所に戸籍を問い合わせてみると、自分は秋元家の子供として登録されているらしい。
父、母は今の両親の名前になっている。
とくに変わったところがあるわけではないが、出生地が気になった。
空也は出生地に行ってみることにした。
出生地の住所は空也が住んでいるところよりかなり遠い。
県を2つほどまたぐ。
電車では2時間ほどかかるらしい。
空也はそのまま電車に乗り込んだ。
電車に乗っている間、いろいろと考えてみる。
自分の力、そして静香がいう異常者について。
思い出せない過去がある。
それは小学校に入る前のこと。
生まれてから幼稚園までの間の時間だった。
自分のこの力はどういうものなのか。
検討もつかないものだった。
もしかしたら出生地に何かがあるのかもしれない。
空也は何回か電車を乗継ぎ、人に住所の場所を訪ね、出生地へとついた。
そこは山に囲まれた小さな村だった。
昔ながらの建築物と田んぼや畑が交互に並んでいる。
その間を歩いて目的の場所を探す。
そしてついに、出生地の住所へたどりついた。
だが、空也の目の前には廃墟と化した家しかなかった。
周りを見渡してみると、畑に囲まれ、隣の家まではかなりの距離があった。
空也は廃墟と化した家のドアノブに手を伸ばした。
鍵はかかってないらしく、ゆっくりとドアは開いた。
家の中は少しほこりっぽいが、崩れ落ちるほど傷んではなかった。
土足のままゆっくりと家の中に入る。
玄関には靴箱があるが、靴は一足もなかった。
そこから廊下につながり、途中でトイレと浴槽の部屋があった。
廊下はリビングまでつながっており、リビングはキッチンと部屋が分かれていた。
リビングからは二つの部屋につながっている。
片方は寝室だったのか、木製のベッドが二つ並んでいた。
もう一つの部屋は木製のタンスが置いてあった。
その程度で、他の家具はなかった。
キッチンも戸棚の中にはなにもなく、寝室の押入れも空だった。
木製のタンスの中も調べたがなにもなかった。
空也は家から出ようとしたが、ふと思い出した。
タンスの部屋まで戻り、タンスの引き出しを開けた。
そして、タンスの奥に手を突っ込んだ。
予想通り、タコ糸が手に触れる感覚があった。
タコ糸を引っ張ると奥からガタガタという音がなり、ダイヤル式の鍵が出てきた。
頭のなかにでてきた数字に合わしてみる。
鍵が解除された音がし、引き出しの底の板がはずれた。
そこには一枚の紙があり、二行の文が書いてあった。
片方は住所で、片方は「ごめんね」の一言だった。
タンス以外もなにかあるかどうかよく調べてみたが変わったものはなかった。
また電車に乗り込み、書いてあった住所へ向かう。
駅員に聞くと1時間ほどかかるらしく、寝ることにした。
だんだんと周りの音が遠くなっていく。
空也は夢の中へと入り込んでいった。
「次は~」
電車のアナウンスで起き、空也は電車を降りた。
今度はさっきとは違い都会だった。
高層ビルやマンションが立ち並び、たくさんの車や人が行き交っていた。
さっきの場所とは違い、住所はわかりやすかった。
とあるマンションに入り、書いてある部屋番号の前まで行った。
少し緊張する手に力を入れ、チャイムを鳴らした。
ドアの向こうからドタドタと歩く音が聞こえる。
ドアが開き、そこから出てきたのは三十代のおじさんだった。
「えっと、誰かな?君は」
おじさんは空也を見て言った。
髪はぼさぼさで、髭も綺麗に剃っていない。
服は上下ともジャージである。
四角に近いメガネをかけていた。
空也はどう答えたらいいかわからなく、とりあえずあの家で見つけた紙を見せた。
その紙を見るなり、おじさんの顔色が変わった。
緊張したような顔になった。
「とりあえず部屋に入りな。話は中でしよう」
「その前に聞きたいのですが……俺の名前わかりますか?」
空也の言葉におじさんは少し微笑みながら答えた。
「秋元空也くんだろ?」
空也はその答えに間違いがないか確認すると、間違いないと答えてくれた。
そして、空也の両親は今一緒に住んでいる両親で間違いないということも答えてくれた。
空也は喜びと安堵で胸がいっぱいになった。