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あゆみ  作者: 夢霰
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PART10『真実の断片』

 あれから何日経ったのだろう。

 賢治は相変わらず無機質な部屋で考えにふけっていた。

 数日前に見つけた資料の内容に気になることが書いてあった。

『人間の信号を判別することに成功。第一被験者は院長の娘を使うことになった。この日のために健康に育てたとおっしゃっていた。我々はあの村の誰かを使うものだと思っていたが、まさか自分の娘を被験者に選ぶとは思いもよらなかった。』

 院長とは誰のことだろうか。

 この病院の院長だろうか。

『実験開始三ヶ月で効果があらわれはじめた。我々は人間の手で神を作ることができたのだ。人間が神を超えたのだ。そう喜ぶのも束の間、実験から二年目で第一被験者の副作用とでもいうのであろうか、身体に異常が起きた。』

 結局実験の効果とはなんだったのか。

 賢治は気になり、資料を少しめくると、『第一被験者』という項目を見つけた。

 そこにはこう記されていた。

『第一被験者に薬を投与してみた。実験で得た、人間の信号を判別できる、という結果を元に作ったものだ。投与して三ヶ月後でようやく効果があらわれはじめた。

 最初に発見した効果は、第一被験者が食事をしているときに、あやまってコップを割ってしまったのだ。不思議に思った研究員は第一被験者の身体を調べた。結果、力がかなり強くなっていることがわかった。瞬間的に筋肉が第一被験者の身体と思えないほど増大する。その後に、力を弱めて食事をすると問題がなさそうだった。

 二番目に発見した効果は、第一被験者が棚の上のものを取ろうとジャンプしたときの出来事だった。ジャンプをしたら、棚の上のものどころか、天井に頭をぶつけたのだ。軽く二メートルは飛んだであろう。調べてみると、やはり足の筋肉が瞬間的に増大していたのだ。何度か試すと第一被験者自身で加減ができるようだった。

 第一被験者の異常なことを様々な実験で調査すると、ある一つの真実にたどりついた。

 人間は昔、まだ文明が発達していないときに現代の人間とは比べものにならないくらいの力があったそうだ。普段、我々がある程度力を加減するようなものではなく、爆発的な力を一気に出すことができるようなものだと思われる。例えば、現代の人間ならば鍛えた者でも煉瓦を破壊するくらいだろう。だが、昔の人間は大きな岩をも破壊する力があるということだ。しかし、この膨大な力を常に使っていると体力的にも生活的にも無理があったみたいで、それを制御する身体能力があったらしい。その力を制御する身体能力を我々はストッパーと呼ぶ。また、爆発的な力を一気に出すことをストッパー解除と呼ぶ。

 では、なぜ現代の人間にはストッパー解除がないのか。いろいろなデータを元に調査をすると、文明の発達のおかげでストッパー解除を使わなくてもよくなっていったため、遺伝子から消されていったと考えられる。

 今回、我々が実験で得たものは、ストッパー解除をを操れるようにできる遺伝子を開発したのだ。このストッパー解除を操れるようになれば、使い方次第では無限の可能性がある。ストッパー解除は腕だけに限らず、身体のどの部分でもできるみたいだ。先に述べたように、第一被験者のジャンプ力が高まったのも、足のストッパーが解除されたからであった。』

 賢治は一気に読み終えると、ため息をはいた。

 賢治はこれまで世界の全ての医学書を読んできたが、このような内容が記された本はなかった。つまり、未公開の情報であるといえる。

 半分興味、半分恐怖の二つの感情が賢治を支配していた。

 最初に読んでいた資料に戻る。

『そう喜ぶのも束の間、実験から二年目で第一被験者の副作用とでもいうのであろうか、身体に異常が起きた。あるスタッフが突然死んだのだ。原因を探してもわからなかった。また次の日に一人……また一人と、どんどん死人が増えて行った。この死んだ研究員にはある共通点があることがわかった。第一被験者に触れた者が死んでしまったということらしい。我々は第一被験者に触れることを”感染”と呼ぶことにした。また、第一被験者のストッパーが発見されてから、第一被験者の遺伝子データを元に、足のストッパーを解除することができる薬は開発し、第二被験者に使用した。第二被験者も少女で、足のストッパーの解除を自由にできることができ、実験は成功した。だが、その第二被験者が第一被験者に接触してしまったのだ。今までは研究員が触れると一時間ほどで死んでしまったが、第二被験者は元気だった。このことから、ストッパーをもつ者が第一被験者に触れても問題ないいうことを仮定した。なお、感染した第二被験者に触れた者は変化がなかったため、第一被験者のみが感染させることができるようだ。

 また違う日、第三被験者として連れてこられた少女があやまって第一被験者に接触してしまった。第三被験者はその時点で薬の投与はしていなかったが、第三被験者は死なずに元気に生き続けていた。

 このデータを元に、ストッパーを持つ者が第一被験者に触れても問題ない、という仮定から、一定年齢以下の子供なら触れても問題ない、という仮定に変更された。

 第一被験者がストッパーをもってから一年経った。突然変化が訪れた。第一被験者の身体が劣化していったのだ。最初は手と足に痺れがあり、だんだん麻痺していったのだ。どうやらストッパーを使った箇所が劣化するらしい。第一被験者は数年かけて死に至った。

 同様に、足のストッパーを制御できる第二被験者も同じようなことがあると思われたため、監視することにした。』

 資料はここで終わっている。

 どうやらここにある実験データはここまでしかないようだ。

 ページをめくってみると、破れている箇所があった。

 賢治はその資料を携帯で写真を撮ると、元の場所へ戻した。

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