PART9『協力』
<注意>前作『あしあと』のネタバレがあります。
本文に出てくる『あしあと』は日記風小説として前作を投稿しています。
まだの方はそちらからお読みください。
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飛騨勇一という人物に昨日あって、謎が増えた。
空也は廃墟地帯で頭を抱えていた。
「入るわよ」
しばらくして、静香が入ってきた。
静香は荷物を置くと、やかんに火をかけ始めた。
「話を聞いてほしいから、お茶をいれるわ。なにが飲みたい?」
空也は初めて、話を聞いてほしいという言葉を聞いた。お茶をいれてくれるのも初めてだ。
紅茶、と短く返事をすると、同じく短い「わかった」という返事が返ってきた。
空也の元に静香が紅茶を運び、静香は自分のお茶を手に持ってソファーに座った。
「昨日から色々考えたの。結果、あなたと協力しないといけないことがわかったわ。同じ種類として」
同じ種類?
空也は疑問を頭に浮かべた。
「あなたが『同じ種類?』と疑問にもつのは仕方ないわ。それの説明を今からするところだからね。もう慣れてしまって忘れているかもしれないけど、私は人の考えていることがわかるわ。なぜかというとね、私はアンテナみたいなものなの。人の考えている電波が勝手に私にも伝わるの。チャンネルを変えることと、電源を切れない壊れたテレビを想像してもらったらいいわ。電源切れなくて、テレビはつきっぱなし、違うチャンネルにも変えられない。ただ、わかる距離はあるみたいで、この廃墟ビルの中だとあなたくらいね。たまに、小さな反応があるけど、それはわからないくらい小さいの。ちなみに、日記をみつけたときも、誰か居ることがわかったから行ったのよ」
「ようするに、一定範囲内なら人の思っていることがわかって、でもそれは誰か個人に絞るのは無理ってことでいいのか?」
空也は頭の中の整理をしながら確認した。
静香は頷き、理解できた?と聞いた。
「突拍子もないことを言われてもすぐには納得ができないな」
空也がそう答えると、静香は空也の腕を指差した。
「あなたのその怪力も、私と同じようなものよ」
昔から空也が悩んでいることだった。
カッとしてしまうと、力の制御ができなくなり、とても強力な力を出してしまう。
「俺のこれも同じなのか」
「原理まではわからないけどね。同じ異常者よ」
「異常者?」
「私はそう呼んでいるわ。人の努力では得られない力みたいなものね」
静香の言う通り、空也の怪力はトレーニングで得たものではなかったのだ。
「どうやって取得したか覚えてる?」
静香の問いに空也は考えた。
いつ?なぜ?
だが、いくら思い出そうとしても思い出せなかった。
「私にもわからないってことは、あなたの記憶から消えてるわね。それが外的なものなのか、それともショックとかで消えたものかはわからないけどね」
「そういうおまえはいつからその"力"をもっているんだよ。生まれたときから?」
空也が聞き返した。
「それが、気づいたときには使えるようになっていたの」
「気づいたとき、か。過去の記憶が消されているのか?」
わからないわ、と静香は一言言った。
「それでね、ここからが本題なのよ。私のこの読み取れる生物は、人なら読み取れるのよ。それ以外は読み取れないの。猿でもね」
静香が一呼吸置いた。
空也は返事をし、話を促した。
静香は不思議そうな顔で話をこう続けた。
「でも……あの、飛騨勇一っていう人からは全く読み取れなかったの」
「え?」
「存在感というのかな、それすらなかったわ」
空也は静香の言っている意味を考えてみる。
それならば、あの少年は人間ではないということなのか?でも、あれはどう見ても人間だったじゃないか。しゃべってもいたし。
そこまで考えてやめた。
「ね、不思議でしょ?」
空也の思考を読んだ静香はそう言った。
「そしてね、あの少年が最後に言った言葉、どういう意味だと思う?」
そう聞かれた空也は考えた。
「うーん、誰にばれてるんだろうな」
「誰にっていうところは分からないけど、私たちがここにいることを知って、なにも言ってこないということは、ここにいる分には問題ないってことよね」
あー……なるほど、と空也は納得した。
その納得から、さらなる可能性を静香にぶつけた。
「もしかして、俺らに接触するのもなにか問題があるのかも?」
「存在自体も知られてはいけないものって極秘なものってことよね」
ここまで話して、空也は一つ気になったことを聞いた。
「そういえば、なんであの屋敷に行ってみたくなったんだ?」
答えてくれるか半信半疑だったが、あっさり答えられた。
「昔住んでいたからよ」
「え、そうなのか」
「そこで、私の他にもう一人"異常者"と出会って居るのよ」
空也はもう驚きを隠せなかった。
なんで先に言ってくれなかったのかとも思った。
静香は話を続けた。
「その子は足が速くなる"力"だったわ」
「そうなのか。その子はどうなったんだ?」
「気になるわよね。まぁ、私もどうなったのか知ったから、あの屋敷に行ってみたくなったんだけどね」
「知った、ってことは最近なのか?」
「そうよ」
そして、静香は続けた。
「その子は……死んでいたわ。九月十一日にね」