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あゆみ  作者: 夢霰
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PART0『秘密基地と不思議病院』

前作『あしあと』の続きとなっています。よかったらそちらもどうぞ。

https://ncode.syosetu.com/n4324dx/1/


予告動画的なものがありますのでよろしければ見てください。

https://www.youtube.com/watch?v=O_HuLlvYokA

 ビル、工場、そしてたくさんの車が行き来するこの大都市の空はいつも濁っているように見えた。

 高校の昼休みの開始を合図するチャイムが工場などの音でかき消された。

 コンビニのパンを開けて頬張る秋元空也は眠そうな目をこすった。

「ういっすー秋元。今日も授業は熟睡だったな」

 友人の赤坂恭一は空也の机の前まで椅子を移動させ、弁当を広げた。

「まじドリームワールド」

 空也は寝ぼけた声でそう言った。

「おいおい、夢の世界は終わりですよ。とっとと帰って来い」

 半目の空也の頭を恭一は叩いた。

「いってーなぁ。別に試験も終わったしいいだろ」

「そんなだるそうに言うなって」

 恭一は空也の前の席で、一年のころから仲良しだった。

「しかも夏服の下に色つきのシャツ着ちゃって、先生に怒られるぜそれ」

 恭一の言うとおり、夏服のシャツのボタンはほぼ開けており、黒色の生地に鷲がプリントされたシャツが見えている。

「もう先生も夏休み気分だし大丈夫大丈夫!」

 空也は恭一の肩をばんばん叩きながら言った。

 そんなことを言っている間に空也はパンを食べ終えた。

「絶対それ足りないだろ」

 弁当を食べた後にコンビニのおにぎりを頬張る恭一。

「いやね、赤坂が食う量が多いんだよ。さて、俺は昼寝するかな」

「おまえまだ寝るのかよ。トランプしようぜ」

「二人でか?男子はもう俺らしか残ってないしよ。元気なやつらだぜ、外でサッカーなんて。こんな暑い日は クーラーの効いた教室で昼寝に限るわ」

 空也は顔を伏せながら言った。


 気付くと六時間目が終わっていた。

 恭一に起こされ身体を起こし、帰る支度をする。

 プリントが前からまわってきてそれを後ろにまわす。

 夏休みのスケジュールだった。

「うわ、かなり学校に来ないとだめだな。せっかくの夏休みが!」

 叫びながら恭一が近づいてきた。

「いいじゃないか。赤坂は部活もあるんだし」

 プリントを突っ込むように鞄に入れ、空也は荷物を持った。

「んじゃ、部活がんば」

 恭一にそう言い残し、空也は学校を出た。

 後ろから、たまには部活に来いよ、という呟きが聞こえたが無視した。

 ビルとビルの間を抜け、家の方向へ急ぐ。

 だが、真っ直ぐ家には向かわない。

 途中から家と逆の方へ歩く。

 人通りがない道に入る。

 だんだん工場やビルも少なくなる。

 この大都市の一部は昔使われていたビルや工場が放置されている場所がある。

 現在は立ち入り禁止で、そもそも人が入ろうとしない。

 人々は廃墟地帯と呼んでいる。

 空也は毎日この廃墟地帯に足を運んでいる。

 『KEEP OUT』と書かれてるテープを跨いで廃墟地帯に入る。

 ここだけ世界が切り取られているようで空也は気に入っていた。

 古びたビルに入っていく。

 埃と砂だらけの一階を通って階段を上ると二階はソファーや本棚が置かれている部屋にでる。

 ここは空也がゴミ捨て場から拾ってきた家具を並べ、掃除や修正をして作った空間だ。

 家から雑誌やら漫画を少しずつ持ってきたり、組み立て式の机を拾って持ってきて組み立てたり。

 この都会には金持ちが多いらしい。

 新しいのを買って、古い物はまだ使えるのに捨てたりするのが多い。

 そういうのを拾って持ってきている。

 最初は廃墟地帯に入るのが怖くて周りに注意しながら入っていたが、最近は思っている以上に人がいないので普通に入っている。

 そうやって学校の帰りに少しずつ作業をやっていると心地よい空間になっていった。

 うるさい親がいる自分の家より快適に過ごせた。

 部活に行っていると言っているので怪しまれることはない。

 鞄をソファーに投げるとベッドに寝転がった。

 ベッドの土台はゴミ捨て場から拾ってき、布団やらは自分で買ってきた。

 バイトもしていない小遣いでは安いものしか買えなかったがそれで十分だった。

 なぜか電気も通っているようで、ちょいと加工すれば電気が使えた。

 電子工業という科目なんて習ったことがないので本屋で立ち読みして勉強した。

 なので空也は父親からもらったノートパソコンをもちこんでいた。

 さすが都会で、ネット回線もここまでつながっていた。

 学校に行って勉強して遊んで、帰る前にここに来る。

 空也の日常はそれの繰り返しだった。

 一息つくと、空也は戸棚から袋を取り出した。

 そこにはコーヒー豆が入っている。

 ペーパーフィルターをドリッパーにセットし、ここに帰ってきてから沸かしていたお湯で蒸らす。

 サーバーなどないので、普通のお茶を淹れる急須にコーヒーを淹れていく。

 最近、空也はコーヒーにはまっていて、いつも来たときは飲んでいる。

 もちろん、ここには他のお茶もある。

 緑茶、紅茶など、気分によって淹れるお茶は変えている。

 携帯をいじりながらコーヒーを飲む。

「はぁ、やっと一息」

 そうつぶやきながらまたベッドに寝転んだ。

「夏休みなんて退屈なだけだよなぁ」

 そして空也は目をつぶった。


 次の日、重い足を引きずりながら学校へ行く。

 毎日が退屈だった。

 あくびをしながら教室に入る。

 いつも通り、女子は女子で集まり、男子は男子で集まって話している。

 どこのグループにも属さない空也は席につき顔を伏せる。

 誰とも仲が悪いとかでもなく、ただ空也が人と関わろうとしないだけだ。

 同級生は空也が寝ているときに話しかけても返事をしてくれないのをわかっているので誰も話しかけない。

 ただ一人を除いては。

「おはよー秋元」

 恭一が秋元の背中を叩きながら言った。

「うるさいな、朝から」

 空也は恭一の手を振り払った。

「なぁ、そろそろ部活来いよ」

「めんどいから行かない」

 即答する空也はもうなにも答えないと言わんばかりに顔を腕に埋めた。

 恭一が部活に来いと言うようになったのは最近だ。

 今まで秋元は数回しか部活に行っていない。

 一時間目が終わり、二時間目が終わり、授業が終わっていった。

 そして昼休みが来ても恭一はうるさく空也に言ってきた。

 空也はいい加減聞き飽きたのでコンビニのパンを食べずに図書室へ向かった。

 学校に入学してから図書室に行ったことがない。

 目の下にできたくまに指を当てながら図書室に入る。

 図書室は静かで、本をめくる音しか聞こえなかった。

 日の当たっていない席に座り、寝る体勢に入る。

 そこは四角のテーブルで六人座れるようになっていた。

 しばらく目を瞑り、ぼけーっとしていた時だった。

「今日はパソコンが壊れる」

 女子のつぶやく声が聞こえた。

 掠れたような声。

 だが、か細い声だ。

 男子はドキッとしてしまう声だろう。

 空也は少し顔を上げ、周りを見渡した。

 空也の斜め前にいつの間にか座っている女子がいた。

 長い髪をポニーテールにしている女子だ。

 日記を書いているのを見ると、内容を読み上げてしまったのだろう。

 空也はそこまで観察するとまた顔を伏せた。


 授業が全て終わり、ホームルームが始まる。

 空也は帰る準備を終え、担任の話をぼーっと聞いていた。

 担任は提出物、明日の行事などを話している。

「えー、あとは図書館の利用ですが、しばらく貸し出しが禁止になりました。どうやら図書室のコンピュータの故障で管理できなくなったということです」

 その言葉が頭にひっかかった。

 担任の話が終わり、解散される。

 教室から次々と生徒が流れ出る。

 部活に行く者、友達と遊ぶ者、帰る者。

 空也が教室を出ようとしたとき、肩をつかまれた。

「おい、部活いこうぜ」

 恭一だった。

 空也は舌打ちをすると恭一の手を振り払い、走って学校を出た。

 今日は家に一回帰ってコンビニに行ってから秘密基地に行こう。

 こうやって空也の一日は今日も終わっていく。


   *


 ずっと目指していた職場に今日から務めることになった。

 期待を胸に準備をし、大都会の中心にある病院に向かった。

 男性にしては大きな目に黒ぶちのメガネをかけて、短めに整えた髪をした男は電車に乗る。

 その男、多田賢治は一番賢い大学で一番の成績を叩き出して卒業した。

 そして、その都市で一番大きい病院に就職した。

 病院に着くと指定された場所に向かう。

 そこの院長がいるらしき扉の前まで行くとノックした。

 扉の向こうから「どうぞ」という声が聞こえた。

「失礼します」

 賢治は頭を下げながら入った。

「おお、君が多田賢治君だね。これからよろしくね」

 院長、だと思われるその人は言った。

 だが、その人は馬のかぶりものをかぶっていた。

「えーっと……」

 それに戸惑った賢治は目を泳がせる。

 とんだ変態病院に来てしまったのかと思った。

「すまないね、顔を見せられなくて。でもね、ここの決まりでね。腕利きの医者は全員こういう風に顔を隠すことにしているんだ。その他にも普通の病院と違うところがあると思うけど守ってね」

 そう言うと、入ってくれ、と部屋にある扉に言った。

 扉が開き、人影が入ってくる。

「これから多田賢治君の担当をする人だよ」

 その担当の人は面を顔につけていた。

 面は額に『2』という数字に、その少し右下に笑ったような目。

 その少し右下、普通の人の左目にあたるばしょに目を閉じて涙を流している絵。

 そして、笑っている目の下に二つの口が上下に並んでいた。

 上下とも笑っているが、上の口は全体が面上にかかれているが、下の口は途中で面からはずれている。

「私の名前は面子です。以後、よろしくお願いしますね」

 声からして女性の人だろう。

「あの、名前なんですか?」

 賢治はおどろおどろにそう訪ねると頷かれた。

「では面子君、彼を案内してあげて」

「わかりました」

 馬にそう言われた面子は自分についてくるように言って扉から出て行った。

 賢治は慌てて頭を下げながら部屋を出て後を追う。

「あの、なんでお面つけているんですか?面子さんって本当の名前なんですか?」

 面子に追いついた賢治は質問した。

「そういうことは詮索しないほうがいいですよ。まぁ、面子というのは本当の名前じゃないですけどねぇ」

 後ろから見た面子は面を固定する丈夫そうな紐が髪の上に見えていた。

 髪は肩辺りまであった。

 複雑な廊下を歩いていく。

 着いた場所は一つの病室だった。

 入るとベッドがあり、そこには一人の少女が寝かされていた。

 目を開けて天井を見つめていた。

「あら、目を覚ましているんですか。めずらしいですね」

 面子はそう言いながら賢治を紹介した。

 だが、少女は耳が聞こえていないかのように、目が見えてないかのように無視をした。

 ひょっとしたら本当に聴力や視力がないのかもしれない。

「多田さん、これからこの子が死ぬまで私達は看病するんですよ」

「え、看病って看護師がやることじゃ……」

「ここは普通の病院と違いますのでね」

 面子はそういうと、手順を説明してくれた。

 食事の時間、決まった時間にトイレにつれていくことなど。

 さらっと「この子が死ぬまで」とか言っているのに後で気付いて身震いをした。

 患者を元気にすることが医者の役目ではないのだろうか。

 賢治は煮え切らない気持ちで面子の話を聞いていた。


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