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第七話 魔王がチート性能すぎる不具合について



 ――――さては僕、死んだ?

 

 

 ふっと浮かぶ疑問。こんな疑問にぶつかったのは僕の人生史上初の事だ。

 ――なにしろたった今、魔王の操る巨竜種ドラグーンの魔光弾(いま名付けた)の直撃を受けたのだ。僕まだこの世界に来て1日も経っていないんですが、いきなりラスボスとか反則では?

 周囲を見回すが、視界は一面の白に覆われて何も見えない。これはやっぱり死んだのか。

 しかし死んだのなら「死んだ?」と考える事さえできないハズだ。哲学か?

 あるいは……もしこの世界が想像通り"ゲーム"なのなら、死に戻り(デスルーラ)したという事も考えられる。だが、今の僕の身体を満たしているのはそういう感覚ではなかった。

 そんなしょうもない事を考えているうちに、ホワイトアウトしていた視界は少しずつ色を取り戻してきた。それと同時に、聴力も徐々に回復を始める。

 そうして僕の目の前に現れたのは――、"壁"だった。

 

 

「大丈夫ですか、行き倒れの人!!

 ちょっと待っててくださいね……!」

 

 

 耳元で響く大声に仰け反る。少女の声だった。

 慌てて辺りを見回す。……そこは、僕たちが巨竜種ドラグーンの攻撃を喰らったまさにその場所だった。何も変わっていない――ただひとつ、僕の前にそびえ立つ"壁"を除いては。

 "壁"は土を押し退けて地面から生えていた。石のような質感で、2畳ほどの大きさだ。

 

 

「安心してください、先ほどの攻撃は何とか"石壁魔術"で防ぎました。

 少し負傷されたかもしれませんが、いま治癒魔術を施しますので……」

 

 

 石壁魔術。そんなものがあるのか……。

 僕は石壁を見る。ヒビひとつ入っていないところを見ると、相当の防御力らしい。

 

 

『ガギャアアァァアアアアァァアアア』



 オーケストラの楽器を全部かき鳴らしたような不協和音。頭上に立つ巨竜種ドラグーン咆哮なきごえだった。巨竜種ドラグーンは天に向かって啼き散らすと、再びこちらに頭を向ける。背中の大男――"魔王"――は、2度3度と杖で背中の鱗をノックした。

 それに応えるように巨竜種ドラグーンはまたしても顎を開く。今度はさっきのような強力な一撃を放つかわりに、小さな光弾を連続して撃ち出してきた。

 

 

「くっ……!

 "(ヴェー)(ヴェ)(シタ)∪⊚(シターア)"……!」



 少女は小さく呪文を呟く。

 僕たちの前には、さっきと同じような石壁が虚空から出現した。全部で4枚ほどだろうか。巨竜種ドラグーンの発射した光弾はことごとく弾き返される。

 ひょっとするとこの娘、結構強いんじゃ……?

 


「……馬鹿に、して…………っ!!

 "(ヴェー)(ヴェ)⊚⊘⊚⊘(アバーブ)"」

 

 

 少女の右手が青紫に光る。

 次の瞬間、少女の手元から光る球が撃ち出された。攻撃の魔術だろうか?

 だが、その攻撃を見るや魔王は杖を振り巨竜種ドラグーンの首元をしたたかに打つ。

 ――巨竜種ドラグーンは一瞬で教会の屋根から飛び上がった。少女の発射した球は巨竜種ドラグーンの脚をかすめ、そのままどこかへ飛んでいく。

 

 

『………………』

 

 

 魔王は何を言うでもなく、僕たちを静かに見下ろしている。

 魔王の乗る巨竜種ドラグーンはそのまま空高く飛翔し、上空をゆったりと廻り始めた。続けざまに他の巨竜種ドラグーンの一隊が降下し、ふたたび魔物をバラ撒く。

 村では至る箇所から火の手が上がり、大量の魔物が村人を喰い漁っていた。

 

 

「……ああ、死だ。死、死、死……。

 死ぬしかないんだ……主よ、すみません。私の不届きでこのような事になってしまい……」

 

 

 後ろから漏れる情けない声。……救導師の男だった。

 笑えるほどに震え、目と鼻から絶え間なく液体を垂れ流している。

 

 

「……いやあの、何してるんですか。

 魔王が強いのは分かりましたけど、あなた村を護る立場ですよね?」

 

「……はっ、だから言ってるだろう……!

 何をしても無駄なんだよ。無駄、無駄なんだ、もうオシマイなんだよ……!

 ……わかった、特別に見せてやろう。本来は私のような救導師クラスでなければ、とても触れられない魔術なのだが……」

 

「見せる? 何を……」


「いいから!

 ほら、眼を閉じて」

 

 

 救導師は僕の両目に触れると、小さく呪文を唱えた。

 

 

「"(ヴェ)(シター)(ヴェ)(シター)(フィダル)(ミグ)⊚⊚⊘⊘(アーブーブ)"。

 ……さあ、目を開けなさい」



 眼を開く。

 ――僕の目の前に立つ救導師。その頭上には、

 

 

 "フォールト・フィデルヴィウス ATK 129 / DEF 548 HP 1382/1385 "



 という白文字がポッカリ浮き出ていた。文字の下には緑色の横長なバーが表示されている。

 あー、なるほど……。

 

 

「……文字が見えるか? それは、今掛けた情報魔術が見せているモノだ。

 "フォールト・フィデルヴィウス"というのは私の名前。それから、横にある文字と数字は……」

 

「……大体分かりました。攻撃力と防御力、それから体力ですね?」


「…………? よく分かったな、魔文字の勉強もしていない者が……。

 まあいい、それなら話は早い。頭上を見るのだ」

 

 

 救導師が上空を指差す。夜空には、魔物たちの身体情報ステータスが大量に蠢いていた。いずれも文字は血のように赤い。

 そしてその中心の一点……台風の目のように空いたそこに、その赤文字は浮かんでいた。

 

 

"『魔王』 ATK 1529300 / DEF 497210 HP 2469120/2469120"



「……いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……」


「152万だ。攻撃力152万、防御力49万、体力246万」


「……ちなみに、僕は?」


「君か? 君は攻撃3、防御5。体力31。

 まあ、戦闘職でない一般人の中でも"特に弱い方"だな。ちなみにうちで飼っているヤギが攻撃12、防御10の体力89だ。

 まあ、君なら80万回も攻撃すれば魔王は死に至るのではないかね。私なら2万回。無論、攻撃中に少しでも隙を空ければ回復されるだろうが」

 

「……冗談ですよね?」


「冗談ではない。だから言ったのだ。

 終わりだ、とな。そこらの魔物どもは、魔王がここにいる限りほとんど無限の魔力供給を受ける事が出来る……つまり、体力を回復し放題というコト」

 

 

 辺りでは、少女が群がる魔物と戦闘を繰り広げていた。少女が攻撃するたび、魔物は血を流して吹き飛ぶ――だが、数秒もしない内に魔物は傷を癒し、ふたたび少女に向かっていくのだ。

 少女の頭上に赤文字で表示される体力は、度重なる魔物の攻撃でみるみる減少していた。

 ……って、あれ? と、いうことは…………。


「太刀打ちできるのは帝国軍くらいのモノだ。我々に出来る事は、ない」


 救導師が畳み掛ける。その目にはどこまでも暗い諦観を宿していた。

 なるほど、これは勝ち目がない――。

 

 ……あの、魔王がいる限り。

 

 僕は平原での出来事を思い出していた。グレート・トロルとの戦闘、そして謎の勝利。

 僕の予想が正しいのなら、この世界では――

 

 

「……わかりました、状況が」


「ようやく分かってくれたか? 我々の運命を。

 もはや手は尽くした、ただ主に祈るのみ……」

 

「……要は、魔王を倒せばいいんですよね?

 僕、ちょっと試してみたいことがあるんですけど……」

 

「そう、魔王を………………………………………………………………、

 ………………………………………………いま何と?」

 

 

 僕の眼の前には大きな馬車がいくつも横倒しになっていた。村人が家財を持ち出そうとして、そのまま放置した馬車だ。周囲には、家具や樽が無造作に転がっている。

 ……ワンチャン、賭けてみる価値はあるかもしれない。

 

 

 

「……この世界ゲームでは、魔王をブッ飛ばす事が出来るかもしれません」

 

 

 

─────────────────────────────────



 暗闇に閉ざされた一室。

 煌々と光るディスプレイを見ながら、男が唸っていた。



『……こいつ、まさか"アレ"をやるつもりですか……!?

 甘く見ていたが、何と言うヤツだ……!』

 

『アレ、って何ですか? センパイ』


『…………分からないですかねぇ? 世界法則への叛逆。理の悪用……

 "在ってはならない現象"の再現。……どうやら、とんでもないプレイヤーを紛れ込ませてしまったようですねぇ……』



『…………すいません、そんなカッコつけた言い方とかいらないんでもっと要領よく説明してくれませんか』


『うるさいですねぇもう!

 分かりましたよ、言いますよ。これから起こる事は――』



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