#8 夢現(ムゲン)とエンブレムの武器
試練から帰って来られた遼と鈴。
試練のあの世界はなんだったのか。
試練で二人にどんな変化が?
今回めっちゃ書くのに時間がかかってしまった。
「どうやら命拾いした様だな。毎回この試練には肝 を冷やす。」
「師匠、リョウとレイちゃんは大丈夫なんですか?」
ルルは心配そうな目で紋章の中で倒れている二人を見つめたままクロサイトに尋ねた。
「あぁ。もう大丈夫だろう。もう目が醒めるはずだ。」
はぁ〜
大きく安堵の息を漏らし、ルルは潤んだ瞳をサッと手で拭きさり、胸の前で両手を組み祈る様な仕草をする。
「良かった。二人とも無事で。早く目を覚まして。」
それから小一時間ほどして遼と鈴が不意にパチリと目を覚まし上半身を起こした。
「ふぁー、疲れたぁ!なんでこんなに疲れてるんだ?」
「ルルお姉ちゃん、ただいま〜〜もう私クタクタだよぉ、一体どれだけ私達寝てたの?」
二人とも全身の倦怠感が抜けず立ち上がれるほどの力が入らない。
ルルは二人に駆け寄り二人を抱きしめた。
と同時に堪えていた涙が堰を切ったように溢れ出した。
「も〜〜〜〜っ!!!
よ、よがっだですぅ〜っ!!
二人の目が覚めなかったらどうしようって本当にしんばいしだんですからぁ〜!!」
「 ルル、ゴメンね心配かけて。で、でも・・」
「ルルお姉ちゃん、ありがと。で、でも・・」
「「チョット、くっ苦しいぃ。」」
二人の顔が徐々に青ざめていく。
ルルの豊かな胸で口と鼻が圧迫され呼吸出来ない。
「ご、ごめんなさい!嬉しくてつい力が。」
ルルは慌てて二人を解放する。
遼と鈴は大きく息を吸込み、酸素を肺に送り込み深呼吸した。
しまった。もう少し我慢したら良かった
そう考えた遼の視界に、ふと自分の手の甲が入ってきた。
そこにはこれまで自分の手に無かった紋章が深い海の底をイメージさせられる濃い青で描かれていた。
それは遼と鈴が座り込んでいる床に描かれた紋章と同じものであった。
「お兄ちゃん、見てこれ!」
遼の顔の前に鈴が突き出した右手の甲にもやはり同じ紋章があった。
ただ色は異なり燃える炎の如き赤だった。
「二人とも無事生還出来たな。良くやった。ハートとエンブレム、両方共身につけられたようだ。死ぬかと思っていたが意外にしぶといな。」
クロサイトが遼と鈴に微笑を浮かべ話しかけた。
その表情から内心は安堵しているのが見て取れる。
「酷っ!!」
「本当だよっ!私もお兄ちゃんも凄く怖かったんだから!お父さんとお母さんが化け物になっちゃうなんて悲しかったんだから!」
遼と鈴はクロサイトに素直な感想というか文句を言い放った。
「ねえ師匠、オレ達元の世界に戻ってたんだけどあれは夢だったのかな。」
「お前達が行ってきたのは夢でも現実でもない世界。夢現と呼ばれる世界だ。夢現に入った者が刺され出血すると現実の身体にも刺された傷ができるし出血もする。夢現(ムゲンで死ねば現実の世界の身体も息絶える。」
「じゃああの世界のお母さんやお父さんが死んじゃったらどうなるの?」
鈴が恐る恐るクロサイトに確認した。
夢現で二人を倒してしまったからだ。
「あの世界の住人はこの世界や地球に住む人間とは繋がりはない。だから地球に住んでいる君らの両親には影響はしない。夢現の住人は君らの思考から一番大切な者や最寄りの世界を読み取ってそれを世界に投影することが可能なんだ。」
「相手の一番弱い所を突いてくるわけだ。汚いよなぁ。そりゃあさぁ、偽オヤジが言ったように楽な方が良いよ。痛いことだって嫌だし死にたくない。俺たちが世界を救ったって誰にも見てもらえないし褒めてもらえない。」
遼は眉を寄せた。
「・・・じゃあ何故お前は楽な道を選ばなかったんだ?」
「だってお父さんが何時も言うことと真逆のこと言ったから。怪しいって。あんなに優しくねえし。」
「いっつも厳しくて煩いもんね〜、二人とも。」
「だよな。まあそのお陰で今回はすぐニセモンって分かって命拾いしたから煩い父さん達に感謝しとくか。」
「ププゥっ〜〜、怒られた時に何時もブツブツ文句言ってるのお兄ちゃんじゃん。」
「うるせっ!黙れ鈴。」
「どれだけ親に言われようが最後に決めたのはお前達自身だ。お前達は自分の意思で楽な道を選ばず帰ってきた。夢現に取り込まれたら魂は消滅して身体に帰れなくなり身体は朽ちた。そして世界は終わっていた。」
「そうですよ!リョウもレイちゃんも本当にスゴイわ!弱い気持ちに勝ったのよ。やっぱり勇者様なのね。」
ルルが目をキラキラさせ二人を尊敬の眼差しで見つめる。
「いやぁ〜、それ程でもぉ。」
「キタァ〜お兄ちゃん、モテ期だよ、モテ期!」
「・・リョウ、レイ。おふざけはその位にして本題に入るぞ。これからお前達の手の甲に浮かんだエンブレムの使い方を説明する。」
「「エンブレム?」」
遼と鈴は同時に右手の甲を掲げてマジマジと凝視した。
「それは、勇者の印ですよ!」
「正式にはエンブレム・オブ・ザ・ブレイブと言う。ルルの言ったとおり勇者にしか現れることのない印だ。それと。」
「「それと?」」
「その勇者はエンブレムに望めばその武器を創造する事ができる。」
「?? 創造って作るって事だよね。どうやって?」
「手を前に出して自分が望む武器を想像してみろ。」
遼は言われるがまま右手を前に差し出して目を瞑った。
武器、武器、武器・・・何がいいかなぁ
でっかいグレートソードもカッコいいし、片手剣二刀流も捨てがたい。
いやいっそ剣はやめて魔法銃みたいな遠距離攻撃武器ってのもありかぁ〜〜〜〜!そうすりゃ怪我しなくて済むかもしれん。そうしよう!
「よーっし!来い!俺のオリジナルスペシャルウエポンよ!!」
日本の街中でやったら周囲が一斉にドン引きするくらいかなり恥ずかしい中二病な掛け声を大全力で叫ぶと遼のエンブレムが一瞬輝き、次の瞬間には遼の手に武器が握られていた。
「キターっ!おおっとこれが俺のスペシャルウエポン、マジックショット!?
って??
・・・・・武器これ? マジ?」
遼の手には何処かの剣道部で使われているようなごく普通〜〜の竹刀が握られていた。
「師匠!、ダメだ!これナシっ!やり直し!」
「無理だ。一度決まった武器は変えられない。」
「なんで竹刀!?
こんなので世界救えっておかしいやろ?
あ〜〜無理、ムリ、絶対救えない!
ヤル気一気に萎えたぁ〜。」
「え〜でもお兄ちゃんにピッタリじゃん。武器のイメージがそれしか出来なかったんじゃないの?
シ、ナ、イ!ププッ!
よーし、今度は私だもんね!
武器、武器。よし決めた!」
鈴は目を瞑り右手を前に突き出すとすぐ様エンブレムが輝き次の瞬間には手に大きな羽がデザインされた
短い杖が握られていた。
「おーイメージしたのとちょっと違うけど、まあ80点ってとこかな〜。」
「鈴、なんだよソレ、魔法使いの杖か?」
「へへへっこれはねぇ〜、教えて欲しい?」
「なんだよ、勿体ぶって。」
「ふっふっふ。これは魔法の羽根ペンなのです。イメージ通りにいけばね。」
鈴はニンマリと遼やルルの方を見て笑った。
鈴の魔法の羽ペン?
それ武器なの?
次回羽ペンの能力が明らかに?!
#9 羽根ペンとハート!