ユリウスとエリザベート
本編主人公のお父様とお母様の過去話です。
私はユリウス・ウィステリア。ウィステリア侯爵家の者だ。
貴族は割と早く結婚するものだが、あいにく相手が見つからなく今に至る。
現在、ウィステリア侯爵である父にあと何年かで爵位を譲る前に結婚しろとせっつかれているが、どうにも悪い噂とはやっかいなものである。
騎士の訓練所で剣術を修めたおかげで剣の腕はかなり上がったが、訓練所では娼館に行く事は普通なせいで最初は無理やり付き合わされていたが、私の人相の悪い顔も相まって何故か女性を遊んでは酷く捨てているという噂が立ってしまった。
そのために普通の貴族女性が近寄ってこない。一夜の関係を求める相手なら別だが。
割と自棄になって娼館に通っていた事もあるが、余計に噂が酷くなったので自分でも馬鹿な事をしているな、と思って辞めた。
きちんと結婚相手を探そうと夜会などに顔を出していた。
ある時に、その中でも夜会であまり見た事のない背の高いとても見た目が派手な女性が目についた。
ストロベリーブロンドの髪の毛が真紅のドレスの空いた胸元に流れ、目鼻立ちがはっきりしていて、ぽってりした唇やボディラインも相まって妖艶な雰囲気を全体的に醸し出していた。
周りもその雰囲気に飲まれ、近づけないように見えた。
その女性について聞いてみると、男を弄んでは捨てている傲慢で奔放な女性だと教えてもらった。
見た目通りなんだな、と思った。
教えてもらった友人に私ならお相手してもらえるんじゃないかとふざけた事を言われたが、彼女も普通の貴族男性からは距離を置かれているようで、少し親近感が沸いたので、私はとりあえずしゃべりかけてみる事にした。
「初めまして。私はウィステリア侯爵家のユリウス・ウィステリアと申します。良ければお名前をお聞かせ願えますかレディ」
彼女はびっくりして少しだけ視線を泳がせていた。
「え…えぇ、私はネイセル伯爵の娘のエリザベート・ネイセルと申します。お初にお目にかかります、ユリウス様」
「エリザベート嬢はよく夜会に参加されるのですか?」
「いえ、あまり…」
「私も最近、夜会に出始めまして…。今日エリザベート嬢を初めて見てとても目立っていたので声をかけてしまいました」
そう言うとエリザベート嬢の顔は曇ってしまった。
「私、たぶんユリウス様のお相手は務まりませんわ」
エリザベート嬢も私の噂を間に受けてるという事か?今度はこちらの顔が曇ってしまう。
「まさか振られるとは思っていませんでした。私は大勢の貴方に言い寄る男性達に入る事は叶わなかったという事ですね」
と、皮肉めいた笑顔で言うとエリザベート嬢は私を見て目を瞠って眉を顰めた。
「!私はそんな人間ではありません…!」
エリザベート嬢はつんとそっぽを向いたように私から視線を外した。
周りから見たら相手にされず、エリザベート嬢が私を歯牙にもかけず振ったように見えただろう。
だが私は見えないようにされたエリザベート嬢の顔を見逃さなかった。
唇を引き結び少し震えており、目には薄く涙が浮かんでいた。貴族なりに感情を表に出さないようにしてるものの傷ついているのは私にはすぐにわかった。
見た目は妖艶な美女なのに、反応が少女のようで予想外過ぎた。
「だから夜会に出るのは嫌だったのです…。失礼しますわ」
心拍数が上がるのを感じる。自分の期待を感じてしまう。
エリザベート嬢も私と同じでは無いのか?
逃げるようにこの場を離れようとするエリザベート嬢を追いかけて、その手を掴んで止めた。
少し進んでいたので、夜会の会場からは離れていて周りの目はあまり気にならない。
「離して下さいませ」
「待って下さい。私も噂に振り回されて嫌な思いをしていたのにあなたにも同じ思いをさせて傷つけてしまったようだ。申し訳ない」
エリザベート嬢は眉を顰めて私を見てきた。
「こんな見た目なのでね。事実を捻じ曲げて好き勝手に言う輩が多いのですよ」
「…私は貴方の伽の相手は出来ませんよ」
訝しげに私の顔と掴まれた手を交互に見ながらエリザベート嬢が言ってきた。
「貴方も勘違いしておられる。私はそんな相手を求めに夜会に参加している訳ではありません。それにそんな噂を真実だと決められ言われる事も不愉快です」
エリザベート嬢は訝しげな顔を少し緩め、不思議そうに私の目を見つめた。
エリザベート嬢も私に親近感を少しでも持ってくれたかもしれない。
「本当に…?夢中にさせておいて酷く振ったとか、一夜の相手しか求めないという噂は嘘なのですか?」
「まぁ一部は本当かもしれませんが…、ほとんど嘘ですね。エリザベート嬢も見た目で勝手に決められてしまうような経験をしてきたのではないですか?」
警戒心を全部解かれた訳ではないだろうが、思い当たる節が多過ぎたのだろう。
少しだけ納得したような顔になった。
「私たちは似た物同士という事でしょうか…?」と考え込んだ様子で言ってきた。
「私も同じ事を考えました。謝罪もしたいですし、この縁を手放したくありません。良ければこの次に会う機会を設けて頂けませんか?噂では無い私を知ってもらいたいですし、噂では無いエリザベート嬢の事を知りたいと思います。夜会では無く、お互いを知るために昼間のデートの誘いにお許しを頂きたいです」
エリザベート嬢の手を離し、改めて姿勢を正して、せめて少しでも誠実さが伝わるように真っ直ぐにエリザベート嬢を見つめた。
そういうと、エリザベート嬢は少し困った顔をした後に、私から顔は逸らさず視線を少しだけ逸らした。後で聞いたところ、誠実に自分の事を人として知りたいと言ってくれた人はいなかったので嬉しかったのだと言われた。
「…はい。私も噂ではないあなたの事が知りたいです」
と少し顔を赤くしてはにかんだ笑顔を見せてくれた。
私がエリザベート嬢を好きになるのに全くと言っていいほど時間はかからなかった。
本編にはあまり関係ありません。たぶん。
恋愛ものが書きたくて、手慰みにちまちま書いておりました。
この二人の話は糖分が高くなるまで、もう少し書いていきたいと思いますのでよろしければお付き合い下さい。
シリーズの番外編ってタグをどうしていいのかわからなかったので、話に合わせてタグはつけました。悪役令嬢はタイトルに入っているので一応入っています。