ヒロイン、ハローワークへ行く
「リーナ・フランツさんですね、担当のオカザキです」
「……どうも」
「番号札をお預かりします。本日は求職登録にいらしたんですね」
「そうよ。ジルスが一回行ってみろって言うから……」
「なるほど、ジルスさんのお知り合いでしたか。ではお話は早いですね」
「あいつったら世界救った後よりも安心した顔してたから、どんなものかと思ったのよ」
「するとフランツさんは再就職する意思はないんですか?」
「……リーナでいいわよ」
「失礼いたしました、ではそうお呼びしますね」
「そうね、本当なら旅が終わった時点で永久就職するはずだったんだけど。まぁそれも今となっては幻だったみたいだし」
「永久就職ですか……あぁ! ジルスさんのところにですね」
「べ、別にあいつってわけじゃないけど」
「ヒロインそのまま結婚説は王道ですからね。とても良い話ではないですか」
「……でも、ラスボス倒した後にあいつったら目標失くしちゃったみたいで。だから、あいつがしっかりするまでは、あたしが支えてやらないとって思って」
「リーナさんはお優しいんですね」
「ち、違うわよっ! ずっと一緒に旅してきた腐れ縁だからよ!」
「まぁ、ジルスさんを支える意味でも、リーナさんも一緒に求職活動をしてみたらいかがですか?」
「あたしも?」
「ええ、悩みも少なからず出てくるはずなので、一緒に分かち合っていけたら素敵だと思います」
「……そうね」
「では、早速ですが……自己分析をしたことはありますか?」
「急になに?!」
「自己分析は結構大切なんですよ。自分にどういう職業が適しているのか、客観的にみる機会はなかなか無いですから」
「適しているかなんて考えたこともないわよ。生まれた時から魔術師になるのが決まってたんだから」
「なるほど。リーナさんは天性の魔術師だったんですね」
「そ。おかげであたしは周りから腫れもの扱いだったのよ」
「では、ご両親も魔術師だったのですか?」
「父親はただの国王だったけども、王妃だった母親は結構すごかったらしいわ」
「ということは、先祖代々な感じですか」
「えぇまぁ、そうなるわね」
「であれば、結構早い段階で職が決まりそうですね」
「どういうこと?」
「先祖代々っていうのは使えるんですよ。例えば医者の家系、公務員の家系、音楽家の家系とかですね」
「それってコネってこと?」
「ダイレクトな言い方するとそんな感じです。地方ではコネの力は根強く残ってるのが現状です」
「でも今どき親の力なんて嫌……」
「リーナさん、もっとフランクに考えましょう」
「え?」
「そういう家系に生まれたのは変えようもない事実なんです。それを活かすか殺すかはあなた次第なんですよ」
「そうだけど」
「実際、最後のひと押しが足りずに、希望する職業に就けなかった人を何人も見てきました。ジルスさんのためにもここは飲み込みましょう」
「……わかったわ」
「わかって頂けて何よりです」
「ちゃっちゃっと進めましょ」
「では、いくつか質問を。リーナさんはどっち系でしたか?」
「どっち系ってなによ」
「簡単に言うと支援系か妨害系かということです。
①支援系→味方の防御力や素早さなど能力アップタイプ
②妨害系→敵の体力や魔力などを奪う能力ダウンタイプ
リーナさんはどっちでしたか?」
「妨害系よ」
「クラスチェンジ、でしたっけ? その前からですか?」
「あぁジルスから聞いたのね。クラスチェンジの前はどっちもアップ系の魔術もあったけど……、あたしは妨害系に進んだの」
「それはどうしてですか?」
「どうしてって、やっぱりジルスと一緒に前線で戦いたいじゃない。後ろで守られてるなんてまっぴらゴメンよ」
「なるほど。わかりました」
「妨害系だとやっぱイメージ悪いかしら?」
「いえいえ、そんなことは。ただ、やっぱり支援系の方が転職や再就職に有利なんですよ。どんな企業でも縁の下の力持ち的な人はいますからね」
「ふーん……」
「でも、リーナさんの前線で戦いたいという思いは、とても営業向きですね」
「営業?」
「そうですね、一日中会社でパソコンに向かうよりは、自分で動いて会社の力になる方が向いている、という事です」
「なるほどね……」
「と、まぁこの質問だけで決めつけるのはどうかと思いますので、こちらをお渡ししておきます」
「これは?」
「自己分析シートです。こちらの質問に答えていくことで、自分が何に向いているのか教えてくれるのです」
「結構、質問の数が多いわね」
「そうですね。ですからこちらは一度お家に帰ってやって頂いて、後日持ってくるというのはどうでしょう?」
「そうね、その方が気が楽ね」
「それと確認ですが、リーナさんも時空越えしましたか? 特別手当があるのですが……」
「あたしは越えなかったわよ。その時は敵に掴まってたから」
「であれば、問題ないですね。次回までにシートの記入お願いします」
「オカザキさん」
「どうされました?」
「そのっ、色々……ありがとね」
「いえいえそんな、言ってしまえばコレが私の仕事ですので」
「ジルスから聞いててどんな人かと思ったけど安心したわ」
「それは何よりです。すっかり暗くなりましたのでお気をつけてお帰りください」
「じゃぁ、また」
「それでは、お疲れ様でした」
次回更新予定
・元ヒーロー、再びハローワークへ
もしくは
・元ヒロイン、自己分析に苦戦