元ヒーロー、魔の13番窓口へ
「ジルス・ラズリードさん、こちらへどうぞ」
「あ、はいっ……!」
「こちらのカーテンの奥で座ってお待ちください」
「カーテン……」
「少し取り調べ室みたいになってますけど、リラックスしててくださいね」
「わかりました」
「はいお待たせ、健康保険料の免除についてだね?」
「そうです、よろしくお願いします」
「えーと……、現在は失業中?」
「求職中です」
「あーこりゃ失敬。で、いくらぐらいなら払えそうなの?」
「いくらって……正直なところ全額免除してもらえませんか?」
「全額、ねぇ……」
「はい、部屋を借りているので家賃も払わなきゃだし、雇用保険もでないみたいなので生活するのがやっとなんです」
「なるほど、家賃の支払い。他に固定支出ってあるの?」
「家賃の他は、奨学金の支払いもあります」
「奨学金の返還かね?」
「はい、母子家庭だったので奨学金を借りて進学しました」
「ほぅ、お母様はいまどちらに?」
「田舎で一人で暮らしています。もう定年退職してるんですが、年金受給までまだ期間があるので毎月生活費を振り込んでます」
「そりゃまたご立派で」
「そんなことないですよ。前職に就いてた時は色々無茶して迷惑かけてきたんで……」
「前職って? あ、ここに書いてたね……ヒーロー?」
「自分ではあまり言いたくないんですけど、“存在は人々に認識されず、エンディング後はひっそりと暮らした”系のです」
「そんなヒーローってあるのかい?」
「え?」
「私らの時にはヒーローって言ったら、空飛んだりとか街救ったりとか……みんな知ってるもんだったっけな」
「……そうなんですか」
「電話ボックスで着替えたことは?」
「え?! ないですよ! だいたい電話ボックスって……」
「3分間が勝負だったんだろ?」
「3分どころじゃないですよ! ラスボスは20分くらいかかりましたよ!」
「なんか噛み合わねぇな……」
「え? 戦闘時間のことじゃないんですか?」
「変わっちまったのかねぇ……。ま、とりあえず審査してくるんで少し待ってるんだな」
「はい……(今から審査?)」
「おっと忘れるところだった。ヒーローだった証明は? ある? ない?」
「はぁ、免許証とかではなく?」
「違う違う、ベルトとか眼鏡とかステッキとかコンパクトとか……とにかくなんか使ってたそれらしいもんだ」
「それらしいって、何かアバウトですね」
「で……どうなの?」
「装備ってことですか? 最終装備はエンディング後に戻って来たときに換金しちゃったんでないです」
「はじめの頃使ってたやつでもいいぞ」
「あ、最初から持っていた剣ならあります!」
「ほぉ、物持ちがいいな」
「って言っても、もしかしたら最強武器なるんじゃないかと思って持ってただけですけど。……結局ならなかったし」
「じゃぁそれ、今度くるとき持ってきて」
「わかりました。あの……ヒーローの証明ができれば免除してもらえるんですか?」
「まぁ……程度によるが可能性は大きいだろうな」
「そうなんですか」
「いつの時代もヒーローは、俺たちみたいな一般人よりも多くのものを犠牲にしとるもんだからな……」
「あの…………?」
「おっといかんいかん、じゃ向こうの待合席で待ってて」
「あ、よろしくお願いしますっ」
「ジルス・ラズリードさん」
「はい」
「お待たせしました。審査の方が終了しまして、健康保険料は全額免除になりましたよ」
「え! 本当ですか?!」
「はい、全額は珍しいです。良かったですね」
「ありがとうございます、あの……さっきカーテンの向こうで対応してくれた方は?」
「あぁ、免除の審査員は別の方とお話中です」
「そうですか……」
「払えないだとっ?! 甘ったれるんじゃねぇ!!」
「だ、だって仕事がなくて~……」
「仕事がないんじゃねぇ! 選んでるからないんだろ!!」
「すみません、気にしないでください。いつもこんな感じですから」
「は……はい……、すごい声ですね」
「では、さきほど聞いたかと思いますが、後日ヒーローの証明だけ持ってきてください」
「わかりました」
「それでは、お疲れさまでした」