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これはひどい短編集。

たとえばこんな魔砲令嬢

作者: 笹の葉粟餅

深夜テンションでやった。反省も後悔もしている。

とりあえず黒い入り江のOPのせい。

どこまでも澄み切った、深い青。

見上げる空はどこまでも晴れ渡り、真綿を千切ったような雲がいくつか、ぽかりと浮かんで漂っている。

吸い込まれそうな青と、からりと乾いた風を心地よく受けているのは、年の頃は十七、八の、緩く波打つアンティークグリーンの髪を肩の少し下で切りそろえ、丈の長い、詰襟の軍装に身を包んだ娘であった。

空を見上げる明るい琥珀色の瞳に漂うのは、深い湖水を思わせる静謐さだ。

派手さはなく、かといって触れなば落ちんといった風情でもなく、控えめだが穏やかな、品のいい端正な顔立ちをしている。

娘の、華奢というのは大袈裟だが、すんなりと細い手首から続く白くなめらかな手の甲の肌には、複雑な魔術の補助術式が刺青されていた。

強力かつ強大な魔術を、より精密にコントロールするため、人体に直接施す半永久的な強化エンチャントは、ミスリルの針で、液化したエーテル結晶のインクでもって施されるが、大の男でも泣き叫ぶほどの激痛を伴うものだ。

それを、両の手に施しているのだから、見た目と中身はだいぶ違っているらしい。

薄いが瑞々しい、淡いローズピンクの唇にあるかなしかの微笑をたたえ、細身のパンツと膝丈のブーツに包まれた長い脚を組み、積み重なった瓦礫の上に腰を下ろし、空を見上げる表情はあどけないのに、ひとつひとつの些細な仕草はやけに艶めかしい。

そこここから、鼻の奥がひりつくような焦げ臭い煙が立ち上り、虚脱しきって呆けた顔をさらす、苦労を知らないきれいな手をした貴族たちを、娘と同じ軍装をまとった者たちが誘導し、納屋に毛が生えた程度のバラックが並んだ、急造の収容所へと集めている。

一度収容されてしまえば、兵士が巡回していることもあり、敷地の外へ抜け出すことは難しい。

仮に兵士の目をごまかせたとしても、収容所の敷地内には、魔獣の中でも人によく馴れ、小型種の部類に入るナイトハウンドと大型犬とをかけ合わせた、特殊軍用犬が放たれている。

小型種といっても、ちょっと小さめの中型馬ほどのナイトハウンドと、子牛ほどもある大型犬とをかけ合わせ作られた特殊軍用犬は、速度では馬に負けるが持久力があり、小回りも利くので、馬より重宝している部隊もある。

森に放しておけば自分で餌を取ってくるので餌代もさほどかからず、主人として認めさせた上できちんとしつければ、わがまま放題の貴族の子供などよりも礼儀正しい「いい子」でいるので、娘の所属する小隊では、移動手段として一人一頭飼っているが、それはとりもなおさず、人を乗せて走りまわれるだけの大きさがあるということでもある。

そんな軍用犬に散々に追い立てられたあげく、最後は喉笛を食いちぎられ、原形をとどめないぼろ雑巾になるまで玩具として扱われるのが分かっていて、逃げ出そうとする者はまずいないし、万が一にも兵士や軍用犬をかいくぐって敷地の外に逃れたとしても、市民に袋叩きにされかねない。

ここ、ヒュブリス王国の王都の防衛の要である二重城壁が、市街の一部ごと、大規模な攻撃魔術の一撃でいともたやすく吹き飛ばされ、浮足立ったところに畳みかけるよう二度、三度と同じ魔術が叩き込まれた段階で、まず市民階級が逃げ出し、降伏した。

都合三度の大規模な攻撃魔術が叩き込まれたのが、市民階級の居住区ではなく、貴族階級の居住区だったことも、市民階級の心情を侵略者寄りにさせていた。

侵略者による略奪や暴行もなく、商人の中には、やくざ者の言いがかりと大差のない理由をつけては小金をせびる、押し貸し強請り紛いの巡回騎士や、何かと袖の下を要求してくる貴族連中よりよほどいいと、好意的な目を向けている者も、少なくはない。

いや、侵略者、と言うには語弊がある。

先に侵略目的で兵を挙げたのは、ヒュブリス王国だ。

長く小競り合いの続いた、隣国のスケトリアスモス王国との紛争が、スケトリアスモス王国側の事実上の無条件降伏で終結し、かなりの領土を割譲させたことが、欲の皮の突っ張った貴族たちを増長させた。

まともな思考力と判断力の持ち主なら、喧嘩を売ろうとすら考えない軍事大国のフォルティトゥドー王国に宣戦布告し、六千からなる師団を国境に向かわせたが、自信満々で国境を越えると同時に降り注いだ閃光に、六千のうちの七割が、何が起こったかもわからないまま、地上から消滅した。

残り三割のうちの二割は、自分の肉体が沸騰し融解する苦痛を味わいながら息絶え、最後の一割は、余波で融解・蒸発した装備に身を焼かれ、それでも死にきれずのたうち呻く肉塊と化したが、欲の皮を突っ張らかせ、一方的に侵略を仕掛けてきた連中を、わざわざ息の根を止め、楽にしてやる義理もないと、彼らを迎撃した部隊はその場に放置した。

師団を迎撃、撃滅せしめたのは、特級戦闘魔術師からなる、総員五十人に満たない小隊であった。

小隊ゆえの身軽さと、特殊軍用犬の機動力とをもってヒュブリス王国深くに切り込み、道中、幾つかの街を陥落させながら、王都の喉元に切っ先を突き立てて見せたのである。

瓦礫に腰かけ、ぼんやりと空を見上げている娘こそが、その小隊の長であるなどと、誰が思うだろう。

だが、事実この娘こそが、小隊――フォルティトゥドー王国戦闘魔術師団特務小隊隊長、アドラステイアその人である。

アドラステイアは、生粋のフォルティトゥドー人ではない。

二年前までは、ヒュブリス王国のとある侯爵家の令嬢であったが、婚約者であった王太子に、王立学院の卒業記念式典の最中、全く身に覚えのない罪で一方的に糾弾され、国外追放処分となったため、亡き祖父のつてを頼りに、フォルティトゥドー王国に単身亡命したのだ。

なお、アドラステイアの国外追放処分の直後、ヒュブリス王国の軍属である戦闘魔術師小隊が上司に辞表を叩き付け集団辞職し、揃ってフォルティトゥドー王国に移住する、という事態が発生したが、彼らの上司の認識では、平民で構成された、雑役ぐらいでしか役に立たない、取るに足らない小隊であったため、引き留めることもなく辞表を受理し、彼らを辞めさせた。

その上司は後日、ストケリアスモス王国との戦争で手柄を立てた第一騎士団と魔術師団の団長に、なぜ辞めさせた、と怒鳴り込まれる羽目になったという。

それはさておき、幼少のころから保有魔力量が尋常ではなかったアドラステイアは、その桁外れの魔力を正しく制御するべく、七十を超えても現役の戦闘魔術師であった祖父に、厳しい指導を受けていた。

戦闘魔術への適性が図抜けて高かったこともあり、指導の一環として、戦闘魔術師団内の平民小隊――アドラステイアの祖父の子飼いの部隊に入隊したのは、十になったかならないかくらいの年のことであり、師でもある祖父が亡くなってからも、アドラステイアは平民小隊の一隊員であり続けた。

平民小隊は、優秀で尊い貴族の血を流させないという名目で、とにかくこき使われる部隊であったため、貴族の子弟子女であれば、十四になれば通うことになっている王立学院で、優雅に学生生活を送る余裕など、小指の先ほども存在しない。

王立学院の学院長とは、幼少の頃から肩を組み馬鹿をしてきた親友であるアドラステイアの祖父の「お願い」で、書類の上では通っているようにとり繕っていたに過ぎず、卒業記念式典で王太子が糾弾したような罪――いわく、王太子と心を通わせ、相思相愛となった腹違いの妹を妬み、虐げたというものだったが――など、そもそも犯しようがないのである。

次世代を担う王太子の出来がこのお粗末さな上に、時には命がけで諫言すべき側近候補は節穴目玉のイエスマンばかり。

王妃はそんなお粗末な王太子を叱るどころか、そのお粗末さを高貴な血ゆえの鷹揚さだの何だのと誉めそやすばかり、王は王で、王妃と王太子にあるべき王族の姿を示すどころか、愛妾の機嫌取りの贈り物のための金を国庫からどう出すかに腐心してばかりで、アドラスティアのただでさえ低いヒュブリス王国への忠誠心が擦り切れるのには、十分であった。

ゆえに、アドラステイアは一切の慈悲も遠慮も容赦も躊躇いもなく、彼女と彼女の部下たちを受け入れ、正当な評価を与えたフォルティトゥドー王国のため、ヒュブリス王国を叩き潰すことに全力を出すことができた。

冗談のような莫大な魔力量に物を言わせて再現した、前世の記憶・・・・・にある荷電粒子砲を、かつての同僚たちに、眉ひとつ動かさず叩き込める程度には。

もっとも、同僚といっても、戦場にあっては彼女の所属する小隊の戦績を横取りする屍肉食い相手に、仲間意識など小指の先ほども持ちようがなかったので、だから何? ではあるのだが。

収容所への移動がひと段落したところで、アドラステイアは組んでいた足を解き、瓦礫の上に立ち上がった。


「さて、馬糞はきちんと片付いたようだね。それじゃあひとつ、肥溜めの天辺で、目を開けたまま夢を見ている蛆虫どもを現実に引きずり降ろし、目を覚まさせてあげようじゃないか」


耳に心地の良い、そこはかとなく品のある柔らかいメゾソプラノが、不釣り合いな粗野な台詞を朗々と謳い上げる。


「さあ、諸君。教育の時間だ――征くぞ」


薄い唇が、美しくも酷薄な三日月の形を描いた。





ヒュブリス王国の王族が、王城だった瓦礫の山の前で揃って吊るされたのは、開戦からわずか半月後のことであった。

大義のない侵略を是とし、無意味な戦争を推し進めた宰相とその息子をはじめとする、積極的に戦争を推し進めた貴族の主だった者たちは、王族に先立ち、王都最大の広場に吊るされた。

先の戦争で挙げた手柄に続き、軍事大国であるフォルティトゥドー王国を屈させたという名誉を求めて出征した第一騎士団と魔術師団は、国境でその半数以上が一瞬で蒸発、残る半数も、時間差はあれど残らず名誉なき戦死を遂げたため、吊るされることはなかったが、憎まれ罵られることはないが、悼まれも弔われもしない、ただ忘れられるだけの無意味な死であることを考えれば、果たしてどちらがましであろうか。

処刑を取り仕切ったのは、戦後処理のため派遣されたフォルティトゥドー王国の文官からなる一団の護衛団長を務めた、フォルティトゥドー王国近衛騎士団の副団長である。

王太子や取り巻きのそれとは違う、野性と知性を兼ね備えた、男性美の極致ともいうべき端正な容姿と、無駄なく鍛え上げられた逞しい肉体を持つ副団長を一目見た王太子妃は、場所も立場もわきまえず、べっとりと媚をへばり付かせた猫なで声を上げてすり寄ろうとしたそうだ。

どこから漏れたかは不明だが、処刑当日には広くその話が知れ渡っており、困窮する民のためではなく、己がより豪奢で贅を尽くした生活を送るため、侵略戦争を主導したとして、王太子と共に王太子妃が広場に引き出された時には、腐った卵や罵声のみならず、拳ほどの石まで投げつけられ、吊るされる前の段階で、すでに見られたものではない姿になっていたという。

戦犯への処置と並行して、領民に対する残虐行為で多くの貴族が裁かれ、領主不在となった領地にはフォルティトゥドー王国から代官が派遣された。

残る貴族たちも、玉ねぎの皮を剥くように外側からじわじわと特権を剥奪されてゆき、緩やかな凋落の末、二年と経たず領地を手放すこととなり、最後のヒュブリス貴族領がフォルティトゥドーの代官に委ねられた時点で、ヒュブリス王国は完全に解体された。

最大戦力であったアドラステイアは、かつての自領に代官として赴任したものの、ヒュブリス王国にいた頃から仕えていた侍女を代官として立て、自らは専ら、戦闘魔術師特務小隊隊長としての仕事に専念していたという。

数年の後、アドラステイアは、代官とした侍女を養子にし、侍女の秘書として領地経営に携わっていたフォルティトゥドー貴族の四男との縁談をまとめ、領地を二人に丸投げして近衛騎士団の副団長に嫁いだが、嫁いだ決め手は、


「何かもう、これ以上逃げ続けたら、ストーカーとかヤンデレとか拉致監禁とか、そういう洒落にならない方向に逝きそうな気配がしたので、諦めるしかないかなと思いました。あと副団長を一途と言った節穴は、この後兵舎裏に来るように。一途さんに失礼なこと抜かしやがらないでください。あれは残念でガッカリなイケゴリです」


だそうであるが、嫁いでからはそれなりにいい関係を築いてはいるらしい。

少なくとも、不幸ではないだろう。

第一子を腕に抱いて笑うアドラステイアの顔は、とても美しかったのだから。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 装飾過多。 1つのものを表現するために、これでもかと言葉を並べたて盛っている点。 すっきりさせたら半分以下の文字で済むと思います。 もし、こんな言葉も知っているんですと見栄を張るためだ…
2017/02/12 10:09 盛り盛り山盛り
[一言] かなり読みにくい もっと整理してから文章にしましょう 100点満点中3点です もっと頑張りましょう
2016/08/28 01:50 国語の先生
[気になる点]  半年前までは、フォルティトゥドー王国のとある侯爵家の令嬢であったが、  婚約者であった王太子に、王立学院の卒業記念式典の最中、全く身に覚えのない罪で一方的に糾弾され、  国外追放処分…
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