第三話
今、僕は幸せです。でも、こんな幸せな日々もいつか終焉を迎える事になるだろう。何故なら、僕が実は死んだ真綾さんじゃ無いって事はいつか必ず真羅ちゃんに知られる日が来るはずだから……僕はそれが怖い。死ぬ程に……でも、偽りの姉として真羅ちゃんの前に君臨する事は正しい事なのだろうか? 人はいつか死ぬ、その事を逃げて別の人に挿げ替える。そんな選択が果たして彼女の為になるのだろうか?
「人が死んでも……受け入れたく無い事だって受け入れなきゃいけない事はあるんだ……」
『コンコン』
僕の部屋のドアが軽いノック音を立てる
「は、はい。どうぞ」
「お姉さま……今日のお姉さま、何だか難しい事を考えてるみたいで……うぅん。何だか私に隠し事をしてるみたい……」
「そんな事無いよ。久しぶりの我が家だってのに自分の記憶に曖昧な所があって少し困ってるだけだから……真羅が心配する事じゃ無いよ」
「そうですか……今日はお姉さまに少しお話したい事があるんですが……その、よろしいですか?」
僕の心臓がバクバクと鳴り響く。まさかバレちゃった? うぅん、僕の今までの言行は完璧で男の子だとバレる事なんて一切なかったはずだ。うん、これはきっと別のお話だ。うん。
「な、何かな?」
「あの……お姉さまは……恋愛とか……その、お得意ですか?」
「真羅にも好きな人が出来ちゃったの?」
首筋からおでこまで真っ赤になった真羅ちゃんを見てたら僕が男の子だとバレた心配はなさそうなので少しだけ安心した。でも、真羅ちゃんも恋愛する年頃なのか……
「で、誰が好きなの?」
「えっと……この人……」
真羅ちゃんが自分の持っていた本のページをペラペラとめくった。良くみたらその本は僕の学校のアルバムであった。
(へぇ……僕の学校の人が好きなのか……)
とか思いながら僕はペラペラとめくって行くページを見ながら真羅ちゃんが指をさした先の顔写真を眺めた。真羅ちゃんは代わる事なく顔が真っ赤のままだ。でも、この人は……
「へ、へぇ……良いんじゃないかな……うん、僕は真羅が選んだ人なら良いと思うよ?」
「今、すっごく適当な事言いませんでしたか? 実はお姉さま恋愛の経験無いんじゃ無いですか?」
「経験って程でも無いさ。僕の好きな人はもう死んでるしね……」
僕は恋愛の会話が嫌いだ。何故なら嫌でも皆が好きな人とかを思い出さないといけなくなってしまうから……僕の好きな人はもう死んであの世に逝ってしまっている。命の脆さと儚さを知った時でもあった。恋愛の話をされるとあの人を思い出して涙が出て来てしまう。
「お姉さま……私がずっと側にいます。ですからお姉さまは何も悲しい事は無いですよ?」
「真羅はこの人が好きなんでしょう? なら、いつかはいなくなってしまうよ」
真羅ちゃんの恋愛相手が僕なんだから基本的にいなくなる事は有り得ないんだけど僕は少しだけ意地悪っぽく言ってしまう。
「大丈夫です。泣き虫お姉さまを一人には出来ませんから」
先程までは顔を真っ赤に染めていたのに今度は胸を張って誇らしげに言う真羅ちゃんを見ていると悲しい所かおかしな気分になって自然に笑えていた。
「もう、この妹ちゃんは……そうゆう事なら、ちょっとは頼りにしちゃおうかな」
本日は真羅ちゃんと一緒に寝る事になった。まぁ側にいてくれるだなんて言ってくれた日だし、今日くらいは……今日くらいは……ね
この日は、何も真羅ちゃんに感じる事は無かったが、この次の日の朝からだった。僕が彼女に……真羅ちゃんに恋心を抱いてしまったのは……