第二話
僕は僕なりにクラスの注目を浴びながらも僕なりの日常を送っていた。
僕の日常が崩壊したのは学校が終わって放課後の帰り道。僕の横にリムジン級の大きな車が止まって中から黒服を着た男の人が4名と、いかにもお嬢様ライクなクロイドレスを着た可愛らしい女の子が出て来た。
「真羅様。このお方で間違い無いと思われます」
「……お前、名は?」
「え? あ、ぼく? えっと、安藤真綾……だけど?」
な〜んで僕ばっかりが朝からからまれなくちゃならないのかと理不尽な事を思いながらも可愛らしい女の子に目が釘付けになってしまう。やはり僕の本当の性別は男……だし十数年も続いた男の習性は簡単には消えないのだ。
「お、お姉さま……真綾お姉さまっ」
急に真羅と呼ばれた女の子が僕の胸に飛び込んで来た。恥ずかしいやら嬉しいやらで僕は何が何だか判らなくなりながら少女をしっかり受け止めた。
「お姉さま……私、一日千秋の思いでお姉さまに再び会える日を待ち望んでおりましたわ。さぁ、一緒に屋敷まで帰りましょう」
「オイ。真綾さまをお連れしろっ」
「はっ! 少々失礼いたします」
黒服を着込んだ筋肉質の4名の内の3名に体をがっしりと掴まれてリムジン級の車に乗せられた僕は何も抵抗出来ずにただ誘拐、もとい拉致されるだけだった。
僕の日常はどこへ行っちゃうの……?
僕が降ろされたのは大きな屋敷の庭で見渡す限り草原という感じの広さだった。
「真羅様。お先に本邸へお戻り下さい」
「判ったわ。真綾お姉さま、どうぞ久しぶりの我が家を堪能して下さいな」
「あ、うん……」
真羅と呼ばれた女の子は先に一人で本邸と呼ばれる場所へ帰って行った。
「あの、僕はどうして呼ばれたんですか?」
「偶然だ。真羅様のお姉さまの真綾様は先日お亡くなりになった。が、あの若さで姉を亡くすなど悲しすぎる……我々は真綾さまの代わりになれるであろう人物を探していたが今日、ついに見つかったのだ。あの若き真羅様のタメにお力をお貸し頂きたい」
黒服4人が一斉に頭を下げたので僕は断りきれずに一つ質問をした。
「あの、親とか……学校とかは?」
「既に真綾様のご両親の許可は下りております。学校なら聖・セラフィム学院への転入手続きを明日までに済ませ、制服もご用意出来ます」
「あ、そぅですか……じゃあ、少しだけ……少しだけですからね?」
「ありがとうございますっ!」
黒服がまた一斉に頭を下げ出したので頭を上げる様に説得してから僕も本邸と呼ばれる所に向かった。道中は本物の真綾さんの事を教えてもらいながら……
「旦那様、真綾様をお連れいたしました」
「おぉ……本人そっくりでは無いか……」
「お父様、今まで中流家庭にいた僕にこのドレスは少し慣れないですわ」
「ふふ。我が家にお前が戻ってくるとなると真羅も喜ぶぞ。それの祝いなのだから主役のお前にもドレスは当然であろう?」
ちなみに真綾さんがお亡くなりになったのを知らないのは真羅ちゃんだけらしくて他の人は全員知っているらしい。
僕はドアの隙間から少しだけ顔を出している真羅ちゃんに気付いたので笑顔でこちらに来る様手招きした。
「おいで、真羅……」
僕がそういうと真羅ちゃんの顔は笑顔になり僕の元へ走りよってきた。飛びついて来た真羅ちゃんを受け止めながら、こんな可愛い笑顔を見せられて僕がいなくなったら悲しい顔になるのかと思うと本当の家に戻る事なんて考えられなかった。
でも、僕には真羅ちゃんとの思い出が無い。それをごまかせなくなる日はいつかやって来てしまう。それがいつなのか……それは僕にも判らないけど、僕がこの幼い少女の悲しさを救えるなら……僕は少しだけでも側にいてあげようと決心出来た。