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黒の聖職者  作者: 秋 望
プロローグ 虚構
4/5

4話「滑稽な踊りの幕切れと・・・」

一部始終を見ていたサイコは、自分の誤りを悔いていた。このままでは、自分の目的とは違う結果になりそうだと。

「どうするどうする。同居人の危機が残黒の地雷だったのかぁ・・・」

慌てるサイコは頭をがしがしと掻くと、最後の作戦を実行に移すため立ち上がる。

「とにかく、使えるコマは倒されちゃったし、状況が見れないから・・・そろそろ行こうかなぁ」

感染者の視界ジャックは、咲と真由美が祓われた時点でもう使えない。

脳内干渉では極めて限定的な音声でしか情報を得られないのだ。

だから、動く。

近くで適当な人間を感染させて駒にしようか、などと思案するも、即刻その案を却下する。

(感染はそれなりに体力使うし、面倒なんだよなぁ)

残黒との距離が近づけば近づく程、自分は感知されやすくなる。力なんて使ったらなおのことだ。

策を練りつつピルの階段を降りはじめたサイコの顔に余裕はなかった。

そんなサイコを月明かりが優しく、そしてサイコの思惑を暴こうとするように輝いていた。



二人の浄化を終えた残黒は、倒れていた二人を公園のベンチに座らせた。

まだ意識はないが、じきに目を覚ますだろう。

感染している状態の時の記憶は、忘れるか、かなり曖昧なものとして残るか、の2つのパターンが多い。

真由美は、戦闘時に多少意識があったような素振りをみせていた。

だが、記憶や意識があるというのは、決して良いことではない。自分が異形の化け物となって人々を襲い、そして、奇声をあげ町を闊歩する様を自分で認識してしまう、ということなのだから。

「こいつらに残ってるサイコの力の残滓を辿っていけば、敵本陣の場所は割り出せるかもな」

つまらなそうに呟く。

残黒は二人に意識を集中させ、流れを見極めていく。

「・・・・・・なるほど。案外、距離的には離れてなかったな。それに、予想も当たってたか・・・。まあ、セキュリティもうまく発動したようだし、はじめから・・・・・心配はしてないが」

で、と背後の気配に視線を向ける。

「余興は終わりか?まあ、感染者の視界を共有できるのには驚いたけどな。サイコ」

言葉を受け、木の影から一人の少女が姿をあらわす。

見た目は十二歳程に見える。

「焦っていたのも、全部演技だって言うのかい・・・?」

聞き覚えのある声が直接耳に響く。

暗くてお互いの表情はわかりにくい。だが、サイコの声音から緊張しているような印象を受ける。

「タイミングが良すぎたんだよ。はじめの咲との相対。その後直ぐに緊急の依頼、そして敵からの襲撃」

んで、と少し声高に言う。

「あきらかな嘘が一つ」

「嘘?」

「誘拐だ。それは無理なんだよ、サイコ」

サイコの表情が疑問に揺れ、続きを促すように沈黙する。

「だって、あいつには俺の力をセキュリティ代わりに纏わせてるしな。家にも侵入者用の警備システムが設置してある」

「そんなものーー!!」

「真由美が最後に自我を取り戻したのは、既に浄化の力で反撃を受けて弱っていたからだ。咲と二人で襲ってこなかったのは、俺の部屋に行っていて遅れたから、だろ。」

驚愕の表情を浮かべるサイコは、はじめから看破されていたことに肩を落とす。

「穢れってのは、感染源からしか感染しない。咲は、感染してからさほど時間は経っていなかった。侵食率が低かったおかげで後遺症なく祓えたからな。だから、まだ近くに感染源が潜んでるとふんだ」

少し間をあけてから、続ける。

「俺が通りかかるタイミングでの発症。確信はまだなかったが、狙われたのは俺だと考えた。その後の部屋での視線でようやく確信したんだ」

「じゃあ、咲と真由美がまた襲われることに気づいていたんじゃないかい。それで、二人に何もせずに放置したってわけかぁ。酷いなぁ」

何とか言葉を紡ぐサイコは、言った言葉とは相反して責めるような口調ではない 。

「酷くはないさ。たまたまお前に利用されたとはいえ、姫愛の日常を壊そうとしたんだ。多少痛い目にあうくらい当然だろ」

「・・・・・・!」

サイコは気づいた。今、目の前に佇む少年の異常さに。

今、残黒が言った言葉の異常さに。

つまりは、偶然だろうと、傷つける意志があろうとなかろうと、姫愛を直接的にでも間接的にでも標的にした時点で、残黒の敵になる、ということだ。

過去の二人に何があったか知るよしもないサイコにとっては、酷く歪んだ愛情に思えた。

だが、彼女は笑う。

こんなにも真っ直ぐで、歪みきっている愛情はみたことがなかった。普通の愛情の形さえまともに知らないサイコには、とても魅力的に映った。

「だったらぁ、私も残黒の敵になるってことだよねぇ・・・」

自分がしたのは、未遂であっても残黒達の日常を壊そうとしたれっきとした敵対。

残黒にしてみれば、この騒動の張本人であり、この世界における警察に迷いなく引き渡すだろう。いや、自ら手をくだすかもしれない。しかしーー

「ん~、そうだな」

サイコを見据えながら、何やら考え込む残黒。サイコに対する今後の対応を検討しているのだろう。

「・・・じゃあ、選べ。管理組織に引き渡されるか、俺とくるか」

「へ?」

突然の二者択一の内容に驚くサイコ。

「俺とくるって・・・、残黒と一緒にこれから生きるってことかい?」

動揺しながら聞くと、残黒は当然そういうことだ、といった素振りをみせる。

「確かに、お前がしたことは裁かれるべきだろうが、幸い怪我人すらいないで済んでる。まあ、あの二人も俺がきちんと祓ったから問題はない」

言うと、残黒は手をさしのべる。

「一人は寂しかったろ?今回のは悪戯にしてはやりすぎだが、大目にみてやる。・・・どうする?」

言って小さく笑う。

サイコの顔を窺うと、頬にきらりと輝く一粒の水滴が流れていた。

感染源としての力を持って生まれた自分は、全ての人間から拒絶され、蔑まれてきた。

つながりなんてものは、自分には得られない、手の届かないものだと思っていた。

しかし、こんな自分に手をさしのべてくれる人がいた。初めての、つながりだ。

「行くよぉ・・・!残黒と一緒に生きたい・・・!!」

「そうか」

サイコの手を取り、歩きだす。

サイコの目的、そして願いとは、自分を見て、認めてくれる存在をみつけること。自分の力を見ても、知っても、共に歩んでくれる存在の獲得。

暗く染まった世界を歩く二人を、街灯が照らし出す。

それはまるで、暗闇から出ることを望んだ少女を、その願いが叶った少女を祝うかのように照らしていた。




「ただいま姫愛ーーって、うおっ!?」

なんか既視感が、とか思いながら、腰に抱きついてきた少女を見やる。

碧君(あおくん)!!あおくんが居ない間に大きなゴキブリが出たんです!私よりも少し大きいゴキブリがでたんですーー!!!」

「んなもんいるわけなーーあ」

一つの可能性が頭をよぎる。

(サイコが利用してた感染者のことだな、多分)

おそらくは、セキュリティとやらに迎撃される直前に、感染者を見た姫愛は、あまりの驚きに気を失ってしまったのだろう。

(感染者のあの姿を考えるとしょうがないだろうな。姫愛はゴキブリが大嫌いだしなぁ・・・)

よしよし、と姫愛の頭を撫でながら落ち着かせる。

そんな二人のやり取りを見ながら、サイコは落ち着かないような素振りをしていた。

それに気づいた残黒は、どうした?、という視線を送る。

「いや、あのぉ、あおくんって、だれぇ・・・?」

「ああ、それはな」

と、極々軽い調子で言った。


「俺の本当の名前だ。孤島残黒は偽名で、本名は、天神碧(あまがみあおい)っていうんだよ」



突然の告白に、目を白黒させるサイコ。

感染者を間近に見た姫愛は、気が動転して偽名で呼ぶことを忘れたのだろう。

「まあ、わけありでな。その話はまた今度な。今日は疲れたし、腹も減ったし、風呂入ったら寝よ・・・」

抱きついている姫愛をはがしなから、靴を脱ぐ。

それにならって、サイコも靴を脱ごうとすると、碧が、あっ、と何かに気づいたかのような声をだした。

「忘れてたな。そういや・・・」

碧は、サイコの目を見つめながら、言った。


「おかえり」

「ー!!!」


微笑を浮かべながら、サイコを迎え入れる碧。

状況を全く説明していない姫愛も、笑顔で碧にならう。

「おかえり!」

望んだつながりは、どういったものだったのだろうか。形は歪でも、今は、これで十分だと思う。

少しくらい歪でも、自分を受け入れてくれるこの場所を大事にしたいと、サイコはそう思う。

二人に応えるように、慣れない言葉を必死に紡ぐ。


「ただいまぁ・・・!」


同居人が一人増えた碧の家からは、賑やかで、幸せそうな幼い少女の声が空気におどっていた。

こんなに小説(と呼べるかどうかは置いといて)を、というか、一つの物語を完結まで書いたのは初めてで、達成感が凄いです。(まだプロローグだけですけど)

いやまあ、色々と物申したい箇所はあると思いますが、今はご容赦ください。


読んで頂ければ幸いです。

では、また。



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