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黒の聖職者  作者: 秋 望
プロローグ 虚構
3/5

3話「再びの邂逅」

残黒(ざんく)の脳内には一つの信念が浮かんでいた。

過去に誓ったこと。己に課した絶対的な使命。あの日から、必ず守ると決めた一人の少女。

残黒の脳内には過去の映像が駆け巡っていた。

少し俯向きがちに立っている残黒の表情は窺えず、両目を少しこえて伸びている前髪のせいか、残黒の口元しか見ることは出来ない。その口元は両端が少しつり上がっているようにみえる。

「・・・・・・」

おもむろに顔を上げた残黒は鋭い視線をさまよわせ、何かを探すような仕草を見せた。

そして、気づいた。公園の一画。ブランコが設置してある場所に何かが蠢いているのを。

過去の光景がフラッシュバックし、息をのむ。

「再会ってのはこういうことか・・・・・・!」

形を成していないそれに、それの雰囲気に覚えがある。

「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!!」

言葉にならない声をあげ、それーーー咲は苦しむようにのたうち回っている。

「もう一度穢れを感染させたのか・・・!?」

剣呑とした空気を纏った残黒が問う。

サイコからの反応はなく、脳内に干渉されているような違和感もない。

「・・・っ!」

いつの間にか距離を詰めてきていた咲からの打撃をバックステップで避け、更に後ろに跳躍し距離をあける。動きながらも思考を止めず、次の手を模索する。

短く息を吐くと、大地を蹴る足に力をこめる。

(俺が優先すべきもの・・・。それを間違えるな)

残黒の瞳に力が宿る。目の前の敵を倒す覚悟を秘めた目だ。

浄化の力を右手に展開し、咲の懐に潜り込む。光を纏った拳を咲へ向け突き出す。

咲は身をよじり回避すると、そのままの体勢から左手と思われる部位を横に薙いだ。

地面に手をつき身を屈めてそれをかわし、蹴りだした片足で咲の両足を払う。体勢が崩れ、倒れそうになる咲の胴体に右手を捻り込もうと力を込めたその時ーーー

「さ・・きを・・・いじめるな・・・」

残黒の背中に鈍い衝撃がはしった。

「ぐっーー!!」

突然の攻撃にも動揺せず、すぐさま体勢を立て直し少し距離をとってから、もう一人の敵に目を向ける。

「ぐぁ・・・がぁぁぁぁぁぁーーー!!!」

「お前は・・・確か・・・」

思いついた一人の少女の名前。それは、今日出会った二人目の少女の名だった。

「真由美・・・か」

サイコのシナリオに咲が出てきた時点で薄々気付いていたのか、残黒は冷静だ。

これで、はっきりしたことが一つ。サイコは穢れを感染させる力を有している、もしくは感染源とのつながりがある、ということだ。

感染源は聖浄者達と同様に、突発的な力の覚醒か、生まれつき力を持っているかにわかれ、それに加えて極々希な存在だ。

その力ゆえに見つけられ次第処刑、もしくは人体実験行きというのが定められたルール。

確認できている感染源の所在は今のところ皆無だ。

過去に感染源を捕らえた例は、たったの3件。そういった事情もあり、サイコから得られる情報はとてつもなく貴重なものだ。

それに、と残黒は意味ありげに呟き、小さく笑んだ。

「さてと、もうそろそろ終わらせるか。今楽にしてやるよ・・・もう一度」

浄化の力を右の掌に集中させ、光をねじ曲げて自分のイメージを与えていく。光の輝きとともにそれは形を変えていき、やがてそのうねりが止まる。

空気を裂く音が響き、残黒の手に一振りの剣が握られている。

それはまさに光の剣(ひかりのつるぎ)ーーー天剣(てんけん)

浄化の力そのものを剣の形に成した、残黒だけの武器。

柄から刀身の先まで目映く光り輝いている。

「まずは一人」

脱兎のごとく走り抜け、一気に距離を詰める。

あまりのスピードに反応できなかった咲は、残黒の一太刀を避けきれずに苦悶の声をあげる。

斬られた箇所は再生することなく白く光っていた。

まるで、穢れを許さないように。その存在を全否定するかのように。

反撃を許すまいと畳み掛けるように刃を振るう。

「はーーーっ!!」

気迫のこもった声とともに咲の体を斬りつける。

苦しみの悲鳴を上げながら、咲にまとわりついていた穢れが消滅していく。

祓われた咲の体は地面に横たわっていた。

どうやら外傷はなく、気を失っているだけのようだ。

一息つくと、残りの敵を見据える。

真由美は、何をするでもなく動きを止めていた。目の前で起こったことを理解できているのかどうかは判断しかねるが、どこか落ち着いているようにも見える。

「・・・・・・」

「・・・なるほど。多少は自我を保っているのか。お前は・・・」

まるで、友達が無事に救われたことに安堵しているかのような言い方をする残黒。

「・・・はや・・・く。わたし・・・が、たも・・・っている・・・あいだに・・・!」

搾り出すように口にした言葉は、しっかりと残黒の耳に届いている。

剣を握る右手に力を入れなおし、応えるように、安心しろと言うように一言。

「任せろ・・・!」

一息に真由美の元へと駆け寄り、天剣を振り下ろす。

「ぐあ・・・っ!!!」

苦痛に声をあげたのは一瞬のことで、黒いスライム状の穢れは徐々に消え、真由美から祓われていく。

咲と同様に地面に倒れている真由美の怪我の有無を確認し、短くため息を吐いた。

「異形化してなお自我を保ち、友達を心配するなんてな。この世界・・・・にもまともな奴がまだいるんだな」

こぼれた言葉の真意はわからない。

だが、その響きからは、少しの優しさと、計り知れない憎悪が見え隠れしているような気がした。

これで終わりではない。

まだ、主犯であるサイコとの決着をつけていない。そのうえ、姿すら見ていないのだ。分かっているのは若い女性ということだけで、この情報でさえ間違っている可能性だって有りうる。

それに、姫愛のこともある。残黒にとっては何よりも気になる事柄なだけに、心中穏やかではない。一刻も早くこの状況を打破しなければ、と焦る気持ちを抑え、思考を再開。

時刻は午後7時。辺りは暗闇に覆われ、静謐な空気が漂っている。

残黒の長い一日は、どうやらまだ終わらないらしい。

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