表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の聖職者  作者: 秋 望
プロローグ 虚構
2/5

2話「その理由」

「くそっ。なかなか見あたらねえな」

感染者を見つけることが出来ていない残黒の表情には苛立ちと焦りが滲んでいた。探し始めてから約1時間が経過している。

 依頼メールに表示された位置と自分のいる場所を再度確認する。

 しかし、何度確認しても理解できている情報ばかりで進展がない。

「なんだ・・・この違和感は・・・?」

 ふと、よぎる。残黒の脳内に一つの仮定が、推測が、予感がよぎる。

(位置情報は間違っていない。だとすると、間違っているのは俺ってことになる。正しくは、情報を誤認させられている・・・か)

 両手で頬を叩き、整理する。

(つまりは、俺の脳内に直接干渉しているってことになるわけか。んでもって小一時間も俺をさ迷わせている・・・何もせず。いや、出来ないのか?)

 脳内で思案するものの、決定的な答えを得るにいたるには情報が少ない。辺りを見渡しても馴染みのある光景が広がっているばかりだ。

 ふと、腕に巻きついている時計を確認する。時刻は午後6時。夕日がまだ顔を覗かせ、辺りは赤く染まっている。

「・・・・・・」

仕方ない、と呟き、あたりを見回す。

「お遊びに付き合ってやれるほど、こちとら暇じゃないんでね。そろそろ姿見させてもらおうか」

言うと同時に、残黒の周囲を眩い光が包み込む。残黒を中心に球状に広がっていくそれは半径5m程の大きさになると動きを止めた。

「なるほどねぇ。自身に浄化を施すことで脳への干渉を無効にするとはなかなかだ」

唐突に響く声に軽く身構える。

「警戒しなくていいよぉ、私には、ね。ちなみに私はサイコって名前なんだぁ。まだまだ余興を用意してるからそっちで楽しんでもらえると嬉しいなぁ・・・・・・!」

声からして若い女性だろうと思われるそれは、愉快そうに、そしておもちゃを前にした子供のようにはずんだ声で言った。

「先ずは再会だね。いやぁ、いいねぇ・・・!君はどうするのかなぁ。楽しみだなぁ楽しみだなぁ・・・!」

声は残黒の脳内に響くように聞こえている。先ほどの浄化で完全に祓えていなかったようだ。

思考をめぐらせ、次の行動に移る。

展開していた浄化の力を消し、位置情報を確認。誤認させれていたとはいえ近所をぐるぐる徘徊させられていただけのようで、当初の位置からさほど離れてはいない。

(脳内干渉なんてまねが遠距離からおこなえるとは考えにくい。こっちのことは監視されてるとみてよさそうだな)

事実、あの声の女は浄化の力を使ったことをわかっていた。つまり、力の使用を視ていたことになる。

周囲を見回し、普段の光景との違和感を探る。

「流石に分かりやすい目印は残してくれてないか」

普段の行動範囲内であるだけに少しの異物も見落とすわけがない。よほど上手く隠しているのか、あるいは、と残黒の脳裏に1つの可能性が浮かび上がる。

(だとすると、ちょっと厄介だな。直接の戦闘なら勝つことはさほど難しくないが・・・)

あ、そうそう、とサイコの声が響く。

「お姫様は預かってるからねぇ。大丈夫だよぉ、何もしないから・・・」

「ーーっ!!」

瞬間、残黒の思考が停止した。

「いやぁ、君って結構ちょろいよねぇ。いやまあ、少しの違和感に気づいたのには驚かされたけど、特に何もしていかないからさぁ」

くくく、とこぼすように笑う。

残黒からの反応を待つように沈黙するサイコだったが、反応はいまだない。

そして、気づく。残黒の脳内を伝って感じる一つの感情の渦に。

サイコは自分がしてしまった最大の失敗には気づいていない。触れてはいけない、侵してはならない領域に手をだしてしまったことにーー。



さて、とサイコはとある廃ビルの一室で満面の笑みを浮かべていた。その理由としては、自分の思惑通りにことが運ばれているから、が妥当だろうか。

「さてさて、感染者の視界のジャックは上手くいった。これで残黒は遠距離からの線を捨てたかなぁ。まだ油断はできないけど、ともかくはひと段落かな・・・」

人心地ついたサイコは、自分の近くに転がっていたお菓子の袋を掴むとがさつに封をあけ、貪るように食べ始める。

5年程前に使われなくなったこのビルは、窓ガラスがあちこち割れ、落書きもひどいものだった。サイコがここに居座るようになってからはお菓子の袋や食べかすがあたりに散乱するようになり、以前よりも悪化している。

ふいに、風が5階の窓を通り抜けサイコの長い黒髪を揺らす。サイコの見た目はけして悪くはない。顔立ちは美人の部類にはいるものだろう。だが、ぼさぼさの髪や、眼の下のクマ、身に着けている衣服がボロボロといった要因が彼女の見た目の良さを損なわせている。

「もう一度残黒の様子を・・・・・・っ!!」

感染者の視界を支配し、残黒の様子を伺おうとした瞬間、今まで感じたこともないような寒気に襲われた。それはまるで、死の直前に感じるようなどうしようもない恐怖。心の底から凍てついていくような感覚だった。

「何なんだこれは・・・!!」

冷や汗をかきながら、急いで視界ジャックを再開。

体の内側から聞こえる鼓動の音が徐々に大きくなっていく。

そして残黒の様子を見た瞬間、サイコは気づいたのだ、自分のおかした大きな過ちにーーー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ