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夢小説【短編集】

加奈’s クエスト  ~夢見る大冒険?!~

作者: SR9

 春香る休日のさわやかな朝。

 枕元に置いてあった携帯の音で夢から覚め,寝ぼけ眼で画面を確認。

 ブルブルと震えているディスプレイに浮かぶ名前は,中島加奈。

 大学から数えて4年間の付き合いがある彼女の名前だ。

 加奈は確か今日仕事だったはずだが…,とまだ回らない頭を動かしながら電話に出る。

 

「もしもし,どうした?」


 本当ならもっと寝ていても良い時間だが,大好きな加奈との電話ならいつでも大歓迎だ。

 まだ寝ぼけてぽやぽやしていた俺は,次の加奈の言葉を理解するのに少しの時間がかかった。


『…ごめん。別れよう』

「はいは…………………え?」


たった一言のその電話で,俺,横山幸太は人生のどん底に叩き落とされた。




 加奈’s クエスト  ~夢見る大冒険?!~



「いや,ちょっとま…」


 言い終わる前に一方的に電話が切れる。

 慌ててかけなおしてみても,一向に繋がらない。


 もう一度,自分の置かれた状況を整理してみよう。


 ・俺には4年間付き合っていた彼女がいた。

 ・休みの日に,彼女から電話がかかってきた。

 ・別れを告げられた。 ←今ここ


「嘘…だろ……?」


 何度考えても答えが一つしか出てこない。

 振られた? なぜ?


 付き合い始めてから喧嘩らしい喧嘩をした事もない。

 最近あいつを怒らせるような事もしていない。

 連絡が疎遠になった訳でもない,昨日も一昨日も電話してメールして,愛してる,なんて恥ずかしい言葉も交わした。


 ……でも,振られた。


 考えても答えなんて出ないが,考えない訳にはいかない。

 お互い大学も卒業して,もう少ししたら結婚…なんて言葉もちらついていたというのに,これではあまりに突然すぎる。



 愕然とする俺の手の中で,もう一度携帯が震えた。

 すぐさま確認すると,電話ではなくメールだ。

 それも,見覚えの無いアドレスから。

 首を傾げながらそのメールを開いて中身を確認した俺は,その内容に目を丸くした。



『横山幸太君。君の大切な彼女はこちらで預かっている。返して欲しくば,隣町にある廃工場まで来い。もし来なければどうなるか……分かるね?』





「―――と,いう事があったんだ」

「ふむ…」


 注文したドリアを食べながら俺の話を聞いてくれた友達の太一は,話が終わると深いため息をついた。


「幸太,お前もか…」

「お前もって,まさか太一も?」

「あぁ。俺も先月いきなり彼女に別れを告げられて,数分後に同じメールが来た。その時の俺は馬鹿馬鹿しいと思って行かなかったんだ。でもそしたら…」


 そこで太一の表情が歪む。

 言葉には出さないが,よほど酷い事になったのだろう。

 俺はごくりと生唾を飲み込み,太一の次の言葉を待つ。


「…幸太,俺も一緒に行くよ。お前をあんな目に合わせる訳には行かない」

「太一…」

「他にも同じ目にあった奴はいる。そいつらにも声をかけよう」


 太一はそう言ってポケットから携帯を複数取り出し,同時に電話をかけた。


「幸太が危ない。集まれるやつはすぐに来てくれ」




 集合場所に集まったのは俺と太一を含めた5人。

 その中には小学生からの友人も含まれていた。


「用件は電話で話した通りだ。幸太の為にみんなよろしく頼む」

『任せろ!』


 そして,俺たちは歩き出す。

 加奈の待つ廃工場へ。



 ――絶対に,助け出して見せる――――


































 プルル,プルルと遠くから音が聞こえる。

 完全に覚醒していない頭を働かせ,何とか手探りに音源を探す。

 どうやら携帯が鳴っていたらしい。

 いつものアラームだと思った俺は電源ボタンを押して音を止める。


 しばらくして,また音が聞こえた。

 スヌーズ機能にしては間隔が短い。

 俺は少しだけ目を開け,改めて携帯の画面を確かめる。

 そこに表示されていたのは,中島加奈の名前。


 俺は一瞬で覚醒し,すぐさま電話を取った。



「もしもし,加奈か?!」

『ぅん?! ど,どうしたのいきなり大きな声出して…』


 思っていたより大きな声が出ていたらしい。

 戸惑う加奈に構わず俺は言葉を続ける。


「どうしたもこうしたも,お前から別れ話されて,何か変な奴からメールが来て……」


 そこで,気づく。

 俺は今どこで何をしている。


 起き上がった勢いで上半身から滑り落ちた毛布。

 ふかふかの敷布団に,着慣れたパジャマ。

 焦点が合っていないのは,普段かけている眼鏡をかけていないから。


 それはつまり――




『幸太,変な夢でも見たの?』

「は,はい。そうみたいです……」

『も~,寝ぼけてないで早く起きて。今日が何の日か忘れたの?』

「え~っと…?」

『あ,ひど~い。忘れちゃったの? 今日は付き合って5年目の記念日でしょ? 良いお店予約しよくって言ったのは幸太だからね』

「あ,あぁ。大丈夫だ覚えてる。予約もちゃんとしてある」

『あっそ。ちなみに今日の待ち合わせ時間覚えてる?』

「え? 確か…8時に………駅前…………」

『うんうん,よろしい。じゃあ,今の時間は?』

「えっと……8時…………半です…」

『はい,良く出来ました。………私が言いたい事,分かるね?』

「今すぐ準備して向かわせていただきます本当に申し訳ございませんでした!」

『もし9時までに来なかったら……分かるね?』

「はい分かっております今すぐ行きます!」


 こうして俺の休日は過ぎていく。

 今日も良い日になりますように。


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