出会い
ソアラは引き止めるように叫んだ。
「そっちには何もないわ!」
その声に驚き、振り返る子供。向かい合ってソアラは思わず目を疑う。
仄明るい空間に、子供の眼だけが煌々と闇を放っている――全ての光を呑み込むブラックホールのように。
その深淵に吸い込まれそうになり、ソアラははっと息を呑む。
少しずつ間合いを詰めていくが、子供は固まったように動かない。近くに来て、ソアラはじっと目を凝らす。……見たことのない男の子だった。
畏れと好奇心が入り混じった気持ちを抑えながら、ソアラは気持ちを集中し、手を伸ばす。その指先が男の子の手に触れた時。
――この子……
ソアラは目を見開く。
いつもなら何かしらの像が脳裏に浮かんでくるものなのに、今は何も感じない。何も――見えない。
――心を、閉ざしているの?
ためらいも束の間、ソアラはすぐさま男の子の手をパネルから引き剥がした。
「ばかな真似はやめて……宇宙服なしじゃ即酸欠よ」
ソアラの視線を避けるように、男の子は目を逸らす。
「ねえ……あなた、迷ったんでしょう? SSCは初めて? 家族は――」
パチン、と乾いた音が辺りに響いた。
「……」
男の子は無言でにらみつけ、ソアラの横をあっという間に駆け抜けていった。
ソアラは唖然と立ち尽くす。
「ちょっとぉ……」
弾かれた手がじんとして、ソアラは手の甲をさすった。
――あの子、どうして外なんかに。
非常口の外は二重になったシールドガラスの合間の空間。あくまでも宇宙服で通ることを前提にしているため、室内のように空調設備が十分ではない。極寒の上、空気も薄い。被曝だってするだろう。無防備に出ればどうなるか。
ソアラは芝の上にぺたんと座り込み、すぐ側にあった冷たいシールドガラスの壁にもたれる。向こうに見えるのは……
「地球……そうよ!」
ここから見るよりガラス1枚分、もっと鮮明に見えるはず。あの男の子はきっと、地球の夜明けを見にきたのだ。
*
宇宙の暗闇に光る、宝石のような地球。光に縁取られた地平線の弧から、こぼれるように太陽が煌めく――ダイヤモンドリングのような星の夜明けを、こんな遠くから見ることになるなんて。
ここはSSC――Space Science City 。宇宙に浮かぶ科学都市のことだ。そして今、ソアラは研究施設内にあるアトリウム――〈中庭〉と呼ばれる空地にいる。
ソアラはSSCにしばらく暮らしているが、生まれ故郷は地球だ。地球を離れたのは、幼い頃に孤児になってしまったから。……後に〈沈黙の春〉と呼ばれた世界的災いによって。
その時の後遺症で、ソアラは特殊な視覚になってしまったのだ。




