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9…光の化石

✳︎


 細波が立つように、カイセイは急に視界が広がるのを感じた。

「まぶしい……」

 

〝目を開けてみて〟


「この光は? まさか……」

 

〝そう、宇宙マイクロ波背景放射。あなたは今、遠い遠い昔の光を見ているのよ〟


 ソアラの声が囁くように心に響く。


「キレイだ…こんなの見たことない。透きとおって…鮮やかに光ってる…これが父さんの言ってた光の化石…なのか?」


 ソアラは頷く。手を繋ぐ二人の足元には星屑のような光が散らばる。

 

〝感覚をリンクさせているの。だから私も見えないものが見えている。この芝の庭やあなたの姿がはっきりと〟


 ソアラが微笑む。

 

〝カイセイ…人はきっと誰もが光と闇を合わせ持ってる。喜びや悲しみも…背中合わせで同時に在るものだわ。

でもね光だけではだめなの。闇を知るから人は強くなれる。涙は…いつか誰かを救う力になるわ。大切な人を…守る力よ〟


 繋ぐ手に力がこもる。


〝だから生きて……たとえどんな悲しみを背負っても。目を開けてちゃんと見るの。人は気づかないだけで

…闇と思う所には光が溢れていたのよ〟


 ソアラは手を離すと、両手を肩にあてがい、カイセイのおでこにそっとキスをした。目を丸くするカイセイにソアラは小指を差し出す。

「いつかまた会う時は今度はあなたが…約束。」

寂しげなソアラの後ろで、星がまたひとつ流れ落ちる。

「いつか?」

「私、地球に行くの」

 そう言って、ソアラはくるっと背を向けた。

「あなたも一緒に来ない? 地球に……故郷に帰りたいんでしょ?」

 心なしか、声が少し上ずってしまう自分がいた。


 もし地球に戻ったら、ソアラたちは西の果て、カイセイは東の果て。帰り道は正反対。すぐ離ればなれになってしまう。……せっかく友達になれたのに。


 ソアラがうつむいていると、

「故郷に帰っても…仕方ないよ」

後ろでカイセイがつぶやいた。

「誰も待つ人なんて…」

言いかけて、カイセイは口をつぐむ。

「唄が聴こえたわ」

カイセイははっとする。

「あなたの中の風景に。とても優しい調べだった」

ソアラは後ろで手を組み、ちらりと振り返った。

「本当は、誰かがあなたを待っているんじゃない?」


 二人の目が合った、その時。


  フォン!フォン!…


 耳慣れないサイレンが周囲に鳴り響く。

びっくりしてソアラは思わず耳を塞いだ。どこからともなく不気味な振動が起こり、足元を駆け抜けていく。

「何?…この揺れ。」

「これは…非常シャッターの降りる音だ!」


  ジジ……

すぐ側で雑音が生じる。やがて雑音に混じって声が聴こえた。

「……ソアラ……聞こえるか?」

フッ、と二人の前にスクリーンが現れた。ドクターだった。

「ここだと思った。良かった…二人とも怪我はないかい?」

うなずく二人。

「ドクター!一体何が?」

「シェルターの一部が破損した。君たちもすぐに避難しなさい。」

「破損……なんでそんな……。」

ソアラは信じられないようだ。


シェルターは世界の科学力を駆使して生み出された。世界統合の結晶と言われた。外からのあらゆる熱や衝撃、宇宙線を防ぐはずだ。そんな簡単には壊れなど……。

「時間がない。ソアラ、みんな船に避難している。訓練通りだ。道は分かるな?」

ふいにスクリーンは乱れ、消えてしまった。


「こっちよ!」

ソアラはカイセイの手を引っ張り、庭から回廊へ上がり、駆け出した。

息を切らせながら走り続ける二人。程なく、繋いだ手がほどけた。

「カイセイ!?」

「足が……。」

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