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愛に至る病  作者: 深津条太
戯れの狂気
31/32

たくさんのこと

 テレビでは相変わらず、事件の報道が続いていた。

 遊園地で遊んでいたときにも新たな被害者が生まれていたから、というのも理由のひとつだ。女子中学生が寝間着姿のままで家から飛び出した果てに近所の崖から滑落して死んだ。その少女も何かを恐れていた。

 被害者の数はすでに40人を超えている。その周期もだんだんと短くなっている。

 その事件に関わっているらしい月穂。彼女を問い詰めなくてはいけない。

「……いってきます」

 誰もいない部屋に挨拶をし、家を出る。

 だが明穂が言うには、月穂が見つかる。それは彼女が望んでいたということだから気をつけろ、らしい。

「やあ、少年」

 彼女をあまりにもあっさりと見つけてしまった。というか、裏路地に引きずり込まれた。

「なんでこんなところに引きずり込む?」

「いやぁ、明穂が尾行でもしていたら厄介かなーって」

 嘘だ。こいつがそれに気付かないはずがない。やはり気付かれて、先回りされていたのだろうか。

「で、用事はなんだ?」

「やだなぁ。偶然だよ、ぐ・う・ぜ・ん。君こそわたしに用事があったんじゃないの?」

 月穂が不気味に唇を曲げる。きっと、こいつはもう俺がする質問を知っている。それどころかその質問をさせること自体、彼女が仕組んだことかもしれない。口の中に溜まった数々の質問を唾と一緒に飲み込む。

 その様子を見ていた月穂が口を楽しそうに歪める。

「思い悩んでいる少年に提案がありまーす!」

 ずいっと近づいてくる月穂。その瞳は妖しく輝き、真っ直ぐに俺を捉えている。

「ひとつだけ質問させてあげる。それに正直に答える。でも、ひとつだけだよー? 」

 月穂の提案に見え隠れする彼女の思惑。しかしその姿は朧げで、それを捉えることは出来そうにない。俺の思考を捕らえ、食んでいるような月穂の視線に気圧されながらも、既にこんがらがった頭で考えを巡らす。

 やがて、纏めた考えを胸に、月穂と向かい合う。その促すような視線に応えるように、質問を投げかける。

「月穂、おまえは何のために動いているんだ?」

 その質問を聞いた月穂が耐えられない、とばかりに笑い出した。しかし笑いながらでも、その問いに答える。

「何のためって聞かれてもわからないよ。強いて言うとすれば、自分のためってことになるのかな?」

 小さな子供を諭すように俺の頭を撫でる月穂。それと同時に俺の瞳ではなく、さらにその奥を覗いているような彼女の視線に、彼女の少し特異な雰囲気を突きつけられる。

「そういう質問をするのが少年らしいよね。そのまま聞けばよかったのに、――おまえが犯人か、って」

「犯人が分かったって、どうしようもないだろ?」

 俺の返した言葉に月穂の瞳がわずかに揺らぐ。

「まったく。いい子だねー、少年は」

 唐突に抱き着かれた。その行動で揺らいで見えた瞳は視界から外れ、彼女の背中と薄暗い路地しか見えない。月穂の服越しの温かさが嫌でも伝わってくる。

「少年さ。これからデートしよっかー?」

 俺から離れた月穂が笑顔で提案してくる。その顔は何か企んでいる、というわけでもなさそうだ。だが、どちらにしても信用ならないのだけれど。

「あっ! 怪しんでるなー?」

 この妙に鋭いところも。

「わかったわかった。行けばいいんだろ?」

「むぅ、そういう嫌々な言い方はいただけないなぁ」

 少し怒って、その柔らかそうな頬を膨らませる月穂。

「それでも断らないのは少年っぽい優しさだよね。もっと優しくなーれ」

 褒めているのか、怒っているか、分かりづらい月穂に頭を叩かれる。それも本気なのか、遊びなのか、分からない強さで。

 月穂。彼女の行動はどこか曖昧で、その考えはもやに包まれたまま、ぼやけている。

 それでも彼女の温かさだけはしっかりと伝わってくる。人並みに温かく、その温度に少し安心する。

 彼女に引かれた手に、その温かさを感じながら、たまにはこういうのもいいか、と月穂に身を委ねた。

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