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愛に至る病  作者: 深津条太
忌み嫌われる意識の行方
28/32

いじめたい心

 青々とした晴れ空に目を細める。

「氷雨―!」

 マンションの前で待っていたであろう藍が大きく手を振ってくる。彼女が手を振るたびに彼女の淡い青色のワンピースがひらひらと揺れる。

「先に行ってればいいのに」

「どうせ待つんだからいいの」

 わくわくとした足取りで歩き出す藍の隣に並ぶ。少し事件を忘れて、羽を伸ばすのも悪くはないだろう。

「藍、今日は明日倒れるくらい楽しもうぜ!」

「うん! いっぱい遊ぼうね!」

 二人の大きな声が高い空へ伸びていった。



 待ち合わせのレンガ造りの噴水の縁に腰掛けていた明穂がこちらに気付き、じとりと俺を睨む。

「なんだよ? まだ五分前じゃねえか」

「あらあら。別に三十分前にいるのが普通だとか、思ってないわよ?」

「絶対思ってんじゃねえかよ……」

 会って早々に口喧嘩したあと、明穂が噴水の縁から立ち上がり、スカートを軽く払う。

「桃花さんの監視よ、私の目的は」

 腕時計を一瞥した彼女は辺りを見回す。きっと集合時間になったのだろう。そういうところに厳しそうだしな。

「今日は遊びに行くんだから、説教とかは無しだからな」

 彼女に釘を刺すと、眉間のしわがさらに深くなる。

「観覧車にも乗ってやるからそう怒るなよ」

 そう言うと、明穂の顔が少し赤らむ。

「別に、それほど乗りたいわけじゃないわよ」

「それでも少しは乗りたいんだろ?」

 むっと唇を尖らせた明穂が、ぷいと背を向けてしまう。

「ジェットコースターはー?」

「もちろん乗るぞ?」

「やったー!」

 藍が諸手を挙げながら喜ぶ。本当に子供みたいな奴だ。

「あ! おーい!!」

 遠くから美香の声が聞こえてくる。美香と桔梗、そして桃花が駆けてくる。

「お待たせ―」

「これで揃ったな」

 口々に肯定し、美香が先導して歩きはじめた。



「うぅ……、三連続でジェットコースターは無茶苦茶だろ……」

「えー? そうかなー?」

 みんなを見てみると、桔梗と俺だけがふらふらとしているみたいだ。こいつら、異常な体力してやがる。

「仕方ないなぁ。早めのお昼ご飯食べる?」

 藍が渋々休憩を設けてくれたようだ。あとは昼食後にジェットコースターに乗りたいと言い出さないことを祈ろう。

 昼食後に案の定、ジェットコースター行こうと言いはじめた藍を引きずりながら、コーヒーカップに辿り着く。

「氷雨お兄ちゃんの隣もーらった!!」

 桃花が俺の隣にぴょんぴょんと跳ねてくる。その反対側から藍がずいっと詰めてくる。

 四人乗りのはずなのだが、三人乗った時点で半分以上が空きスペースになっている。そのスペースを贅沢に使うように明穂が俺の向かい側に座る。

「じゃあ、私達は他のカップに乗るね」

 いこ、と美香の手を引き、隣のカップに乗り込む桔梗。あっちに移りたいくらいに窮屈に詰められていた。

 やがて、コーヒーカップがゆっくりと回りはじめる。

「ほら! お兄ちゃん! 楽しそうに!」

「そうだよ、氷雨!!」

 出来るわけがない。二人ともに腕を掴まれ、手すりを掴めていないのだ。おまけにそれに気付いたのか、目の前の明穂が気味悪いくらいに笑っている。出来ることなら今すぐ降りたいくらいだ。

 そのとき、明穂が一瞬だけ回転を速めた。その一瞬、尻が宙に浮いた。ぞわりと背筋が凍る。

「ほら! 明穂先輩も楽しそうだよ!」

「えぇ、とっても楽しいわよ」

 明穂のにこやかな顔が見える。こいつが楽しんでるのはコーヒーカップじゃなくて、俺の怖がる様子だ、それを指摘する余裕もなく、コーヒーカップは不安定な回転を続けていった。



 終始、死との恐怖と戦っていた。これが感想だ。ジェットコースターの方が全然余裕があった。

「もうちょっと、落ち着いたのはないのか……?」

 ふらふらとした足取りで歩いているのは、またしても俺と桔梗だけだった。あっちは美香が調子に乗って、高速回転をしていたのを視界の端に見えていた。

「お互い散々だな」

「うん、そうだね……」

 ふたりでため息を吐く。それから同時に噴き出す。それでも、それが楽しいのだ。

「じゃあ、次はどうしよっか?」

 桔梗がみんなに尋ねる。彼女もああ言いつつも楽しんでいるのだろう。

「じゃあ、シューティングやろうぜ」

 これなら誰が暴走しようが、こっちに被害はないだろう。

「じゃあ、わたし氷雨と組むね!」

 藍が俺の背を押し、ゴンドラに押し込もうとしてくる。

「今日の主役はお前じゃなくて桃花なんだから、桃花が最初に決めさせてやれよ」

「むぅ、それもそうだね」

 なんとか藍を説得することに成功し、みんなの視線が桃花に向いた。そんな視線に小さく尻込みする桃花。

「えっと、ね。お兄ちゃんがいい、かな?」

 潤んだ目で藍を見ながら答えた桃花が、俺の陰に隠れてしまう。

「うん、それでいいよ。じゃあ、わたしは明穂先輩に決ーめた!」

 がばっと腕にしがみついた藍に一歩たじろぐ明穂。それでも、ため息をひとつこぼしただけで、文句は出ないということは、それなりに容認はしているのだろう。

「二人もその組み合わせでいいか?」

「もちろんだぜー!」

 藍に対抗しているのか、美香がわざとらしく桔梗に頬ずりをする。

「暑いよ、美香ちゃん……」

 何はともあれ、ペアは決まったようだ。

「ただやるだけっていうのもつまんないし、罰ゲームしない?」

 また藍がろくでもない提案をはじめる。

「面白そー!」

「うん、やろうよ!!」

 桃花も美香もそれに賛同してしまう。こいつらの罰ゲームなんて受けたらろくなことないのは明らかだ。

 ――だが、このシューティングは何度もやっているし、藍には毎回勝っている。負ける要素はどこにも無かった。

「いいぜ! その勝負乗ったぜ!」

「多数決で決定だね!」

 罰ゲームは優勝チームが最下位チームに命令できるというベタなものに決まり、それぞれがゴンドラに乗り込む。明穂は終始、文句を言っていたが、気にすることではなかった。

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