第3話:絶望の記憶
蜜柑達は近くの公園のベンチに座っていた。蜜柑は少しずつ話し始めた。
『……奏はね、昔から歌が天才的に上手かったんだ。そして中3の時に奏の前に、ある人が現れたの。歳は私達と同じ位に見えた。幼い子供みたいな笑顔で目を輝かせて……その人は大山樹。』
『樹ってあの……』
将吾が話しを遮った。
『そうょ。STARsの天才ギターリストのイツキょ。ここからSTARsは始まった…………。』
〜3年前〜
『ねぇ君、望月奏ちゃんだょね??』
『そうですけど、あなたは誰さん??』
『俺は大山樹、17歳。君の噂を聞いて来たんだ。』
『噂?』
『中学生なのに、誰もが惹き付けられる天使の声を持つ子がいるって噂☆☆☆』
『そんな!違います!!』
『いぃゃ、君が気付いてないだけだょ。俺には分かる。君の歌声が日本を揺るがすって……俺とバンドを組もう!』
奏はビックリした。どうして、この人はそんなに自信があるんだろうと……でも、この人の話しを聞いていると本当に出来そうな気がしてきた。奏は樹に惹かれバンドへと入った……。
『……それからの樹の行動は速かった。ドラムの巧、本来はすごいピアノ奏者なのに何故かベースの玲を集めた。バンド名はSTARs。日本の星になるという意味で樹がつけたの。最初は小さいライブハウスでお客さんも少なかった。だけど、すぐSTARsは有名になった。そして1年というすごい速さでデビューした。そして、STARsはどんどん大きくなった。日本でSTARsの事を知らない人がいない程に……
奏はその頃、樹と付き合ってたんだ。凄く仲良くて、幸せそうだった。奏はますます生き生きとして歌を歌ってた。だけど……あの事故がきっかけで、奏の心は壊れてしまったの……。』
『あの事故って?』
浩貴が聞いた。蜜柑は泣いていた。
『樹が………………死んだの……………』
〜2年前〜
『うわぁ→また1位だょ!!』
蜜柑はビックリした。この前出したシングルが初登場1位だったからだ。
『当たり前!奏が歌ってんだぜ!?』
樹は自分の事のように自慢した。
『俺達は自慢じゃないのか??』
巧が文句を言った。
『お前らも俺の自慢だぁ!!』
奏は笑っていた。
『そういえば、みんなに言う事があった。』
樹が思い出したように言った。
『何?』
『日曜にマスコミ関係集めてライブやろうと思う。そろそろ全国に俺達の姿を見せてやろぅ!!』
『日曜って4日後じゃん!!急だな。』
巧が言った。
『急な事はいつもの事だし、俺はいいょ。奏が良いって言えば。』
玲が言った。奏はちょっと、考えて、
『ぅん!!いぃょ、やろぅ☆初の顔見せだし気合い入る→。あっ!でも私の顔を見て皆、幻滅しないかなぁ』『大丈夫!奏は可愛いすぎだから☆』
そう言いながら巧は、奏に抱きついた。それを見た樹は
『だから巧!!奏は俺のモノだ!!!』
っと言い、巧から奏を奪い返した。そして、いつもの奪い合いが始まった。
『あ〜ぁ、また始まった。毎日飽きないよね。ねぇ、玲?』
玲は、静かにドラムのとこへ歩いて行き、思い切り叩いた。ケンカしていた2人は動きを止めて、玲を見た。玲は不機嫌そうに、
『ウルサイ』
っと言った。2人は、
『ごめんなさぃ↓↓』
っと同時に謝った。一瞬間を置いて、皆は大声で笑った。
『ったく巧はムカツクなぁ。奏は俺のもんなのに……』
練習を終えた樹は奏を送って行っていた。
『まぁまぁ、巧も悪気があるわけじゃないし(汗)』
『あれが悪気がないように見えるか??』
『(苦笑)ってかね、日曜はお客さん来てくれるかなぁ。心配……それに私、ちゃんと歌えるかな…』
奏は立ち止まって樹に聞いた。樹は心配そうな顔の奏を、愛しく思った。樹は奏を抱き締めた。
『奏の歌は皆を幸せにする歌だ。だから大丈夫!!それに奏は俺の夢だ。そして、奏の歌は皆に夢を見せてくれるんだ。一緒にでかくなろう!!』
奏は嬉しかった。樹はいつも、奏の灯りだった。道に迷った時は、その灯りが自分をともしてくれた。だから奏は自分の歌を歌えると思っていた。…樹のために…
それから3日間STARsは練習し続けた。
『いょいょ明日だな。』
最後の練習を終えた時巧が言った。
練習場から出たとき樹が、
『奏、ごめん!!今日は今から用事があるから送っていけない。誰かに送ってもらってくれないか?』
っと奏に言った。
『大丈夫☆子供じゃないから1人で帰れる。』
『高校生は十分子供と思うけど…ホントにゴメン。じゃぁな。』
『バイバイ☆☆』
奏は樹の後ろ姿を見送った。その時、奏の心の中に不安がよぎった。何で樹との別れがこんなに寂しいのか分からなかった。今まで1度もこんな事なかったのに……
『樹…』奏は、樹が消えていった人ごみの方を見て呟いた。
〜ライブ当日〜
『うわぁ!!始まる1時間前なのに、いっぱい人がいる!!!』
奏はライブハウスの外を見て声をあげた。外には、遥か彼方まで続く列が見えた。マスコミ関係もたくさん来ていた。
『それにしても、樹遅いな。』
玲が言った。今日は開演2時間前には集まろうと言ったのは樹だった。しかし、開演まで1時間を切ったのに樹は来ていなかった。
『樹が遅れるのっておかしくないか?だってアイツは、いつも1番最初に来てんじゃん。何かあったんじゃ……』
玲が言った。奏は震えが止まらなかった。それに気付いた巧は、そっと奏を抱き締めた。
『奏が樹を信じないでどうするんだ!?アイツは大丈夫だ。だから今は樹を信じよう。』
奏は頷いた。巧のおかげで、震えは止まったが、不安は消えなかった。その時、控え室のドアが勢いよく開いた。そこには、息をきらせながら立っている蜜柑がいた。蜜柑は樹と連絡がとれないため、樹の家に行ってくると言って、30分前にここを出ていったのだ。
『速かったな。で、樹は??』
『樹は……事故に遭ったらしくて救急車で運ばれたって……』
巧はそれを聞いて蜜柑に詰め寄った。
『樹は大丈夫なんだろ!?すぐにこっちに来るんだろ!?なぁ、蜜柑!!』
『そこまでは分からない…ただ、現場を見た人は酷い事故だったって………』
奏は控え室を飛び出し、病院へと走った。
信じたくなかった。樹は生きている。そう自分に言い聞かせながら…
『マネージャー!ライブを中止させてくれ。俺達も病院へ行く』
巧はそういうと奏を追うように出ていった。それに続いて蜜柑と玲も出ていった。
奏、巧、玲、蜜柑は霊安室にいた。目の前には樹が横たわっていた。信号無視のトラックから目の前にいた、子供をかばおうとしたらしい。子供はかすり傷で済んだ。でも樹は……
奏は樹を揺すった。涙は出なかった。
『ねぇ、起きてよ。ライブ始まっちゃうょ。何、遅れてんのょ。ねぇってば、起きてよ!!』
皆、奏の言葉で泣いた。
『もぅ止めろ。樹は起きないんだょ……………2度と……』
巧はそぅ言い、奏を樹から引き離した。奏の目からも大粒の涙が溢れ出した。
奏は、巧の制止を振りほどいて樹に言った。
『樹、前に言ったじゃん!
「奏は俺の夢だ。一緒にでかくなろう」
って!!あれは嘘だったの!?答えてよ!私にとっても樹は夢だったのに…希望だったのに!!私は今からどうすればいぃのょ!!!誰のために歌えばいいのょ!いつものように笑いかけてょ!!側にいてょ!!樹の…………嘘つき!!!!!』
『奏!!アイツは死んだんだ!!!』
玲はそう言って奏を抱き締めた。奏は玲の腕をも振りほどき、樹に叫び続けた。
『樹!嫌だょ!!いなくならないでょ!!!!』
奏は樹が死んだなんて信じたくなかった。夢なら覚めて欲しかった。そして、樹の隣で笑っていたい………いつからだろう。こんなに大切に思えていたのは………足元が見えない。闇は嫌だ。道しるべになっていた灯りがもうない…………奏の心が壊れて、奏はその場に倒れた。
ー奏の時間が止まったー