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第一羽 まだまだ落下中

「くっ!!!!」


垂直落下を続けながら、少年は悔しそうに歯噛みした。


「クケエエェエ!!!」


その脇を、奇声を上げながら俊敏に翔け抜けるのは、1頭の中型の赤茶色のドラゴンーワイバーン。中型の竜種だ。


上だ。

己の直感に従い、少年はすばやく体を反転させ、空を見上げる形になる。

同時に、両手の2丁の愛銃の引き金を躊躇なく連続で引き絞った。


ガウンガウン、と銃声が怒りの咆哮をあげるように響き渡る。

音速で飛び出した圧縮された魔力の弾丸は、一発がワイバーンの頬を掠めただけで終わった。


もう一度二挺の銃の引き金を引く。が、二挺とも、がちん、と情けない音を立てた―弾切れ、だった。


「ちぃっ」


少年は舌打ちする。

無理も無い。支えも無い中空で、すばやく自在に飛び回る竜を狙い撃ちする事自体が、至難の業なのだ。


しかし、悠長にしている暇も無かった。

現在、少年は超高速で地上に向かって落下中だ。翼が片方しかない彼は、飛ぶ事が出来ない。

重力制御の魔法を展開しなければ、地上に激突して即死してしまう。


しかし、ワイバーンが居る状況で、下手に落下速度を緩めれば、それこそヤツの餌になってしまう。

彼がワイバーンに捕まらずに居るのは、皮肉にも、その落下のスピードのおかげなのだった。


「ケエエェェッ!!」


「げぇっ!」


どうしようかと考えていると、ワイバーンが、翼をたたんで、ダイビングする形で少年に向かって突っ込んできた。

玉切れを悟り、正面から襲い掛かっても安全だと判断したらしい。


大きく開かれた顎。その淵にそって、ずらりと並んだ、黄色身がかかった鋭い牙。その奥から、肉厚の、真っ赤な長い舌が獲物を求めるように伸びている。


このままだと、食いちぎられるぞ。


そう直感すると同時に、頭のもう一方で、別の考えを持っている自分もいた。


今がチャンスだ。


少年は、後者の声に従った。

恐怖に逃げようとする体を知ったし、あえて少年は回避の体制をとらない。


ギリギリまで、ひきつける。

相手は翼がある。此処で逃げられたらもうチャンスは無い。地上までの距離は、もういくばくも無いのだ。


「クケエエエェ!!!!」


ワイバーンの、獲物を捉える瞬間の狂喜の叫びが響く。

その鋭い牙との距離が、2mを切り、鋭く縦に裂けた細い瞳孔が肉眼で捉えられるようになった瞬間。

少年は、両手を交差させて突き出し、叫んだ。


「…エクスプロージョンッ!!!」


詠唱と同時に、翼に、全身に、千切れるような、激しい痛みが走った。

羽人にとって重要な魔力制御器官でもある翼を片方しか持たない少年にとって、補助魔法器を用いずに魔法を使うのは難しく、また、大きな負担だった。


それでも、片方の翼と意思の力とで、暴発しようとする魔力を、無理やりねじ伏せ、イメージへ反映させる。

演算もへったくれもない。ただ、形へと持っていく。


ワイバーンとの距離が、残り1mを切った。


同時に、少年の交差された両手の平に、白い炎が宿り―


ズドオオォォォンッ!!!!


「ギャアアアアァッ!!!????」


ワイバーンの断末魔の悲鳴は、鼓膜を破らんばかりの激しい爆音にかき消された。


だが、超至近距離で魔法を放った少年も無事ではなかった。


「があっ!?」


両腕に走る鋭い痛み。

爆発による火傷や、衝撃波による裂傷で、酷い事になっていた。


それでも、少年は―


「だ、れが、諦めるかああっっっ!!!!」


己を奮い立たせるように叫び、翼を大きく広げ、両腕を再び突き出す。

魔力を宿した翼と両腕が淡い紫色の光を帯び、次の瞬間、同じ色の光で魔法陣ー重力制御の魔法が展開された。


落下速度が、わずかに落ちる。

だが、安全に着地するにはまだまだ早い。


再び全身を貫く痛み。しかも、今度は着地まで魔法を維持するとあって、その痛みも尋常ではない。

じっとりと額に汗を浮かべながら、それでも少年は、笑っていた。


「絶対生きてついてやるんだ…!!」


―誇り高く、天使は堕ちてゆく。

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