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チュッチュの防衛戦

作者: あおいろ


「これは甥の為に冷やしてるからね」


母から言われた。



別にチューペットなどに


今さら興味はない。



子供の頃


ラジオ体操に行っても


盆踊りの練習に行っても


町内の運動会に行っても


チューペットは配られた。



値段が安いからとの理由で


子供の行事には欠かせないチューペット


別名「チュッチュ」は


明らかに体に悪い色をしていて


別段美味しいわけでもなく


子供だましの手頃なアイスだ。



私はチュッチュの味が苦手だったので


冷凍庫の中には毎年


色とりどりのそれが


いつか私に食べられるという


叶わぬ夢を見て


翌年まで眠っていた。



甥のチュッチュに着目したのは


焼酎に必要な氷を取りに行った時だ。



ここ最近夏ばて気味で


飲み物だけで済ます夜も少なくない。



例外なく昨夜もムシ暑く


昔あんなに拒否したチュッチュが


無性においしそうに見えた。



まぁ少しくらい食べても気付かれないだろう。



甥の為に用意されたチュッチュは


私の都合で割られる事となった。



チュッチュを割るのは何年振りだろう。


なぜだか少しワクワクした。



懐かしい音と共に


2つに割れたチュッチュは


うまいこと割れず


1つはとても食べにくい状態になっている。



それでも


昔のような薬に似た味はせず


さっぱりとした後味で


なかなか悪くない。



火照った体は涼しくなるし


まぁ気に入った部類には入るだろう。



あっとゆうまに甥のチュッチュは


1本減った。



そして先ほど上手に割れなかった


リベンジの時がやって来た。



また気持ちよく割れない。



リベンジは続く。


甥のチュッチュは減っていく。



気力で3本目を食したが


完全に味に飽きた。



しかしチュッチュからベルトを奪えないまま


引き下がるのも悔しいものだ。


残りあと5本。


なんとしてでも


きれいな2つに割ってみせる。



その健闘も虚しく


チュッチュは防衛戦を勝し


私は惨敗のままリングから降ろされた。



冷凍庫の中には


勝利したはずの


折られた無数のチュッチュが


悲しく横たわっていた。



母が冷凍庫を開けて驚愕したのも


無理はない。



しかし私が悪いわけではない。


きれいに割れない


チュッチュに責任はあるのだ。


それに折られていようが


チュッチュの味には変わりないし


むしろ折ってあげたのだから


ありがとう


と言われるべきである。



チュッチュを食べる事より


ようやく自分で折れるようになった姿を


バアバに見せたいと言う


甥の思いをようやく聞かされたが


もはや遅すぎる。



チュッチュから


勝利のベルトを奪う事は出来なかったが


甥の笑顔と


バアバの笑顔は


あっという間に奪い取ってしまった。



そして勝利したチュッチュが


翌年まで冬眠するのは


悲しき事実であろう。




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