表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王(よしこ62歳)と勇者パーティ  作者: 歩人
Arc3: 魔王と勇者の遠足

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/35

第33話: 王様に会いに行く

◆よしこ視点




 王城の廊下は、長かった。




 ぴかぴかの石の床。天井が高くて、壁には絵画が飾ってある。金の燭台。赤い絨毯。高い窓の外に、秋の空が広がっとる。木の葉が、ほんの少し色づき始めとった。


 ――立派やなぁ。うちの魔王城より余程きれいにしとるやん。


 ティアちゃんが見たら張り合うやろな。「負けてられません」って。




 カインくんが前を歩いとる。


 その後ろに、わて。


 さらに後ろに、ヴェルちゃん。




「……魔王様」




 ヴェルちゃんの声が、低い。




「最後にもう一度確認いたします。――本当に、武装なしで謁見なさるのですか」




「うん(^^)」




「王城内には衛兵が三十名以上おります。万が一――」




「話し合いに来たんやから、武装したらあかんやろ(^^)」




「…………かしこまりました」




 ヴェルちゃんが溜息をついた。


 今日何回目やろ。数えてないけど、たぶん二十回は超えとる。




 廊下の奥に、大きな扉が見えた。


 衛兵が二人、槍を持って立っとる。




 カインくんが振り返った。




「――この先が謁見の間です。陛下がお待ちです」




「ほな、行こか(^^)」




 わては――足を止めた。




 一瞬だけ。




 靴の先を見た。この世界の靴は堅くて足が痛い。保育園の上履きが恋しいわ。


 でも――今日は、この靴で歩く。




 ――ここに来るまでに、見てきたもんがある。




 孤児院のぼろぼろの壁。


 ガルくんが泣きながら作ったシチュー。


 リーゼちゃんが読み上げた、帰還率ゼロの数字。


 レオンくんの左頬の傷跡。




 全部、覚えとる。




 わては保育士やった。


 40年間、子どもを見てきた。


 親に殴られた子も。ごはんを食べさせてもらえへん子も。朝、一人で保育園まで歩いてくる子も。




 その時もそうやった。


 怒鳴ったらあかん。殴ったらあかん。でも――黙っとったら、もっとあかん。




「行くで(^^)」




 扉が開いた。






◆よしこ視点




 謁見の間は、広かった。




 天井が高い。柱が並んでいる。一番奥に、玉座。


 そこに――ひとりの男が座っとった。




 四十代くらいやろか。


 柔和な顔立ち。穏やかそうな目。


 王冠は小さくて、控えめや。


 ――若い頃は優しいお父さんやったんやろな、この人。


 でも、玉座に座る背中は硬い。まるで椅子に縛り付けられとるみたいに、肩がこわばっとる。




「――魔王ヴォルグラーナ殿か」




 国王の声は、静かやった。




 わての両側に衛兵がずらりと並んどる。槍の穂先が光っとる。


 ヴェルちゃんが後ろで、微動だにせず立っとる。衛兵全員の位置を把握しとるんやろな、この人。




「ようお会いできました(^^)」




 わては――にっこり笑った。




「…………」




 国王が――目を丸くした。


 衛兵たちがざわついとる。




 ――そりゃそうやな。魔王が笑顔で「ようお会いできました」て、普通は言わへんわな。




「……お話がおありとか。何をお聞かせいただけるのか」




「あ、その前に」




 わては――鞄を開けた。




 ヴェルちゃんが「まさか」という顔をしとる。衛兵が身構えた。




 鞄から出したのは――茶器セット。




「お茶、飲みはります?(^^)」




「…………は?」




「お話聞いてもらうんやから、お茶くらい出さな失礼やろ(^^)」




「……魔王様。ここは謁見の間でございます」




 ヴェルちゃんが後ろから言うた。声が疲れとる。




「せやから(^^) お客さんとこに来たんやから、お茶菓子くらい持ってくのが礼儀やん」




「……よそのお宅に伺ったわけではなく、国王陛下への謁見でございます」




「同じことやん(^^)」




「同じではございません」




 ヴェルちゃんの溜息。本日、推定二十五回目。




「……カイン殿。魔王は――いつもこうなのか」




 国王がカインくんに聞いとる。




「…………はい、陛下。いつもこうです。――私の報告書が信じていただけなかった理由が、おわかりいただけたかと」




 カインくんが遠い目をしとる。




 わては謁見の間の端にあった小さなテーブルを引っ張ってきて、手早くお茶を淹れた。


 ガルくんが朝、沸かしてくれたお湯を魔法瓶に入れてきた。茶葉はメルちゃんが選んでくれたやつや――人間の王族が好む高級品やて。




「はい、どうぞ(^^)」




 国王の前に、湯気の立つ茶碗を置いた。




「…………」




 国王が、茶碗を見つめとる。


 衛兵が「陛下、毒味を――」と言いかけた。




 わては自分の分も注いで、一口飲んだ。




「美味しいで(^^) メルちゃんのセンスええなぁ」




 国王が――ゆっくりと、茶碗を手に取った。




 一口、飲んだ。




「……温かいな」




「せやろ(^^)」




 国王の手が、少し震えとった。


 ――この人、緊張しとるんや。


 玉座に座っとるのに。衛兵に囲まれとるのに。


 わてに会うのが、怖いんや。




 ……いや。ちゃうな。


 怖いのは、わてやない。




 わてが言おうとしとることが――怖いんや。








「――ほな、本題に入るで(^^)」




 お茶を置いた。




「勇者の話や」




 国王の手が――止まった。




「レオンくん。リーゼちゃん。ガルくん」




 三人の名前を、一人ずつ言うた。




「この子らは今、うちの城におる。元気にしとるで。ごはんも食べてるし、夜もちゃんと寝とる」




「……それは――」




「せやけど」




 わては――声のトーンを落とした。




 大阪弁がどうとか、魔王の威厳がどうとか、もうどうでもええ。




「この子ら、最初来た時――骨と皮やったで」




「…………」




「三人とも、まともに食べてへんかった。装備はぼろぼろ。傷だらけ。字も読まれへん。――あんた、知っとったん?」




「……勇者の選定は、聖教会の管轄であり――」




「聞いとるんは、そこやない」




 わての声が、低くなった。自分でもわかる。




「知っとったんか、知らんかったんか。どっちや」




 謁見の間が、静まり返った。




 衛兵の甲冑がかちゃりと鳴る音だけが響いとる。




「…………」




 国王が――目を伏せた。




「……知って、おった」




 その声は――小さかった。




 玉座の上の、四十代の男の声やなかった。


 叱られた子どもの声やった。




「勇者の選定は孤児から行われる。装備は最低限。給金はなし。帰還した者は――いない。すべて――知っておった」




「…………」




「だが――余には、止められなかった。聖教会の決定を覆す力が、余には――」




「そんなん聞いてへん」




 わては――国王の目を、まっすぐ見た。




「あんた――自分の子ども送り出す時も、こんなんするん?」




 国王の目が――見開かれた。




「自分の子に、ぼろぼろの服着せて、ごはんも持たせんと、『行ってこい』って言えるん?」




「……それは――」




「言えへんやろ」




「…………」




「ほな――なんで、よその子やったらええの」




 国王が――震えとった。




 手が。肩が。唇が。




「よその子やから――孤児やから――名前も知らん子やから。せやから、ええの?」




「……余は――」




「あかんに決まっとるやろ」




 わての声が――震えた。怒りやない。悲しみや。




「子どもを使い捨てにしたんは、あんたらやろ。聖教会がどうとか、実権がどうとか――そんなん、この子らには関係ない」




 国王が、茶碗を握りしめとった。


 手が震えて、お茶の水面が揺れとる。




「この子らは――ただ、ごはんが食べたかっただけや」




「…………」




「温かい布団で寝たかっただけや。おはようって言ってもらいたかっただけや」




「…………」




「そんなことも――してあげられへんかったんか」




 国王の目から――涙が、一筋落ちた。




 玉座の上で。王冠を被ったまま。




「……余は――」




 その声は、もう王の声やなかった。




「余とて――心が痛まぬわけでは、なかった。毎年――勇者選定の報告を聞くたびに――」




「痛むだけやったら――意味ないねん」




 わては――静かに言うた。




「心が痛いなら、止めなあかんかった。止められへんなら、せめて――あったかいごはんくらい、持たせたらよかった」




 国王が――茶碗を見つめとった。




 湯気が、静かに立ち上っとる。




「……わたくしは――話し合いに来たんやで(^^)」




 わては――笑った。




「殴りに来たんとちゃう。怒ってはおる。めちゃくちゃ怒ってる。でも――今からでも変えられることがある。ちゃうかな」




 国王が――顔を上げた。




 涙の跡がある顔で。


 でも――目に、何かが灯った。


 微かやけど。確かに。






◆国王視点




 ――この女は、何者だ。




 魔王ヴォルグラーナ。


 世界の半分を支配する、恐るべき魔族の王。




 ――のはずだ。




 だが目の前にいるのは、お茶を淹れて微笑んでいる女だった。




 怒っている。確かに怒っている。声が震えていた。


 だがその怒りは、余を滅ぼすための怒りではなかった。




 ――子どもを案じる者の怒りだった。




「――カイン」




 余は呼んだ。声がかすれていた。




「はっ」




 カインが一歩前に出た。背筋を伸ばした。




「お前は――魔王城で何を見た」




「私が見たものを、ありのまま報告いたします」




 カインの声は、震えていなかった。




「魔王は――勇者にごはんを作っておりました。勇者は――字の練習をしておりました。四天王は――宴会の準備をしておりました。城の侍女は――掃除をして、勇者の服を繕っておりました」




「…………」




「魔王城に――戦場はありませんでした。あったのは――食卓です」




 カインが――一度だけ、魔王のほうを見た。




「私は――調査隊の隊長として、事実を報告する義務があります。何が正しいかは、報告を聞いた者が判断することです。――事実は以上です」




 謁見の間が――沈黙に包まれた。




 余は——アルフレートは、目を閉じた。王冠の重みが、今日は特に重い。




 ――知っていた。




 毎年、子どもたちが送り出されていくのを。


 帰ってこないのを。


 聖教会が「神の御心である」と言うのを。




 知っていて――止められなかった。




 王冠は重い。だが、それは言い訳だ。


 この女の言う通りだ。あったかいごはんくらい、持たせられたはずだ。




「……今すぐに――答えを出すことは、できぬ」




 声がかすれた。




「聖教会との――関係がある。政治的な――手順がある。余の一存では――」




 ――また、言い訳をしている。




「だが――聞いた。余は、聞いた」




 魔王が、こちらを見ている。




 深紅の目。だが――その目は、余を裁く目ではなかった。




 保育園、と言っていた。子どもを預かる場所だと。


 この女は――40年間、子どもを見てきたのだと。




「――魔王ヴォルグラーナ殿」




「よしこでええよ(^^)」




「……よしこ、殿。余は――余の力の及ぶ限り、この件を調べる。約束する」




「ほんまに?(^^)」




 その声には、詰問ではなく、確認の温度があった。


 余を試しているのではない。余の言葉を、信じようとしている。




「……約束する」




 余は――この女の目を、真っ直ぐ見た。




 どれほどの時間が経ったかわからない。


 謁見の間に、お茶の香りが漂っている。




「ほな――お茶のおかわり、いる?(^^)」




「…………」




 余は――小さく、笑った。




 いつ以来だろう。玉座の上で、笑ったのは。




「……いただこう」




 魔王が――二杯目のお茶を淹れてくれた。




 四天王が後ろで溜息をついている。


 衛兵たちが困惑した顔で立っている。




 だが――この一杯の茶は、温かかった。




 余の心に沈んだ石が、ほんの少しだけ――軽くなった気がした。





下にある☆☆☆☆☆をクリックして★★★★★にしてくれたら作者が喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
(´;ω;`)やっぱり涙出ちゃいました よしこ様世直しよろなのです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ