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魔王(よしこ62歳)と勇者パーティ  作者: 歩人
Arc2: 魔王城のおやつの時間

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20/27

第20話: 飴ちゃんあげよか

◆よしこ視点




 朝の厨房。


 わてはご機嫌やった。




「ふんふ〜ん(^^)」




 鍋の中で、蜂蜜がとろとろ煮詰まっていく。


 ここに、ちょっとだけ塩を入れる。甘いだけやと飽きるからな。


 火を止めて、木の型に流し込む。




 蜂蜜飴。




 前の世界でいう飴ちゃんや。


 大阪のおばちゃんにとって、飴ちゃんは装備品みたいなもんや。カバンの中に常備。会った人に配る。子どもにも、おじいちゃんおばあちゃんにも、スーパーのレジのお姉さんにも。




 保育園でもそうやった。


 泣いてる子がおったら、まず飴ちゃん。落ち着いてからお話。


 飴ちゃんは魔法やないけど、魔法みたいなもんや。




「さてと」




 型から外す。


 小さな、琥珀色の飴が、ずらっと並んどる。




 ええ感じ。




「……ちょっと作りすぎたかな」




 数えたら、200個あった。




 ——ま、ええか(^^)




 保育園でも余ったら配ったし。


 ここにも、配ったらええやん。




 わてはエプロンのポケットに飴を詰め込んだ。


 魔王のローブのポケットにも。


 ティアちゃんにもらったカゴにも。




「飴ちゃんあげよか(^^)」




 わては城の廊下に出た。








 最初に出会ったんは、見回り中の魔族の兵士やった。




 鎧を着た、がっしりした男。角が二本。赤い肌。




 わてを見た瞬間、直立不動になった。




「ま、魔王様!」




「おはよう(^^)」




「お、おはようございます!」




「はい、これ」




 飴を一つ、手のひらに乗せた。




「……え」




 兵士が固まった。




「飴ちゃん。蜂蜜で作ったんよ(^^)」




「あ、飴……? ま、魔王様が……飴を……?」




「甘くて美味しいで。はい」




「は、はぁ……」




 兵士が恐る恐る飴を受け取った。


 わてを見て、飴を見て、またわてを見て。




「……食べてええんか——あ、いえ、よろしいのでしょうか……」




「ええよええよ(^^) 食べて食べて」




 兵士が飴を口に入れた。




「…………」




 目が、丸くなった。




「……美味い」




「やろ?(^^)」




「あ、ありがとうございます……!」




 兵士が深々と頭を下げた。


 ——顔、赤いな。照れとるんか。




 ええぞええぞ。


 甘いもんは正義や(^^)








 次は、廊下の角を曲がったところで、獣耳族の兵士に出会った。




 犬みたいな耳。ふさふさの尻尾。ティアちゃんと同じ種族かな。




「は、はい……?」




「飴ちゃんあげよか(^^)」




「あ、飴……」




 手に乗せた。




 獣耳の兵士が、飴を見つめた。


 鼻をひくひくさせた。匂いを嗅いどるんか。




 尻尾が——




 パタパタ。




「…………」




 本人は気づいてへんけど、尻尾が高速で振れとる。




「……い、いただきます!」




 飴を持って、ぱたぱたと走り去った。




 ——あの子、仲間に配りに行ったな。




 わかるで。保育園でもそうやった。飴もらった子は、必ず友達に見せに行く。








 門番の前を通った。




 鱗族の魔族。でっかい。全身が青い鱗で覆われとる。


 槍を持って、微動だにせず立っとる。




「飴ちゃん、どう?(^^)」




「……我は」




 低い声。


 鱗族って無口なんやな。




「我は……甘味が、苦手だ」




「そうなん? これ、ちょっと塩入れてるから、そんなに甘くないで」




「…………」




 沈黙。




 槍を持つ手が、ぴくっと動いた。




「……一つだけ」




「はいどうぞ(^^)」




 大きな手が、小さな飴を一つだけ、つまみ上げた。




 口に入れた。




「…………」




「…………」




「……二つ目を、もらえるか」




「ええよ(^^) 何個でも」




 鱗の顔に表情は出にくいけど——目が、ちょっとだけ柔らかくなった気がした。








 城の中を歩き回った。




 すれ違う魔族、全員に配った。




 廊下の掃除をしとった侍女に。


 武器を磨いとった兵士に。


 書類を運んどった文官に。


 厨房で鍋を洗っとった料理番に。




 反応はみんな違った。


 泣きそうになった文官がおった。「先代の時代には菓子など……」って呟いとった。


 無言で三回おかわりに来た料理番がおった。


 飴を懐に入れて「家族に持って帰ってもいいですか」って聞いてきた兵士がおった。ええよ、もちろんええよ。




 保育園とおんなじや。


 飴一つで、全員が違う反応をする。でも——最後に甘いもんを口に入れた瞬間、みんなおんなじ顔になるねん。


 ちょっとだけ、力が抜けた顔。




 甘くて、温かくて、ちょっとだけ幸せな顔。




 魔族も人間も、おんなじやな(^^)








 ドルガくんの部下に会ったんは、訓練場の近くやった。




 筋肉もりもりの魔族が三人、汗だくで素振りをしとった。




「あんたら、頑張っとるなぁ。はい飴ちゃん(^^)」




「は、はい! ありがとうございます!」




 飴を受け取って、三人で顔を見合わせとる。




「……これ、ドルガ様にも持ってったほうがええんちゃう——あ、いえ、よろしいでしょうか」




「もちろん(^^) はい、ドルガくんの分もあげるわ」




 飴を多めに渡した。




 三人が走っていった。




 ——ドルガくんのとこに持ってくんやろな。


 あの甘党さん、喜ぶやろな(^^)






◆魔族兵士A視点




 訓練場の隅で、俺は飴を舐めていた。




 甘い。




 蜂蜜の味がする。ちょっとだけ塩が入ってて、それが蜂蜜の甘さを引き立てとる。




 ——魔王様が、くれた。




 直接、手渡しで。




 先代魔王の時代には考えられんかった。


 先代は——俺たち下っ端の顔なんか見なかった。命令が降りてきて、それに従うだけ。名前も知らん。向こうも俺らの名前なんか知らん。




 でもあの魔王は——




「おはよう(^^)」




 ——って、笑って、飴をくれた。




「……美味いな、これ」




「うん」




 隣で、鎧磨き担当のゾルが頷いた。




「なぁ、お前もらった?」




「もらった。廊下でいきなり」




「俺も。門番のグラットも二つもらったって」




「二つかよ。俺は一つだぞ」




「門番は暇だからな。二つ目おかわりしたらしい」




「ずるい」




 ——何の話をしてるんだ、俺たちは。




 魔王軍の兵士が、飴の個数で張り合ってる。




 でも——




「……なぁ」




「ん?」




「……最近、城の空気、変わったよな」




「……うん」




 変わった。




 「おはよう」が聞こえるようになった。


 厨房からいい匂いがするようになった。


 訓練の後に、おやつが出るようになった。




 そして今日は——飴だ。




「……なぁ、ゾル」




「ん?」




「……魔王様、お前の名前、知っとったか」




「……知ってた」




 ゾルが飴を舌の上で転がした。




「飴渡す時——『ゾルくん、飴ちゃんどう?(^^)』って。名前呼んで、笑っとった」




「…………」




「俺もだ。『あんた、昨日も頑張っとったなぁ』って。いつの間に見てたんだ」




 先代魔王は——俺たちの名前なんか知らなかった。顔を見たことすらなかったかもしれない。




 でもあの魔王は、一般兵の名前を——覚えてる。




「……いい城だな、ここ」




「……うん」




 隣のゾルも、飴を舐めながら黙って頷いた。






◆よしこ視点




 さて。




 一般兵には配り終わった。




 次は幹部や。








「あら、魔王様。何やら素敵な匂いがいたしますわ」




 メルが、にっこり笑いながら近づいてきた。




「飴作ったんよ。はいどうぞ(^^)」




「飴でございますか。わたくし、甘いものには特に興味は——」




 飴を一つ、手のひらに乗せた。




「…………」




 メルの目が、飴に吸い寄せられとる。




「——あっ」




 口に入れた。




「…………」




「…………」




 メルの表情が、一瞬だけ——無防備になった。




「……美味しゅう……ございます」




 小声やった。


 策士の顔が完全に消えて、ただのお菓子好きの女の人になっとる。




「おかわりある?(^^)」




「い、いえ、わたくしは別に……もう一つだけ、いただきますわ」




 二つ目を受け取るメルの手が、ちょっと早かった。








「よしこーーーー!」




 空から降ってきた。




 ピプが羽根をばたばたさせながら、わての周りをぐるぐる回っとる。




「飴ーーー! 飴くれるってーーー! もらったーーー! もっとーーー!」




「ピプ、落ち着き(^^)」




「もっともっともっとーーー!」




 ピプがわてのカゴに頭を突っ込んだ。


 飴を三つ掴んで、口に全部入れた。




「ほっぺた膨らんどるで(^^)」




「ふぁんふぁいへいひー!(なんでもないー!)」




「よう喋れるな、それで」




 ピプの羽根がぱたぱたぱたぱた全開で動いとる。


 嬉しい時の合図や。




「もっとーーー!」




「あかん、一人三個までや(^^)」




「えーーーー!」




「みんなの分がなくなるやろ」




「えーーー……じゃあ、あとで!」




「あとでな(^^)」




 ピプが飛んでいった。


 ——あの子、絶対あとで10回は「あとで」って言いに来るな。








「……ティアちゃん」




「は、はい!」




 ティアちゃんが、飴配りを手伝ってくれとった。


 小さなカゴに飴を入れて、わてについてきてくれとる。




 尻尾がパタパタしとる。本人は気づいてへん。




「ティアちゃんも食べてな(^^)」




「え……わ、わたしも、ですか……?」




「当たり前やん。手伝ってくれたんやもん」




 飴を一つ、ティアちゃんの手に乗せた。




「…………」




 ティアちゃんが飴を口に入れた。




 尻尾が——




 パタパタパタパタパタ。




 最高速度や。




「……お、美味しい、です……」




「でしょ(^^)」




 ティアちゃんが嬉しそうに笑った。


 尻尾で全部バレとるけど、ええんよ。








 200個の飴が、全部なくなった。




 夕方。




 城の空気が、朝と変わっとった。




 廊下ですれ違う兵士が、「ああ、魔王様」って頭を下げる——その顔が、前よりちょっと柔らかい。


 訓練場から笑い声が聞こえた。飴の話をしとるんやろな。


 門番のあの鱗族が、次の門番に「飴をもらった」って報告しとった。業務連絡みたいに。




 ——ええなぁ。




 飴一つで、世界は変わらへん。


 でも、飴一つで、一人の顔はちょっとだけ変わる。


 それが200人分集まったら——城の空気は、変わるんや。




 保育園でもそうやった。


 最初は泣いてた子が、飴もらって泣き止んで、次の日から「おはよう」って言えるようになって。


 そういう小さいことの積み重ねが、全部や。








「魔王様」




 夕方、ヴェルちゃんがやってきた。




「ん? どしたん(^^)」




「恐れながら、ご報告がございます」




「なになに」




「本日、魔王軍の士気が——」




 ヴェルちゃんが言葉を探しとる。




「上がった?(^^)」




「……はい」




「よかったやん(^^)」




「……飴で」




 ヴェルちゃんが深い溜息をついた。




「300年の軍史において、飴で士気が向上した記録はございません」




「ほな、初めてやな(^^) 歴史に残るで」




「残していいものか判断に苦しみます」




「ヴェルちゃんも食べる?(^^) 一個だけ残してあるで」




「ヴェルザです。——いただきます」




 ヴェルちゃんが飴を受け取った。


 飴を見つめとる。小さな琥珀色の粒を。


 ——300年、戦場で生きてきた四天王筆頭が、蜂蜜飴を手のひらに乗せて眺めとる。




 口に入れた。




「…………」




 ヴェルちゃんの目が——一瞬だけ、閉じた。


 ほんの一瞬。でも、わてにはわかった。




「…………」




「……魔王様」




「ん?」




「……美味しゅうございます」




 声が、少しだけ——柔らかかった。いつもの軍人口調の角が、蜂蜜で溶けたみたいに。




「せやろ(^^)」




「……まったく。この城は——」




 ヴェルちゃんがまた溜息をついた。




 でも——その溜息は、いつもよりちょっとだけ柔らかかった。




「明日も作ろかな(^^)」




「……ご勝手に」




「ヴェルちゃんの分も作るからな(^^)」




「ヴェルザです。——……ありがとうございます」




 最後の一言が、すごい小声やった。




 聞こえたけど、聞こえんふりしとこ。




 ——さて。明日は何味にしようかな。


 レモン味もええかもしれん。




 この城には、まだまだ甘いもんが足りてへんからな(^^)





最後まで読んでいただきありがとうございました。


前話のシリアスから一転、コメディ全開回です。よしこ、飴を200個作って城中に配る。大阪のおばちゃんの行動力、おそるべし。


書いていて楽しかったのは、魔族一人ひとりのリアクションです。困惑→恐る恐る→「美味い」→照れる。全員同じパターンなのに、全員違う。鱗族の門番が「二つ目をもらえるか」って聞くところが個人的に好きです。甘いもの苦手って言ったやん。


魔族兵士Aの視点を入れたのは、「城の空気が変わる」を一般兵の目で描きたかったからです。先代魔王は名前も顔も知らない存在だった。でもよしこは「おはよう(^^)」って笑って飴をくれる。それだけで——兵士たちにとっては、革命なんです。


飴で革命。300年の軍史初。ヴェルザが頭を抱えるのも無理はない。


次回、第21話「廊下の二人」。深夜の廊下で、レオンとドルガがこっそり字の勉強をしています。見つけたのは——ティア。三人の秘密の勉強会が始まります。


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