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思い出の聖蹟桜ヶ丘(東京・多摩地区の耳すま舞台)でのプロポーズ

作者: さとるん
掲載日:2026/02/17

1 同じ空の下で


 高校まで、俺たちは同じ街に住んでいた。

 同じ多摩川の風を吸い、同じ京王線の音を聞いて育った。


 けれど大学進学を機に、二人とも地元を離れた。


 進学先は、**東京大学**文科二類。

 信じられない偶然だった。


 寮は都心、文京区本郷。

 赤門の近くの、古くて真面目な雰囲気の学生寮だった。


 地元に戻ることはほとんどなくなった。

 授業、サークル、友人、アルバイト。

 都心の生活は刺激的で、時間があっという間に過ぎていった。


 そして大学二年の冬、俺たちは恋人になった。


 きっかけは覚えていない。

 ただ、気づいたら隣にいるのが当たり前になっていた。


2 お台場の観覧車


 三年の春、二人でお台場へ行った。


 海の匂いと、広い空。

 そのとき乗った観覧車の中で、俺は妙な感覚を覚えた。


 頂上に差しかかったとき、美咲がぽつりと言った。


「なんかさ、私たち、このままずっと一緒にいる気がする」


 俺も、同じことを思っていた。


 夜景が広がる。

 小さくなった東京の街。

 ガラス越しの世界が、未来のように見えた。


 そのとき初めて、「結婚」という言葉が、現実味を持って胸に浮かんだ。


3 地元へ帰る


 卒業後、俺たちはそれぞれ都心の企業に就職した。


 だが住む場所は、あえて地元に戻した。


 親孝行をしたかった。

 それに、やはりここが落ち着く。


 朝、京王線で都心へ向かい、夜は多摩川の風の中へ帰る。


 忙しい毎日が少しずつ安定してきた頃、俺は決めた。


 プロポーズしよう。


 場所は、決まっていた。


 聖蹟桜ヶ丘しかない。


4 夕暮れの河川敷


 休日、久しぶりに駅前で待ち合わせをした。


「やっぱり落ち着くね」


 美咲がそう言う。


 駅前のシンプルな景色。

 高すぎないビル、広い空、遠くに見える川。


 東京・多摩地区特有の、ゆったりとした空気が流れている。


 俺たちは多摩川の河川敷へ向かった。


 夕方。

 オレンジ色に染まる空。


 高架の上を京王線が走る。

 ゴトン、と規則正しい音が響く。


「きれいだね」


「うん、素敵だ」


 並んで座り、他愛のない話をする。

 学生時代のこと、会社のこと、将来のこと。


 心臓が少しずつ速くなる。


5 高台へ


「ちょっと、登ってみない?」


 俺はそう言って、坂道へ向かった。


 あの映画の舞台になった高台。

 『耳をすませば』で、雫と聖司が語り合った場所。


 坂は相変わらず急だった。

 息を切らしながら登る。


 頂上に着いたとき、夜景が広がった。


 街の灯りが宝石のように瞬いている。


「やっぱり、ここ最高だね」


 美咲が笑う。


 俺はポケットから小さな箱を取り出した。


 指が震える。


「美咲」


 彼女がこちらを見る。


「俺と、結婚してください」


 箱を開ける。

 夜景の光が、指輪に反射する。


 一瞬の沈黙。


 そして。


「……はい」


 涙声だった。


 俺は心の底から、ほっとした。


 この街で育ち、この街で告白し、この街で未来を誓う。


 それが、俺たちらしいと思った。


6 青山の結婚式


 数か月後。


 東京・青山の式場で、盛大な結婚式を挙げた。

 親も友人も、みんな笑っていた。


 白いドレスの美咲は、あの日の高台よりも輝いて見えた。


 こうして俺たちの結婚生活が始まった。


7 橋の上で


 ある休日。


「久しぶりに、あの橋を自転車で渡ろうよ」


 俺が提案した。


 聖蹟桜ヶ丘と府中市をつなぐ、多摩川の大きな橋。

 歩道と自転車道が長く伸び、川の上を一直線に走る。


 風が強い。

 川幅が広い分、空も広い。


 途中まで来たとき、美咲が言った。


「ちょっと怖いかも……」


 確かに高い。

 横を見ると、水面が遠い。


「大丈夫。俺がついてるから」


 そう言うと、美咲は小さく笑った。


 橋は長い。

 ゴールは遠く見える。


 ペダルをこぎながら、俺は思う。


 ――俺たちも、この橋みたいだ。


 終わりが見えない。

 でも、確実に前へ進んでいる。


 遠い先にある景色は、まだ分からない。


 でもきっと、悪くない。


 俺たちも、このゴールの遠い橋の先のように、終わりの見えない結婚生活を最大限満喫するんだ。

 結婚生活はまだまだこれからだ。頑張る!


 そう心の中でつぶやきながら、俺はペダルを強く踏み込んだ。


 隣には、美咲がいる。


 東京・多摩地区の空は、今日も広い。


 そして俺たちの未来も、きっと同じくらい広い。

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