"火鸡"
───咀嚼
「これ」
「鶏ですか?」
僕たちは食卓に並んだ炙り肉を頬張りながら、神父さまに尋ねる
肉は筋張った部分を残しながらも、噛むと脂の甘さが口腔に広がっていく
脂をたたえた表面は、濡れた様に艶めかしかった
神父さまはいつもと変わらない美貌で「そうですよ」と答えたが、僕にだけは神父さまが昨日と違う様に思えて居た
とは言え、悪い変化ではない
昨日までよりも、神父さまが一層若々しくなった様に視えたのだ
神父さまは背も低く、服装以外は、まるで僕たちみたいな子供にすら視える
魔法みたいだったので理由を聞いた事もあったけど、「信心によるものです」と、いつもはぐらかされて居た
年少の子が肉を口に運びながら「七面鳥!」と言うと、神父さまは彼に優しく頷く
貧しかったせいか、僕は七面鳥なんて硬くて美味しくないものしか食べた事が無い
「こんなに美味しい七面鳥も有るんですね」と、僕はきらきらした眼で神父さまに言った
神父さまが、少し困った様子で口をつぐむ
僕はそれが一瞬だけ気になったが、子供たちが先を争う様に肉を食べていく事に気が付き、直ぐテーブルの上に関心を移した
無償の孤児院でもある教会は、常日頃から飢えた子供たちで溢れていた
その為、クリスマスの晩餐とは言っても、数分もすれば食べ尽くされてしまう
テーブルに並んだ七面鳥の肉は、最初の頃こそ数え切れない程の量に視えたが、それでも長くは保たなかった
年々、食べ尽くされるまでの時間が短くなって居る
貧しい子供が増えているのかも知れなかった
僕は、教会の奥へと通じる扉の前に立っていた
ここから先に人が招かれる事は無い
でも、僕は子供だからそこまで厳しくは怒られないかも知れない
いざとなったら、「片付けを手伝おうとして、来てしまいました」と言い訳しよう
楽しい夜を過ごすうち、今夜は教会に泊まりたくなってしまったのだ
扉の先は廊下になっていて、真っ直ぐな通路の片側に扉が幾つも並んで居る
反対側は窓だ
規則正しく並んだ窓からは、外に積もった雪に照り返されて月光が差して居た
一番奥の扉から光が漏れている事に気が付き、僕は廊下の奥を目指した
教会の廊下は静かで、足音だけが心地良く夜に響いていく
突き当たりまで辿り着くと、僕は部屋の扉を開いた
よく片付いた薄暗い部屋の中では、神父さまが大きなテーブルで自分の夕餉を頂いて居た
僕たちに振る舞った料理と同じ大皿に、赤黒い肉や骨、眼球、臓物が散らばって居る
『きっと七面鳥を解体したあとの端材を、御自分では召し上がられて居るのだ』と、僕は神父さまの苦労に胸が締め付けられたが、神父さまは僕に気付くと、こちらを視て優しく笑った
その時、初めて僕は気が付いた
皿の横には視知った顔
瞠目して血の気の引いた、神父さまの真っ白な首が置かれて居た
「毎年、聖なる夜が近くなる頃には」
「躰が新しくなるのですよ」
事もなげに、神父さまが説明する
「これも信心と思い、皆に振る舞って居ます」
言いながら、皿の上の腸をカトラリーで切り裂いてフォークに刺す
神父さまが、それを僕に向けて差し出した
「私の総てを」
「食べ尽くしてくれませんか?」
僕は、自分の心臓の音が早くなっている事に気が付いた




