2話 中古品ショップ② こどももどき
中古品の種類が豊富で、程よく入れ替わる場所をお探しであるのなら、お近くの中古品ショップへ行くと良い。街道沿いか駅の近くの店舗であれば良い。週末に訪れることができるのならば、なお良い。
週末の中古品ショップは、大繁盛とはいえずとも程よく客が多い。いつもは気さくに話しかけてくれるバイトの中村くんも、今日はしきりにレジを操作していて忙しそうだ。
週末、特に土曜日の夕方はフィールドワークに向いている。不要なものを売って得た金を翌日に使う人が多いのだろう。
やや慌ただしい店内を練り歩いていると、ぞっ。と冷たい手で背筋をなぞられるような感覚がして振り返った。
寒気の元を辿っていくと、おもちゃのジャンクコーナーの籠に着いた。ジャンクコーナーとは、通常売り物にならないような壊れたり汚れた品物が、かろうじて値をつけられて置かれている場所である。
一昨日に来た時とは、ジャンクコーナーの顔ぶれが大きく変わっている。今日入荷した新入りが気配の元だろう。そう、当たりをつけてしばらく籠を物色したが、冷たい気配の元は見つけられなかった。
「おかしいなぁ」
とこぼした瞬間、背後に先ほど感じた寒気を再び感じた。ソレは、私の隣にしゃがみ込むとジャンクコーナーを物色し始めた。小学生くらいだろうか。緑色の半袖を着て、青い靴を履いていた。顔は見てはいけない。と思った。
「おばちゃん、コレ、買ってよ」
ソレが手にしたものも、見てはいけないと思った。自分のことを知覚出来る者を呼び寄せる知能と能力があり、そして私はまんまと呼び寄せられてしまったのだ。そう理解してしまった私は、しゃがんだ姿勢のまま迂闊には動けなくなってしまった。
「おばちゃん、コレ、買ってよ」
どうやってこの場を切り抜けるか考えている間にも、
「おばちゃん、コレ、買ってよ」
こどもの姿をしたソレは話しかけてくる。
「おばちゃん、コレ、買ってよ」
明らかに危険な存在を前に目を逸らして聞こえないふりをするしかないと言うのも、
「おばちゃん、コレ、買ってよ」
なんとも悲しく、どうしようもない。
「おばちゃん、コレ、買ってよ」
いや、こういう存在を観測するために、私はここに来ているのではないか。
「おばちゃん、コレ、買ってよ」
覚悟を決めた私は、ソレが何者なのかみることにして、後悔した。
ソレは背格好は小学生くらいの男の子だったが、首から上が付いていなかった。ソレが手に持っている頭が、声を発していた。頭は、何かに轢かれたように歪んでいた。
「おばちゃん、コレ、買ってよ」
私は、なるべく声を出さないようにしながら、ゆっくりと後ずさった。こういった危険なものの対処法は、スズメバチに対するそれに近い。
騒いだり慌てたりせずに、しかし目は離さずにゆっくりと距離を取ること。
十分に距離を取ったら、急いでその場を立ち去ること。
じっとその場を離れても、ソレは着いてこなかった。相対した印象よりは執念深くないのだな、やはり多少は危険に近づかないとフィールドワークの甲斐がない。などと考えながら手を洗い、ふう。とため息をつくと、家のチャイムが鳴った。
「おばちゃん、なんで買ってくれなかったの」
インターホンの向こうでソレが喋っている。
「なんで? なんで!」
ソレが叫ぶたびに、家中の窓がバタバタと音を立てて揺れる。しばらく息を殺してその場に立っていると、叫び声が止んだ。そのまま固まっていると、リビングの窓に、ソレがびったりと張り付いて中を覗いているのが見えた。
ガラス越しに目が合ったが、ソレは家の中には入ってこれない様子で、恨めしそうに私のことを睨んでいた。
おぞましい存在が窓から覗いているのはいい気持ちではなかった。
しかし、15分も見つめ合うと慣れた。人間の適応力というものはすごいものだ、と私は1人で勝手に感心した。
感心しながら私はゆっくりと珈琲の豆を挽き、やかんを火にかけた。
丁寧に淹れた珈琲を飲みながら、頂き物の切腹もなかを食べる。私が珈琲を淹れている間も、ソレはじっと私を睨んでいた。
ここで初めて、私はソレを冷静に直視した。
身長は手に持った頭と合わせて大体150cm程度。小学校高学年くらいの男の子か。頭がひしゃげているのは自動車事故か、それとも高所からの落下か。強い衝撃が加わったのだろう。
死因がその強い衝撃であるならば、頭が胴体と泣き別れているのはどういったことか。胴体から離れてしまうほどの衝撃だったのか、それとも……
気がつけば、窓に張り付いていたソレは姿を消していた。すっかり珈琲が冷めてしまっているところを見るに、それなりに時間が経っていたようだ。
もう少しあの子について知りたかったな。などと考えていると、夫が帰ってきた。
「今日は白菜が安かったから買ってきた。豚肉と重ねて鍋にしよう。本当は隠し味に日本酒を入れるととても美味しいんだけど」
などと夕食のメニューについて楽しそうに話している。夫が無事に帰ってきたということは、私についてきたあの子は、どこかへ行ってしまったのだろう。
良かったような、もったいなかったような。なんとも言えない気持ちをぶら下げて、念の為御神酒でも庭に撒いておこうと思ったが、先ほど夫が我が家の日本酒不足を嘆いていたことを思い出した。
仕方がないので料理酒でも撒いておこうか。




