11話 チェーンの中古ショップ
中古品ショップに行かなくなってから1週間が経った。ゆりえは、御神体を探すと言って家から離れていった。
「くれぐれも、あの中古ショップには行かないでよね」
と人差し指を立てて私に忠告した。真剣な話をする時の、小さい頃からの彼女の癖だった。
「分かった。気をつけるよ」
そう言ったものの、ゆりえが出ていってからの私は、あの店にもう一度行きたくてたまらなくなっていた。神社の隣のリサイクルショップはあれから店を開けていない。夫がモノ探しのために遠出をしているためアンティークショップも開いていない。
私はぽっかりと空間が余ったリビングで、1人ご飯を食べた。静けさが寂しくてラジオをつけても、静寂が際立つだけだった。
「この家ってこんなに広かったんだ」
と声を出しても何も返事はなかった。
私は、駅直結の複合施設にあるチェーンの中古品ショップの存在を思い出した。大手が管理していることもあり、良くも悪くも価格設定が堅実なその店は、この街でおそらく私のフィールドワークに向いていなかった。要するに、第六感に響く品がほとんどないのだ。
それでも私は中古品が並んだあの空間が恋しくてたまらなくて、その店に行くことに決めた。
愛しの自転車(余談だが私はこの自転車のことを密かにアイシャと呼んでいる)にまたがり、力任せにペダルを漕いだ。自転車の良いところは、力を込めればそれに比例して早く移動できるところだ。私の鬱憤は、私を素早く店まで運んだ。
駐輪場から店まで移動しながら、私は考える。中古ショップツクモのこと、神社で会った老婆のこと、リサイクルショップで聞いた御神体のこと。まとまらない考えが浮かんでは消え、私の思考の池の中でぷかぷかと揺れている。
「あの!」
私は、自分がすでに目的の店に着いていたことに気づいた。そして、誰かに話しかけられていたのだと気づいた。
「あの、まりこさんっスよね」
「あ、中村くん!」
彼は、この店の制服を身につけてそこに立っていた。
「久しぶりじゃないスか! 最近お店に来ないから心配してたんスよ!」
「私も、中村くんのこと心配してたんだ。ここでもバイトしてるんだね」
私達は、ここ最近のお互いの近況をかいつまんで伝え合った。中古品ショップツクモは、以前にも増して繁盛しているようだった。
「店長が、この土地はすでに掌握した〜とか言っててマジでウケましたね」
中村くんは、真面目な顔をしてそう言った。
「この店の使い方を理解した。土地も、店も、力も全て私のものだ! とか魔王みたいなことを言うんスよ。大の大人が恥ずかしい」
「シラフで言ってるなら大分ヤバい人だね」
「まぁ元々大分ヤバい人でしたからね」
中村くんは、他の客に呼ばれてレコードやピックを売ってから戻ってきた。
「そういえばまりこさん、知ってますか。売買って契約なんスよ」
「どういうこと?」
「品物を金銭と交換する、という契約を購入って呼んでいるんスよ。単純な話っス。この購入っていう行為は、物自体と人との契約にもなる。これだけの価値があると金品で示し、新たな主人になる契約を道具と結ぶ。中古ショップは、良い悪いに関わらず契約の連続なんス」
「店長からの受け売り?」
「バレましたか」
中村くんだけは、この街のオカルティックな影響の外にいるような気がした。
私は中村くんと話しながら、店内をじっくり見て回ったが、私のセンスに訴えかけてくるようなものはやはりなかった。そもそも、最後にこの店を訪れた時よりも明らかに品物が少ない。
「うちの店が全部買い取ってますからね」
とつまらなそうに中村くんは言った。
帰り際、店長から伝言がある。と中村くんに言われた。
「まりこさんに会ったら絶対に伝えろって言われたんで、伝えときます。『当店は今、ダルマの買取強化中です』だそうです」
「ダルマ? どうしてだろう」
「ダルマが旬なんじゃないっスか」
帰り道の私は、中古品ショップツクモの店長の言葉を何度も頭の中で反芻した。
これは、探している品を持ってこいというメッセージだ。私が持っているダルマと言えば、あの老婆から貰い受けた白黒のダルマしかない。あんなものに何の価値があるのだろうか。と思い、カメラのことを思い出した。あまりに書斎での収まりが良いから忘れていたが、あれにも何かがあるのだろう。と思い直した。
家に着いた私は、早速夫の書斎にある白黒のダルマを見に行った。
「お前には何があるんだい」
と話しかけても、ダルマは一点を見つめて押し黙っている。デコをとん、と押すと、ダルマはからりと音を立てて姿勢を直した。
「からり?」
ダルマと言うものの中身は、起き上がらせるための錘が積んである以外はがらんどうである。しかし、こいつは起き上がるたびに、中で何かが転がる音がする。
私はリサイクルショップで見たマトリョーシカを思い出した。思い出したからには、確かめない訳には行かない。私は人生で初めて、ダルマを捌くことに決めた。
私が扱える刃物なんて、調理用の包丁くらいしかない。まな板の上にだるまを置くと、食べ物に見えてくるから不思議である。起き上がらないようにダルマを押さえつけて、南無三! と包丁を突き立てた。和紙を破るような感触が不快で、私は息を細く吐いた。腹を開かれたダルマは、何も起きていないかのように私を見つめている。




