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校内ラジオで恋愛相談をしてたはずが、気づけば学園の美少女たちに言い寄られてた  作者: 尾乃ミノリ


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夜明けの……

 次のお便りは「昆布わかめ」だった。落ち着いたトーンのお便りをいつも書いてくれる(当社比)人ではあるのだが、今日のはどうやら様子が違っていた。


「こんにちは、いつも楽しくラジオ聞かせてもらっています。


 今回も恋愛相談とは少しずれるとは思うのですが、少し相談したいことがあってお便りを送りました、


 実は私には最近気になっている人がいます。私も彼と一緒に仕事をしたいと思って何度もアプローチをしてきたのですが、私のアプローチの仕方が悪く、その人をむしろ怒らせてしまいました。


 冷静に考えるとどう考えても私が悪いのですが、最悪なことに、ついかっとなって、かえって突き放すような態度を取ってしまいました。


 直ぐに謝るべきなのは分かっているのですが、こちらが逆上してしまった手前、改めて顔を合わせるのも恥ずかしく、その事実から目を背けることしかできずにいます。


 私は彼を怒らすつもりはなかったのです、許してくれとは言いません。どうすれば彼にそれが伝わるのでしょうか?……というお便りでした」


 相談というよりは、むしろ罪の告白でもされているかのような、そんなお便りだった。


「はい……つい怒らせてしまった相手にどうやって謝るか、という話ですよね……。少なくとも俺には昆布わかめさんの謝罪の気持ち、凄く伝わってきました。リスナーの皆さんもそうじゃないかと思います」


 何の慰めになるかもわからないが、軽いフォローを一つ入れる。


「アドバイス……そうですね、一応この文章読む限りでは、昆布わかめさんとそのお相手さんはそこまで仲がいいわけではないんですかね?だから改めて謝る……、みたいなのが余計やりずらくなってるのかなって推察します。


 ……難しいですよね、僕も立場とか変なプライドとかが邪魔しちゃって謝れなくなることってありますし。妹となんてしょっちゅう喧嘩してます」


 ゲーム、漫画におやつ……。『お兄ちゃんなんだから』という言葉に反発することで、兄という立場のせいで俺が悪者にさせられているだけで、その実俺は悪くないんじゃないかと思う事も多々あった。


 だが、そういう時は概して冷静になると俺が悪かったなと反省させられるのが大半だった。


 だからこそ、こういうのは初期対応が大切だ。厳しいとは分かりつつも、素直な気持ちをマイクに乗せる。


「……だけど、結局謝れるのって自分だけなんですよ。感謝も謝罪も、直接伝える以外に方法はないんです。なので、彼にどうやって伝えればいいかって質問には、昆布わかめさんが直接謝るっていう方法以外にはないと思います。」


 ふう、と一呼吸落ち着ける。だが、ここで終わっては意味がない。せめてラジオパーソナリティとして、実のある情報を伝えたい!


「……だけど、直接謝るまでの準備は昆布わかめさんが直接する以外にも、方法はあると思います!


 例えばその人の友達にアプローチして、謝る場をセッティングしてもらうとか、その場にたどり着くまでの方法は他の人に任せてもいいんじゃないかと思います。


 昆布わかめさんが全力を出すのは謝るとき!そこまでの過程に気をもみすぎて結局謝れずに夏休み……みたいなことにならないことを影ながら祈ってます!」


 辛気臭くなり過ぎないように、最後語調を軽くして話を締めた。

 だが、じんわりとしただるさが体をまとっている。これは何も相談に乗ったからだけじゃない。


 必死にそのトーンを振り払って、精一杯明るい声を出す。


「はい、それでは続いてリクエストナンバー行きたいと思います!フジファブリックで、『夜明けのBEAT』」






 ♢



「というわけで、夏休み最後のラジオいかがだったでしょうか?いや、、皆さんとまたこうして会えるのは大体1か月後になるわけですが、寂しい思いしないでくださいね

 それではまた2学期に会いましょう、さようなら~」


 じゃんじゃんと静かなベースの音が流しつつ、俺はマイクのボリュームを0にした。

 暫くしてからフェーダーに掛かる指に力を入れて、BGMをゆっくりと小さくする。


「あー、つっかれたぁー……」


 優秀な防音設備の壁は、腹の底から出た声を見事に吸収してくれた。

 丁度そのタイミングで、ぎぃっと音を立てて扉が開いていく。


「おっすー、やってる?」

「すみません、今丁度お店閉めちゃってー」


 小さく手を上げながら入ってくる先生。俺も椅子に大きくもたれかかったまま返事をする。


 放送が終わってからようやく入ってきた先生は、俺の言葉を無視して軽い足取りで入り口近くの椅子に座った。相も変わらず、手には焼きそばパンが握られている。


「もう放送終わっちゃいましたよ」

「悪い悪い、学期末は色々立て込んでな。副担って大変なんだよ」


 あー腹減ったと呟きながらパンのビニールを剥いていく先生。


 その一口目をほおばる直前、ちらりとこちらに目を向けた。


「影山、昼めし食わないのか?」

「大丈夫です、放送始める前にもう食べきっちゃいましたから」

「珍しいな。早弁か?」

「そんな感じです、今日はちょっとカロリー使いそうだったので」

「カロリーねぇ……」


 ふぅん、と言いながら先生はぱくりと焼きそばパンにかじりついた。

 俺も先生が来た手前スタスタと放送室を出るわけにもいかず、椅子に座ったままスマホをいじる。


「確かにカロリーかかってる分、確かに今日のはいい放送だったな」

「何ですか突然、褒めても何も出ませんよ」


 パンをかじりながらうんうんと頷く先生。俺が怪訝な顔を向けるが、先生はまるで効いていない様子。


「特にあのお便りが良かったな、怒らせてしまった人への謝り方、みたいなやつ」

「ああ、あれですか……」

「うん、職員室でもどよめきが起きてたぞ」

「茶化さないでくださいよ」

「違う違う、褒めてるんだよ」

「だったらなおさらです……」


 あの答えは自分で言いながらブーメランのように俺に刺さっていた。改めて褒められても、自分があの通りに出来ていない気がして、余計気が重くなってしまう。


「はぁ……」


 思わずため息が漏れる。丁度そのタイミングで先生のスマホに着信が来た。

 何とはなしに先生の方に視線を向ける。先生はしばらくスマホを眺めたかと思うと、にやりと口の端を上げた。


「影山、高校生っていいな」


 その表情を崩さないままで、先生はこちらに顔を向けた。


「何ですか突然、悪い大人の顔して」

「いやぁ、私もこんな青春送りたかったなーって思ってさ」


  表情は変えぬまま、先生は何もせずに携帯を閉じた。


「いいんですか、返信しなくて」

「大丈夫、こういうのは大人の出る幕じゃないから」


 どこか満足げな先生をぼーっと見つめながら、俺は昼休みが終わるのを淡々と待ち続けていた。

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