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校内ラジオで恋愛相談をしてたはずが、気づけば学園の美少女たちに言い寄られてた  作者: 尾乃ミノリ


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夏への合図

第二部開幕です

よしなにお願いします

 7月。


 容赦無い日差しが照り付けるようになった昨今。暑すぎて涼しくない気候の中、テレビの最高気温の10の位が平気なツラして一つ大きくなって嫌になる。


 最近の若い子は外で遊ばないなんて嘆かれて久しいそうだが、それがリスク管理だと堂々と言えるくらいには最早危険な月である。


 だが、我々高校生は否応なしにテンションを上げさせられるイベントが、7月には待ち構えている。


 そう、夏休みである。


 普通の高校である我らが明仁高校にも当然のごとくそのイベントは到来し、気温以上に教室の中での熱気は高まっている。


 プール、海、夏祭り、エトセトラエトセトラ……


「今年の夏はどこに行こうか?」

「春の桜も夏の海もあなたと見たい!」


 なんて会話が教室のあちらこちらから聞こえてくる、夏だっつってんだろ。


 とまあそんな野暮なツッコミは置いておいて。とにかく何が言いたいのかというと、夏休みというのは俺達高校生にとって非常に重要なイベントなのである。


 そんな一大イベントを前にして浮かれる教室の中で、俺———影山翔吾は……。


「うーむ……」


 机の上の大量のお便りを前にして、うんうん唸っていた。


「もうすぐ夏休みだって言うのに浮かない顔ね」

「北原……」


 本を読みつつちらりとこちらを窺ってくる彼女の名前は、北原柚葉。

「北風の令嬢」なんて冷ややかなあだ名がついている彼女も、特に教室ではそわそわしている様子はない。つややかで長い黒髪に一切の乱れはなく、その額には一滴も汗は流れていない。


 相変わらず100点のクール系清楚美少女だ。

 彼女は俺の机の上にちらりと目を向けてから、再び本に目を戻した。


「聞くまでもないと思うけど、悩んでいるのはラジオの事?」

「ご明察でございます……」


 力なく一つ頷くと、北原は不思議そうに目を細めた。


「どうしたの?普段以上にお便りたくさんあるのに、何がそんなに不満?」

「いや、不満って訳じゃないんだけどさ」


 寧ろ今はお便りがいっぱいあるせいで困っているのだ……。

 俺が小さくため息をつくと、北原は本に目を落としたまま、小さくこほんと咳ばらいをした。


「私で良ければ聞くわよ?一応、こ、古参リスナーなわけだし」


 少し言葉に詰まりながら北原は話す。


 そう、今でこそリスナーも増え、お便りで机が埋まるほどになってきた俺のお昼の放送であるが、その昔は廃部一歩手前だった。


 最近判明したことだが、実は北原はその低迷期からのリスナーの一人だったりする。


 正直そんな彼女からの提案は非常に温かい。本来リスナーにこんな話をするのはよろしくないんだろうが、ついその言葉に縋りたくなって、悩みを愚痴ってしまう。


「まあ見ての通り、夏休み直前になってお便りが激増したんだよ……」

「ええ。さっきも言ってるけど、いい事じゃないの?」

「実はその内容が問題でさ……」


 北原から見えないように、一枚ペラりと紙を取る。


「なんて言うか……夏が近くなったせいか、その、皆の相談内容も過熱してきたというか……」


 有り体に言ってしまうと「彼氏との関係性は夏の間にどのくらい勧めたらいい?なんてラジオで喋れるわけ無いだろ!」という話である。

 全校にそんな放送垂れ流してみろ、人気関係なしに一発BAN間違いなしだ。


 ふわっと誤魔化したが、そこは成績優秀な北原。俺の表情から言わんとしていることを理解してくれたらしく、小さく頷いた。


「なるほど、それは確かに厳しい顔にもなるわね」

「だろ?俺になんのアドバイスをしろって話なんだよな……」


 流石にそのレベルの奴は無視しても文句は言われないと思うが、問題はもうちょい手前のお便り、例えば夏休みのおススメデートスポットは?みたいなお便りだ。


 ネット見ろと言いたいところだが、折角俺を頼りにしてくれてるのに一太刀で切り捨てるのは俺のポリシーに反する。


 だけど夏休みに女子と出かけるなんてイベント、妹の同伴(ATM)が限界だった俺からしたら逆にどうやってそこまで漕ぎつけたのか聞きたいよ!


 ……ダメだ、言ってたら空しくなってきた。


「正直、デートなんざしたことないしな……」

「……へぇ?」


 机に突っ伏して聞こえないレベルで小さくポツリと呟いたつもりが、上から冷たい声が聞こえてくる。

 慌ててぱっと顔を上げると、北原は満面の笑みをこちらに向けていた。


「この間私を散々付き合わせといたくせに、そんなこと言うのね?」

「あ、いや!そうじゃなくて……」


 必死に手を振って誤魔化す。北原は満面だが、張り付いたような笑顔。ヤバイ、眼が笑ってない。


「その、あれは正直俺の自己満足って言うか、北原を正直満足させられたとは思わないと言うか、あれをデートと呼ぶのは北原に申し訳ないと言うか……」


 ごにょごにょとカッコ悪い言葉を並べ立ててしまう俺。一緒に出掛けた時は散々カッコつけたような気がしたが、いざ家に帰って冷静になると、自分はなんてことをしてしまったんだと恥ずかしくなってしまっていた。


 だが、北原はぷいっと顔をそむけてしまう。


「あの時はデートって言ってくれたのに……」

「え?なんて?」


 何か小さくつぶやいた気がしたが、彼女の声ははっきりとは聞き取れなかった。


「何でもないわ。影山君がそういう人だっていうのは、はじめっから分かり切ってたことだし」

「お、おう、そうか……?」


 しょうがないなとばかりにため息をつく北原。だが、そこには呆れの感情こそあれど失望は無いように思えた。……多分。


「で、結局そのお便りはどうするの?全部読まずに乗り切るつもり?」

「そうしたいのはやまやまなんだけど、何せ数が数だからな……。正直期待外れになること覚悟で答えるしかないかもな」

「流石は恋愛マスター、経験値が違うわね」

「茶化すなよ」


 とは言え北原の言う通り、俺もここ数か月恋愛相談企画をやってきて一応経験値はついている。

 リスナーからのお便りが増えれば増えるほど、恋愛のいろんなシチュエーションに対する知識はしっかりと蓄えられているのだ。


 ……そこ、練習ではいつも1番なのに実践投入されるとポンコツなアイツみたいとか言うな。自分でも分かってるから。


 ダメだな今日は、一人で考えて勝手に落ち込んでばっかりだ。


「何にせよ、もうちょっと俺に経験値があったらな……」

「経験値、ね……」


 隣で北原が小さく復唱した。半ば自分に言い聞かせるような小さな声だった。


「か、影山君は、経験値を積みたいと思ってるのかしら……?」


 なぜかつっかえつっかえに話す北原。俺もはたまに?を浮かべつつ、素直に答える。


「そりゃまあな、ラジオ的にも相談された側が何も分かんないって言うのは、やっぱり問題だろうしな……」


 後単純に青春したい、男子高校生として切実に。あくまでもラジオ一筋って思ってくれてる北原にこんな事言うのは照れくさいから言わないけど。


「そ、そうよね。ラジオとして、知ってなきゃだめよね……」


 それを聞いて、北原は頬を紅潮させ、体をもじもじと揺らす。本を握る力が強くなっているのが分かる。


「じゃ、じゃあ影山君。私から一つ提案があるんだけど……」

「ん?どうかしたか?」

「よ、良ければ今度の夏休み……」


 ギーンゴーンガーンゴーン


 北原が何か言いかけた丁度そのタイミングで、授業開始のベルが鳴った。

 彼女はベルの音にビクッとして、そのまま言おうとしていたことを止めてしまった。


「なあ北原、さっきなんて……」

「よーしお前ら、授業始めるぞー。世界史の真城先生の授業だぞー」


 北原の言葉の続きを聞こうとしたその時、勢いよく扉は開かれ、長身の女教師が大股で教室に入ってくる。

 普段は遅れて授業来るのに珍しいな……。


 そんなことを考えていると、先生はそのままドンと両手をテーブルに就いた。


「君たちは夏に向けてキャッキャしてるところかもしれないが、そんな甘ったるい私語が聞こえたら2学期頭の実力考査の点数5点ずつ引いていくからなー」


 年が近く、親しみやすさで高い評判を得ている放送部顧問の豹変っぷりに途端に緊張感が走る教室。

 どう見ても私怨100%の減点だが、それを指摘できる人間はここにはいない。口を真一文字に結ぶ俺達を一通り見て、先生は満足げに頷いた。


「じゃあ始めていくぞー、今日はモンゴル帝国からだな」


 普段より筆圧強めな先生の板書を見つめながら、俺のノートにはハンの二文字が羅列されるのであった。


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