昂る抹茶と新たな刺客
「それでは最初のお便りは、ラジオネーム、抹茶パウダーさんからです!
影山さんこんにちは、いつも楽しく聞かせてもらってます、
私は以前このコーナーで気になっている人がいると話して、先輩からアドバイスをもらいました。
あー、確か抹茶パウダーさんはあれですかね?妹としか思ってもらえない相手にどうやってアプローチすればいいか……みたいな話ですよね。確か俺も妹キャラを活かして、ギャップで戦えばいいって伝えたんでしたっけ」
新規リスナー向けの軽い補足説明をひとつまみ入れる。
「ええとそれで……、
影山さんの言う通り妹キャラで攻めてみたんですが、正直手ごたえは一切ありませんでした……」
マジか、ごめんな抹茶パウダー……
「ですが!そんな私にも進展がありました!なんとその、気になっている先輩と間接キスをしちゃったのです!しかも向こうから!
私としてはこれ以上なく脈ありなジェスチャーだと思うのですが、確信を得られません。影山さん的には、そこん所どうなのか、教えて欲しいです!
……とのことですが、」
成程、気になる先輩と間接キスしちゃった、か。
これはなんとも……
「いやぁ、甘酸っぱいお便りでしたね~。俺正直めっちゃ悶えそうですよ!リスナーさんどうです?特に俺と同じ彼女がいない男子諸君!ご飯むせてないですか!?」
煽る様なトーンのリアクションを一つ挟む。ちなみにバレてない振りをしているのかもしれないが、真城先生は片手で口を覆っている。
……むせたんっすね。
「で、お便りの内容は……正直そこの所どうですか?って書いてますけど、これは間接キスが脈ありかどうか判定して欲しいってこと……ですよね?」
微妙に文章のニュアンスは違う気がするが、まあ多分こういう解釈でいいだろう。
そうか……間接キスかぁ……。
正直経験がなさ過ぎてよく分からないが、この手の話は妹から強制的に読まされた少女漫画でストックがある。ええと、あの手のヒーローたちは確か……。
「そうですね、相手の人がそれをわざとやってるんだったら、正直脈ありなんじゃないかと思います!
この間抹茶パウダーさんに伝えたやつの逆です。兄としか思われてない自分を意識させるためにわざとドキッとさせるようなことをして、そのギャップで落としてやろう!みたいな、そんな裏の意図があるんじゃないかと思いますね!
その後に飄々としてればしてるほどその可能性は高いと思います!」
所謂『なんで間接キスしたって言うのにあんなに平気な顔してるのよ!私ばっかり意識しちゃってバカみたい!』からの、実はヒーローもこっそり照れてました……的なオチの奴だ、あるある。
「妹キャラが不発に終わったのは何とも申し訳ないですけど、かなりいい感じなんじゃないかと思います!頑張ってください!」
このラジオを通じて誰かの恋路を見届けられている。
おこがましいかもしれないが、自分が誰かの人生に貢献できている気がしてなんだか嬉しかった。
「はい、と言う感じで恋愛相談企画は一回しか投稿しちゃいけないなんて決まりはありませんからね!この企画で恋が進展した人がいらっしゃれば、一報お待ちしています!」
そう告げて、次のお便りをペラりとこちらに寄せる。
少し懐かしい名前に、ほっと安堵のため息が出る。
「では次のお便り、ラジオネーム昆布わかめさんから!」
昆布わかめ……物腰柔らかで丁寧なお便りを送ってくれる人だ。
恋愛相談企画を始めてからお便りが来ないから少し不安になっていたが、やっと送ってくれたか……。
自分の企画が人気になって新規リスナーが来るのももちろん嬉しいけど、古参勢がこうして乗っかってきてくれるとやっぱテンション上がるな……。
よし、気合い入れて読むぞ!
「影山さんこんにちは、久しぶりにお便りの方送らせていただきます。新しい企画を始められたという事で、恋愛相談とは少し違うかもしれませんが、今回私もお便りを送らせてもらいます。
私が聞きたい事は、影山さんが誰かに告白するとき、どんな台詞で告白するのか教えて欲しいという事です。
影山さんは恋愛相談企画をやっていらっしゃるくらいですから、そういう経験もかなり豊富なんじゃないかと思われます。
なので、後学のためにも影山さんが一番カッコいいと思う告白の台詞を教えて欲しいです。出来れば具体的に、臨場感たっぷりに話してくれると嬉しいです。
……とのことですが」
他のお便りには見られない雰囲気の落ち着いたトーンのお便り。しかし端的ながら文面から非常に熱い情熱を感じる。
しかし、経験豊富か……。恋愛相談をやっている手前、こう思ってもらえるのは嬉しい話なのだが、自分の恋愛経験と照らし合わせると悲しくなってくるな……。
「ええと、カッコいいと思う恋愛相談の台詞ですから、男側からってことでいいんですかね?昆布わかめさんも参考にしたいっていう事なのかな?」
んっんっ、とラジオではめったにしない咳ばらいを一つして、気合を入れる。
その……告白の台詞だったら、無難に『好きです!付き合ってください!』とか、『俺の傍にいてくれませんか?』とか、ちょっとオラつくなら『俺のモノになれよ』とか……」
そこまで言ってふと視線を上げると、先生が虚ろな目でこちらをじっと見つめていた。
「俺のモノになれよ、か……」
急にかーっと体の奥が恥ずかしさで暑くなる。いかん、ついテンション上がっちまった。俺が少し固まっていると、先生は小さく口を開けた。
「言われたいなぁ、そんな台詞……」
「と、とまあこんな感じですね!」
いたたまれなくなって、俺は慌てて放送に集中する。
あと普通に恥ずかしい、シチュエーションボイスとかじゃないんだぞ俺の声は。
「臨場感たっぷりとのことでしたが、それは別料金という事で……。はい!昆布わかめさん、参考になりましたでしょうか?では、次のお便りに行きたいと思います!」
照れ隠しのボケをはさみつつ、俺は急いで次のお便りを手に取った。