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校内ラジオで恋愛相談をしてたはずが、気づけば学園の美少女たちに言い寄られてた  作者: 尾乃ミノリ


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19/48

会長の目的

 その後、なんやかんやありつつ昼食を食べ終わり、俺は帰路についた。


 俺が二人分の水を汲んでコップを渡したら、木南が逆だと勘違いして俺のコップを取ろうとして来るというひと悶着があったせいで、正直麺は大分伸びてしまっていた。


「アイツ、なんだかんだ疲れてたんだろうな……」


 俺が汲んできてるんだから間違えるはずないのだが、あそこまで執着するとは……。

 バイト頑張り過ぎなのかもしれないな。


 答えの出ない問いをぼんやりと考えつつ、教室に戻る。

 すると、廊下の一区画が随分と騒がしい。


「なあ、あれって……」

「いや、あんな人他にいないだろ……」

「オーラすげー、ホントに一個上か?」

「って言うかうちのクラスに生徒会役員っていたっけ?」


 ちょうどうちの教室のあたりだ。皆が教室をチラチラ横目で見ながら通り過ぎて行っている。

 近づいていくにつれて、そのざわめきの正体は次第にはっきりしてきた。


 廊下に面した窓に軽くもたれかかってウェーブがかった髪をたなびかせながらゆったりと立っている人物。


 明仁高校生徒会長、西園寺千早先輩だった。


 彼女が他学年の教室に現れることなんかめったにない。皆緊張してか少し迂回しながら彼女の横を通っていく。しかし本人は一切気にしていない風だ。



 一応俺は生徒会長とは顔見知り程度の存在ではあるから、挨拶程度はするのが筋なのだろう、が……。


 ……正直、生徒会室での一件があってから気まずいんだよな。


 もともと頻繁に話すような間柄じゃなかったが、当然あれ以降俺たちの会話は無し、そもそも会ってすらいない。だが、素通りも失礼か……?

 教室から少し離れたところで立ち止まって、しばし考える。


 よし、俺も避けて通ろう。向こうも下手に目があったら気まずいだろうし。

 

 人込みに紛れるようにして廊下の反対側を通る。

 瞬間、うつむいていた会長の視線がすっと前を向いた。


「待ちなさい」


 凛とした響きに一瞬足が止まる。が、またすぐに歩き始める。

 おいおい、俺が呼ばれてるわけないだろ……。変に立ち止まったら俺が勘違いしているイタい奴みたいになっちまう。


「影山君、あなたに待てと言っているのよ」


 今度は耳元で声が聞こえてきた。

 油の足りていない機械のような動きでゆっくりと横を向くと、迂回したはずの先輩は、いつの間にか俺の真横に立っていた。


 ターゲットが俺だと分かった瞬間、周りの同級生たちは蜘蛛の子を散らすように去っていった。


「俺……ですか?」

「あなた以外に影山君がいるのかしら?」

「いますよ?一年2組の影乃山太郎君とか、留学生のカゲル・ヤマリットくんとか」

「御託はいいから、さっさと来て頂戴」


 腕を組み、逃がさないと言わんばかりの会長。

 どうやら冗談が通じる状況じゃないらしい……。


「あのー、一応もうちょっとで昼休み終わりそうなんですけど」

「5分で終わらせるから、心配いらないわ」

「そっすか……」


 最後の抵抗もむなしく、先輩はスタスタと歩いていく。俺も諦めて付いていくことにした。


 ああ、皆の奇異の視線が痛い……。俺が何したって言うんだよ……。




 ♢


「座りなさい」


 連れてこられたのは、当然のように生徒会室。

 相も変わらず塵一つないソファーに腰かける。

 先輩は自分の机で何かいじっているようだった。


「今日は庄内先輩はいらっしゃらないんですね」


 いつも会長の傍にいる長身のボディーガードは今日は見えなかった。


「ええ、今日は外してもらってるわ。小春がいたらあなたも緊張するでしょう?」

「お気遣いいただき感謝です……」


 ぶっちゃけ会長だけでも十分緊張するんだけど……。

 西園寺先輩は俺の真正面のソファー、前回庄内先輩が座っていた辺りに腰を下ろした


「それに今日あなたを呼んだのは私の独断、小春は知らないわ」

「だからあんなところに立ってたんですか……」


 普通に前回みたく放送で呼べばいいのにと思っていたが、どうやらそうもいかない事情があるらしい。


「ええ、あの方が目立たず行動できるでしょ?」

「いや、バリバリ目立ってましたけど……」


 普段から人の視線を浴び慣れている先輩の事だ。多分俺とは基準が違う。


「まあ、あなたも直に《《こちら側》》になるのだから、この位慣れてもらわないと困るわ」

「……まるで確定事項みたいに言いますね」

「あら、気に障ってしまったらごめんなさいね?」


 ここに呼ばれたときから大方予想はしていたが、やっぱりその件か……。

 俺が少し声色を変えるが、先輩はあくまで優雅な笑顔をこちらに向ける。


「何度も言うようですけど、俺は生徒会に入るつもりはありませんから」

「まだ何も話してないじゃない、話を急ぐ男はモテないわよ?」

「グッ……」


 先輩は再びゆったりと笑う。

 ……この常にペースを握られてる感じ、やっぱ苦手だなぁ。早く話を切り上げて帰りたいのに、中々話を切り出してくれないし。


「とりあえずお互いの事をもっとよく知るために雑談をしましょう?」

「5分じゃないんです?」

「まあ落ち着いて。最近バイトの調子はどう?ビアンカは繁忙店だし、大変なんじゃない?」

「ちゃんと知ってるんですか」


 彼女にバイトの話など、一切したことは無いのだが……。


「相手を知るのは兵法の基本よ?」


 優雅に笑う彼女だが、これ以上ない圧を感じた。

 瞬間、脳裏にあの時の言葉が蘇る。


『欲しいものは必ず手に入れる、よ?』


 あんな風に啖呵を切ってわざわざ俺をもう一度ここに読んだという事は、何か策があるに違いない。不敵な笑みの裏側が読めなくて、正直怖い……。


 ……いや、弱気になっちゃだめだ!先輩にペースを握られないように、あくまでガツンと言ってやるんだ!


 ばんと机を強くたたいて立ちあがり、先輩を睨みつける。


「なんと言われても、俺は会長の思い通りにはなりません!」


 俺を見上げる先輩の眉が、ピクリと動いた。

 だが一切気にしない。俺の魂の叫びを、この人にぶつけてやれ!


「だって俺は、放送部が大好きだから!」


 そして、長い長い沈黙が生徒会室を覆った。

 沈黙を破ったのは、先輩だった。


「……へぇ」


 会長の口がにんまりと歪む。

 普段冷静沈着で高貴な会長からは見たことがない位、欲望がむき出しになっている表情だった。


 ヤバイ、いくら何でも無下に断りすぎたか?いやでも、このくらい言わないとこの日と引いてくれなさそうだし……。


「分かったわ」

「へ……?」


 しかし、会長の返事は予想外だった。いつの間にか表情もいつも通りの落ち着いたものになっていた。


「影山君の気持ち、しかと聞かせてもらったわ。今の私たちではあなたを勧誘することは難しそうね」

「やっと分かってくれましたか」

「ええ、もう帰っていいわよ。わざわざ時間取らせて悪かったわね」

「あ、ああ。はい……」


 会長はあっさりと引き下がってくれた。あっけなさ過ぎて拍子抜けするほどだった。


「ほら、そうと決まったら早く行きなさい。もう昼休み終わっちゃうじゃない」


 会長はしっしと俺に手を振った。心ここにあらずと言うか、何か他の事に気を取られているような態度だった。


 その豹変っぷりに驚くことしかできないが、これはチャンスに他ならない。


「はぁ……じゃあ、失礼します」

「ええ、さようなら影山君」


 妙にそわそわしている会長に見送られながら、俺は生徒会室から解放されたのだった。




 ♢




 影山が帰った後、彼女は一人生徒会室にたたずんでいた。

 ドアの前から人影が無くなったことを確認してから、彼女はすっと立ち上がった。


「よし」


 彼女が向かう先は自分が座るひじ掛けのついた椅子……ではなく、先ほどまで《《彼が座っていたソファー》》。


 早足でソファーの前に立ったかと思うと、彼女はおもむろにソファーの中に手を突っ込んだ。指先が堅いものに触れるのを確認して、ぐっと引き出す。


 彼女の手には、小さな黒い機械が握られていた。録音中を示す赤いランプが点滅しているのを確認して、彼女は口角を上げた。


 自分の席まで持って行こうか少し考えたが、最早待ちきれなかった。


 興奮で震える指先を抑えつつ、慣れた手つきで機械を操作する。


『俺は、会長の言う通りになんかなりませんから!』


 ここには今いないはずの人間の声が、生徒会室に反響する。


「ああ、何度聞いてもいい声……」


『だって俺は、放送部が大好きだから!』

『だって俺は、……部が大好きだから!』

『だって俺は、大好きだから!』


「ん……っ」


 生徒から尊敬と畏怖の象徴としてあがめられる彼女は、誰もいない生徒会室で一人恍惚に身を震わせる。


「見てなさい影山君、今度は全部手に入れるから……」


 彼女の目的の一つが実は達成されていたことを、彼は知る由もない……。


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― 新着の感想 ―
素材入手してて草 最初、会長がソファに手を突っ込んだ時は、影山君のケツのぬくもりを感じる上級者なのかと思った。
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