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 一年後。

「ショー。いや、ショウゴ。君をフォーレンから追放する」

 ギルドハウスの一室で大きく立派な椅子に座ったフリードは残念そうにそう告げた。

 突然の通告に俺は唖然とする。

「…………は?」

 今なんて言った?

 追放?

 それってつまり……クビ?

「ま、待ってくれ! なんだよ追放って! 俺達仲間だろ!? なあ! エレーナ! カレン! お前達からもなにか言ってくれよ」

 フリードの両隣に立つ二人は助けを求める俺を冷たくあしらった。

「残念だけど仕方ないわ」

「そうそう。男らしく受け入れてよ」

 一緒に冒険してきた仲間から一切の慰めを感じず、俺は困惑した。

「お、お前らまで……」

 エレーナとカレンは寂しく思うそぶりも見せず、逆にあざ笑うな笑みを見せた。

「大体あなたはお荷物なのよ」

「うんうん。武器も魔法も使えないし、スキルだって役立たず。いつもみんなに守ってもらってばかりなんてさ。年上なのに恥ずかしくないの?」

 心ない言葉が胸にぐさりと刺さる。

 確かに俺はずっとみんなに守られていた。

 攻撃も防御も回復も索敵もできない。

 俺にできるのはアイテムを出したり、しまったりするだけだ。

 それでも俺はできる限りのことをやっていた。

「なんだよそれ!? 俺だって役に立ってただろ!? お前達の荷物を持って行ってやったし、アイテムだってたくさん回収できた! そのおかげでフォーレンはここまで大きくなったんだろ!?」

 フリードは気まずそうに俯いた。

「……たしかにそうだ。君のおかげでフォーレンは大きくなった。メンバーも増えたし、こんなに立派なギルドハウスだって建てられた」

「ならなんで追放なんだ!?」

「それは…………」

 口ごもるフリードの代わりにエレーナが説明する。

「あなたがいつまで経っても成長しないからよ」

「成長?」

「忘れたの? あなたのレベルはずっと1のまま。スキルだって倉庫だけ。いつまで経ってもみんなの後ろで待ってるだけのお荷物じゃない」

「そ、それは……。でも俺だったがんばったんだ。鍛えたり、武術だって習った。でも全部上手くいかなくて……」

「だからよ」

「……どういう意味だ?」

 カレンは馬鹿にするようにクスクスと笑った。

「おじさんがいるとギルドのランクが上がらないんだよねえ。知ってる? 上位ギルドになるためには平均レベルが35以上必要なの。他のみんなはその条件をクリアしてるのに、おじさんがいるせいであたし達は上位ギルドとして認められないんだよ? それってどういうことか分かる?」

「……レベルの高い依頼が受けられない」

「せいかーい♪」

 さっきまで笑っていたカレンが急に俺を睨んだ。

「だからさっさと辞めろよ。おっさん」

 レベルが高い依頼は当然報酬も高額だった。

 ギルドの人数が増えれば養う人数も増えるから高額報酬は必要だ。

 なのに俺のレベルがいつまで経っても1だからそれができない。

 足を引っ張り惨めになって俯く俺を見てフリードが心配そうにした。

「カレン。そんな言い方ないだろ?」

「だって本当のことだもーん」

 フリードは小さく溜息をついた。

「もちろんショーの働きには感謝してる。君のおかげでフォーレンは他にない速度で成長できた。たくさんのアイテムを手に入れ、そのお金で装備を整え、人を雇うこともできた。でもここが限界だ。これから先は危険も多くなる。みんなの平均レベルを上げて上位の依頼を受けられたとしても、凶悪なモンスターから君を守り抜くのは難しい」

「そんな……」

「それに人数が増えて持ち帰れるアイテムの量も増えた。残念ながら君がいなくてもフォーレンは回っていくようになってしまったんだ」

 フリードは机の引き出しから袋を取り出した。

 机の上に置くとジャラリと音がする。

「ここに二百万ゴールドある。これだけあればしばらく生活には困らないはずだ」

「……手切れ金ってことか」

「……すまない」

 申し訳なさそうにするフリード。

 エレーナは眉をひそめてテーブルを叩いた。

「謝らなくてもいいわよ。どこの誰がこんな無能に二百万も渡すわけ?」

 カレンも怒りながら頷く。

「そうだよ。これだってあたし達がモンスターを倒して稼いだお金じゃん。大体このフォーレンは今この街で一番勢いがあるギルドなんだよ? あたし達のことを勇者パーティーって呼ぶ人までいるんだから。そんなところにこんな無能が居られるわけなくない?」

「そもそも目つきがいやらしいのよ! 戦ってる時もお尻ばっかり見てくるし!」

「あ! それはあたしも思ってた! 他の女の子からも苦情が来てるし。胸とかじろじろ見てくるって!」

 ……それはたまにあった。

 だって異世界で美少女に囲まれたら期待するだろ?

 みんなスタイルいいし、露出も多いんだから。

 戦闘員が戦ってる間は暇だし、そうなると自然に視線は揺れる胸やお尻を追ってしまう。

 正直結構いいポジションだった。

 それは認めよう。

 でもだからこそしばらくして気付いたんだ。

 みんが好きなのは俺じゃなくてフリードなんだと。

 女の子達の視線の先にはいつもフリードがいる。

 優しくて、イケメンで、爽やかで、尚且つ強い。

 俺が憧れた主人公そのものだ。

 そして俺自身フリードのことが好きだった。

 こんな良い奴は前の人生でも会ったことがなかった。

 そんなフリードが俺に辞めてくれと頼んでいる。

 二百万ゴールドなんて身の丈に合わない金まで用意してくれた。

 今まで貯めたお金もいくらか残っている。

 潮時か……。

 俺はテーブルの上に置かれた金をスキルでしまった。

 そして踵を返し、部屋の出口に向かう。

 ドアを開けると最後に呟いた。

「冒険できて楽しかったよ。良い夢が見られた。……じゃあな」

 呼び止めてくれることを期待していたけど、ドアが閉まっても、ギルドハウスから出ても、誰もなにも言ってくれなかった。

 こうして俺はギルドを追放された。


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