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 夜。

 村人達が寝静まった村で俺とリズだけが起きていた。

 見張り用に貸してもらった小屋で月明かりに照らされた穀物庫をじっと見ている。

 もうかれこれ数時間はこうしているけど、これといって変化はない。

 冷静に考えれば来ないって可能性もあるな。

 その場合依頼ってどうなるんだ?

 やっぱり倒さないと報奨金はもらえないよな。

 あんまり時間もない。ここで足止めを喰らってたら三ヶ月で三千万なんて夢のまた夢だ。

 それになんか眠くなってきたな。

「リズ。なんか来なさそうだし、交代しながら仮眠を取ろうか。眠いなら先に寝ていいよ」

「そんな。寝るならソーコさんからです」

「そう? いやさ。年取るにつれてどんどん起きていられなくなるんだよね。なにかあったらすぐ起こしていいからさ」

「はい。ゆっくりしてください」

 お言葉に甘えて俺は村人から借りた毛布にくるまった。

 だけど寝ようとするとどうも寝られない。

 いつまで経っても女の子がすぐそこにいるのに寝るのは慣れなかった。

 俺はふと思ったことをリズに聞いてみた。

「そう言えばリズってどんな暮らしをしてたんだ?」

「どんな……。普通です。農作業をしたり、狩猟をしたり。あとは服とか小物とかを作ってました」

 なんか昔の人の生活って感じだな。

 どおりで強いわけだ。

 俺みたいな現代人は滅多に自然と触れ合わないから虫とか動物ですら怖い。

 モンスターなんか何度戦っても慣れなかった。

 考えてみれば「今から山に行ってイノシシを狩ってきてください」って言われても、「分かりました」と即答できる現代人の方がどうにかしている。狩猟免許とかない限り不可能だろう。

 そういう意味ではゴブリン退治のためにこんなとこまで来てるんだから、俺も随分こっちの世界に染まってきたのかもしれない。

「アメリアとは仲が良かったんだよな」

「はい。幼馴染みでした。平民のわたしと違ってアメリアは里の姫で、とっても偉いんです」

「へえ」

 そう言えばどことなく所作に上品さがあったな。

「ん? でも身分が違ったら簡単には会えないんじゃないのか?」

「はい。だからこっそりと会ってました。アメリアが抜け出してきて、一緒に森で遊んでたんです。お花を摘んだり、ちょっとした冒険をしたりして」

「楽しそうだね」

「はい。とっても」

 リズは可愛らしく微笑んだ。かと思えば寂しそうにする。

「……でも、それがいけなかったのかもしれません」

「え? なんで?」

「大きくなるとアメリアは外の世界に興味を持つようになったんです。古い制度で縛られた里で姫として生きるより、もっと自由に暮らしたいって」

 田舎の女子高生が東京に憧れるようなもんか。

「気持ちは分かるけどそれって危ないよな」

「はい。わたし達の里は結界で守られていますから怖いモンスターは入って来ませんし、人間に見つかることもありません。ですが一歩外に出たら……」

「悪い人間に捕まる……と」

 リズはこくんと頷いた。

 そして娼婦として売られて、あそこで踊り子か……。可哀想だけど、自業自得でもあるな。

「……でもなんでリズまで里を出たんだ? 危ないって分かってるのに」

 リズは苦笑した。

「えっと、アメリアが約束の日になっても中々帰ってこないから心配だったってのもあるんですけど。実はわたしも里の外に興味があったんです」

「ええ……」

 意外とアクティブなんだな。

 リズはあたふたとした。

「だ、だって人間の世界ではとっても美味しいお菓子を手軽に買えるんですよ? わたし達なんて年に数回人間の商人から高く買わないとダメなんですから。ちょっとをみんなで分け合って、それで喧嘩になったりと大変なんです」

「ははは……」

 そんな理由でとは思うけど、まあ、普通の女の子ってこうだよな。

 リズは恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「すいません……。こんな理由で……」

「いいさ。俺だってくだらない理由でここにいるんだ。みんなそんなもんだよ」

「ソーコさん……」

 嬉しそうにするリズに俺は笑いかけた。

「これが終わったらマーティアのお菓子屋に行こう。たしか美味しいパイが食べられる店があったはずだから」

 リズはぱあっと顔を明るくさせる。

「いいんですか? ありがとうございます。楽しみです」

 こんな笑顔が見られるならお菓子なんていくらでも買ってあげたい。

 なによりリズのことが少しでも知れたのがよかった。

 同時になんとしてでもアメリアを助け出さないといけないと思った。

 リズの悲しむ顔は見たくない。

 正直、できたらいいなくらいで始めたカネ稼ぎだけど、やる気が出た。

 ゴブリンが来ないなら来るまで粘ろう。そうすればまたアメリアに一歩近づく。

 なんてことを思っているとリズの耳がぴくりと動いた。

 そして真剣な顔で告げる。

「ソーコさん。どうやら来たみたいです」


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