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さて。
大見得斬ったはいいものの、未だに俺は自分の能力すら分かってなかった。
当然三千万なんて大金を用意するあてもない。
いや、自分の能力は分かっている。
倉庫だ。
物を入れられるし、出せる。
常に手ぶらでいれる便利なスキルではある。
が、それ以外はなにもできない万年サポートの残念スキル。
誰もが馬鹿にするハズレ。
そのはずだった。
だけどレベルが上がってなんらかの能力が追加された……はずだ。
意識して使ったことはないけど、そうでないと魔犬の一件が説明できない。
モンスターのアイテム化。
それがどういうものか確かめるため、俺はリズと共に街から出て近くの草原にやってきた。
ここにも低レベルなモンスターはいる。
人間を見れば逃げ出すような弱い奴らだ。
なんでも森とか洞窟では他のモンスターが強すぎて生きていけないらしい。
当然倒しても大した経験値は得られないし、素材は安くて労働の割に合わない。
若い冒険者のチュートリアル的な価値以外は見向きもされない奴らだった。
でも戦闘経験がない俺にはちょうどいい。
危ないのとか痛いのとかはイヤだからな。
モンスターを探しているとリズは不思議そうにした。
「ここでなにをするんですか?」
「うん。ちょっとね。あ。あれでいいか」
俺は近くを漂っていた大きな蠅のモンスター、フライフライに標的を絞った。
デフォルメされたようなデザインのフライフライは雑魚モンスター。
大した攻撃もしてこない。やっても体当たりくらいだ。
モンスターの死体とかを探して、それから体液を吸うらしい。
リズはキョトンとする。
「あれなら私の森にもいました。どこにでもいる低級モンスターですね」
「そうだね。だからいいんだ」
リズは疑問符を浮かべた。
「そうなんですか?」
「フライフライが冒険者から見向きもされない理由が弱すぎるから。経験値も少ないし、大したアイテムも手に入れられない。薄い羽が工芸品に使われるくらいだけど、単価は他のアイテムと比べると安い。だけどフライフライからはもう一つ手に入るアイテムがある。それは『虫の体液』だ」
「あ。聞いたことがあります。フライフライの体には小さな袋があって、そこに体液が溜まっているって」
「そう。その体液は貴重な薬になるからそれなりの値が付くんだけど、ここで一つ問題がある。それはフライフライが弱すぎて、少し攻撃したら体液が入った袋が破けてしまうこと。新鮮な体液じゃないと薬には使えないらしい。毒で倒すこともできるけど、そうなると体液は汚染される」
「じゃあどうやるんですか?」
「生きたまま薄い羽だけを切り落とし、首をはね、中の袋を丁寧に取り出す必要がある。前にいたギルドで依頼を受けたことがあるけど、難易度は高いし、技術もいる。そのわりに取れる体液は少なくて割に合わなかった。だからたまに依頼があっても受ける奴はあんまりいないんだ。みんなお金が必要だから他にクエストがなかったら渋々やるって感じ」
「ソーコさんはできるんですか?」
「残念ながら無理だ。そんな技術俺にはない。恥ずかしながらそもそもまともに戦ったことすらないからな」
「え? でも魔犬を倒したじゃないですか」
あれが最初の戦闘だなんてリズは思いもしないらしい。
今思い出しても怖かった。
俺はフッと笑った。
「ただの偶然だよ。俺には戦うことや、特別な知識はない。だけどスキルがある。俺の予想が正しければ、なんとかなるはずだ。一つ頼めるかな?」
リズはニコリと笑った。
「なんなりと仰ってください。私にできることならなんでもします」
「ありがたい」
俺はリズに指示を出した。
内容はシンプルだ。
俺が隠れているから、そこにフライフライを追いかけて連れて来てほしい。
フライフライは体が大きいから逃げる時にすぐ上へは行かない。まずはまっすぐ進む。
その習性を利用することにした。
俺が茂みに隠れていると、リズがフライフライの後ろに回り込んだ。
そして俺が頷くと同時に攻撃を仕掛ける。
「行きます!」
リズはフライフライ目がけて走りだした。
ただし、これは本気じゃない。
リズなら倒せるだろうけど、そしたら体液は手に入らない。
驚いたフライフライはリズから逃げようとこっちに飛んできた。
だけど茂みからは少し離れている。
このままだと失敗するかもしれない。
そう思った時、リズが機転を利かせて回り込み、こちらに誘導してくれた。
うまい。これなら近づける。
フライフライはブーンと羽音をさせながら慌ててこっちに逃げてきた。
俺はタイミングを見計らって飛び出す。
「そこだっ!」
フライフライに手を伸ばした。
同時にスキルを発動させる。
倉庫レベル2。
「くらえっ!」
俺の右手の前に黒い扉が現れ、そこにフライフライが触れると一瞬で吸い込まれていった。
「やったっ!」
予想が当たった。
俺の能力はレベルが上がり、生き物でも収納できるようになったんだ。
向こうから嬉しそうな顔をしたリズが走ってくる。
「やりましたね!」
「うん! いやあ、ハラハラしたよ。あんまり自信なかったから。もし収納できなかったら骨折とかもあり得るし。さてさて」
俺はステータスを表示させた。
するとそこにはフライフライの羽が数枚と虫の体液袋が一つ加わっている。
「やっぱりだ」
「え?」
「俺のスキルだよ。今までは生きているものは倉庫に収納できなかったんだ。でもレベルが上がってそれができるようになった。そして捕まえたモンスターは全身まるごとアイテムになるみたいだ」
これで魔犬の一件も説明がつく。
あれは倒したんじゃない。アイテム化したんだ。
そして普段なら中々手に入れられないレアアイテムもこの力があれば簡単に手に入る。
ぼんやりとした希望が一気にはっきりとした。
「いけるかもしれない。この力があればアメリアを救うことができるかも」
「本当ですか!?」
リズの表情が明るくなる。
俺は頷いた。
「でも一人じゃ無理だ。リズの助けがいる」
リズは笑顔で頷いた。
「私はあなたの所有物ですから。なんなりと申しつけください」
所有物。その言葉に僕の胸がちくりと痛む。
でも今はリズにがんばってもらうしかなかった。
俺じゃモンスターに近づくことすらできないから。
「ありがとう。じゃあ、まずは手始めにこの辺りのモンスターを捕獲していこう。練習も兼ねてね」
「はい!」
それから俺達は次の獲物を探し始めた。




