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 しばらくして娼館から出るとリズが不安げに駆け寄ってきた。

「どうでしたか?」

「うん。気持ちよかったよ」

「え?」

 リズがキョトンとするので俺は慌てて誤解を解こうとした。

「あ、いや! 違う! マッサージ! マッサージの話ね! そういうことはしてないから!」

「そうですか……」

 リズはなにか言いたげにジトリとした目を俺に向けた。

 完全に誤解されてる……。話を逸らさないと。

「そ、そうだ! アメリアを見つけたよ!」

 するとリズの顔がぱあっと明るくなる。

「本当ですか!?」

「うん。ただちょっと厄介なことになって……」

「厄介なこと?」

 不思議がるリズに俺は事情を説明した。

 アメリアを買うには三千万ゴールドが必要だと知ると、リズの顔が暗くなった。

「人間のお金に関してあまりよくは知りませんが、それってすごい大金ですよね……。しかもたったの三ヶ月でなんて……」

 獸人であるリズが聞いても無茶な要求だと分かるらしい。

 我ながら酷い条件を呑んだもんだ。

「まあね。でもなんとかしてみせるさ。なんとなくだけどやれる気はするんだ」

「本当ですか?」

 リズは顔をあげた。

「正直自信はないけど、やれるだけやってみるよ。もし無理だったらまた別の方法を二人で考えよう」

 俺が笑いかけるとリズも柔和に微笑んだ。

「はい」

 かわいいな。この笑顔のためならなんだってできそうだ。

 すると話を聞いていたララーナが煙草を吹かしながら苦笑した。

「三千万って……。どう考えても無理な気がするけど? それともあんた、そんなにカネ持ってるの?」

「いや、ない。正直すっからかんだ」

「それでよくそんな条件呑んだね」

「そうするしかなかったからな」

「へえ」

 ララーナはなにか言いたそうにリズを見つめた。

「多分無理だと思うけど、良い主人に買われたね。この街じゃこんなの滅多にいないよ」

「そうなんですか?」

「ああ。あたしの主人なんてろくでなしでさ。体売って稼いでこいって言うんだ。そのくせ自分はなにもせずに売り上げだけ持っていく。あたしに残るのは子供の小遣い程度だよ。でも断ることもできない。それが奴隷だからね」

 ララーナは夜空を見上げて煙草を吹いた。視線の先には月が淡く光っている。

「まあ、それでも獣人の中ではマシな方だけどね。ある程度の自由はあるからさ。もっときつくて酷いことをやらされてる子はたくさんいる」

 その光景を俺は何度も見てきた。酷いけどここではそれが普通だった。

 俺は疑問を口にした。

「逃げたりとかは考えないのか?」

 ララーナはフッと笑った。

「もちろん考えるよ。でも捕まったら殺されるし、もしこの街から逃げられてもハンターが追ってくる。あたし達に安全な場所なんてないんだ。死ぬまで働かされて、捨てられるだけだよ」

 分かってはいるけど残酷な仕打ちだ。

 だけどここじゃそれが普通だった。

 モンスターに対して人は甘くない。

 狩り、奪い、屈服させる。

 それが冒険者という存在だった。

「……そんなことしてたらいつか罰が当たる」

 ララーナは呆れて笑った。

「あんたがそれをしてくれるわけ?」

 それはそんなことにはならない。そう諦めた笑いだった。

 俺が世界を変えてやる。

 もうちょっと若ければそんな風なことも言えたんだろう。

 だけど今の俺は現実を知ってる。

 いくら異世界に来たからって根本的に俺は倉庫作業員のままだ。

 倉庫作業員が世界を変えると息巻いていたら周りはどう思う?

 そんなの考えるまでもない。

 お前が変えるべきはまず自分だって言われるだけだ。

 それを言われたくないから俺はなにもしてこなかった。

 俺の限界は俺が知ってる。

 だから今回も「俺じゃ無理だよ。他の人がやってくれるのを待つしかない」って言うはずだった。

 でもダメだと思っていた俺は今生きている。

 魔犬に襲われて死ぬと思っていたのにだ。

 レベルが上がった。

 なにもしてこなかったからこそ、なにかしたら俺は強くなれるんだと分かった。

 だから俺は思いきって言ってみた。

「まあ、やってみるよ」

 するとララーナは驚き、そして苦笑した。

「あ、そう。なら首を長くして待ってるから精々がんばってね」

 期待されてないのが分かった。

 でもそれでいい。

 それくらいが俺にはちょうどいいんだ。

 リズは俺に笑いかけた。

「わたし、アメリアを取り戻すためならなんでもします。どうか力を貸してください」

 この子はどこまでもまっすぐだ。

「もちろん。二人でどうにかしよう」

「はい!」


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