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………………
…………
……
なんだ?
背中がひんやりする。
なんだか懐かしい感触だな。
匂いもする。
ああ。これはあれだ。
土の匂いだ。
目が覚めると視界いっぱいに木々が揺れていた。
その向こうには青空が見える。
なんで俺こんなところにいるんだっけ?
そうか……。
あの女神に飛ばされたんだ。
ってことはここは異世界なのか?
俺は体を起こした。
全身が軽い。
どうやら倉庫での疲れは本当にないみたいだ。
それにしてもなんか普通だな。
空は青いし、葉っぱは緑だし、風も気持ちが良いし。
『ゴブ』
ゴブリンもいるし。
「…………ん?」
周囲を見渡していた俺はなにかに引っかかった。
なんか今いたような……。
いや。気のせいだろう。
ゴブリンなんか本当にいるわけが…………。
視覚からの情報を無視しようとした時だった。
目の前にゴブリンの顔が現れ、叫んだ。
『キシャアアアアアアアアァァァッ!』
「うわああああああああぁぁぁッ!」
いる!
本当にいる!
本物がいる!
慌てた俺は手足をばたばたと動かしながらなんとか立ち上がり、走った。
「マジか。マジか! マジかッ!」
マジで異世界かよッ!
俺が逃げるとゴブリンが近くにいたらしい仲間と一緒に追ってくる。
『ギャギャギャッ!』
「なんか怒ってるし! つーかどうすればいいんだよ! 剣はっ!? 魔法はっ!?」
面白そうだと思ってた異世界だけどなんの装備もないまま放り投げ出されたら怖すぎる。
ここはとにかく逃げるしかない。
だけどどこに?
知らない場所で逃げるところなんて思いつかない。
とにかく今は走るしか――
そう思った矢先、しゅるしゅると音を立ててなにかが近寄り、俺の足首を掴んだ。
「でぇっ!」
バランスを崩した俺はその場に倒れる。
足首を見てみると木の蔓が絡まっていた。
「なんだよこれ……。ってうわあっ!」
俺の体は蔓に持ち上げられた。
パニックになっていると大きな怖い顔が現れる。
それは顔のある木の化け物だった。
「もしかしてこいつもモンスターか!?」
正解らしく、木の化け物は大きな口を開けて俺を食べようとしていた。
その下ではさっきのゴブリンが喚いている。
『ギャギャギャッ!』
俺はお前らの獲物ってか?
ああ……。もう終わりだ……。
木の化け物から逃げられてもゴブリンに食われる。
「まだ始まったばかりだっていうのにこんなことになるなんて……。結局俺の人生ってこんなものなのかよ……」
絶望はしたけど、悲しいことにそれは慣れていた。
「まあ、仕方ないか……。どうせ俺なんてどこにでもいる倉庫のおっさんだし……」
厳しい現実にガックリときたところで思い出した。
「いや、待てよ……。まだ俺にはスキルがある!」
ハズレでもこの状況からなんとか逃げられるかもしれない。
でもどうやって使えばいいんだ?
「ああ。くそ! よく分からないけど! スキル発動!」
俺は木の化け物に手を伸ばした。
すると全身から光が発せられる。
どうやらスキルが発動したみたいだ。
「よし! 出た!」
光に反応して木の化け物やゴブリン達がひるんだ。
しかし待てども待てどもなにも起こらない。
「……もしかして、不発? ハズレにも程があるだろ……」
木の化け物もそれに気付いたらしく、再び俺を食べようとした。
もう為す術がない。
死を覚悟すると全身から力が抜けた。
木の化け物の口は既に目の前にあった。
こうして二度目の人生はあっけなく終わった。
そのはずだった。