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「バカも休み休み言いな」
振り向くとそこには背の高い綺麗なおばさんが立っていた。ドレスを着ているせいか娼婦の風情がある。つばの広い帽子をかぶっているせいか怪しげにも見える。
「ママ」
アメリアはおばさんをそう呼んだ。
「ママ?」
「ここのオーナーよ」
「この人が……」
まずいな。一番まずい人に見つかった。通報されたらどうしよう。
ママは煙草を吸うと煙を吐いた。
「その子はうちの商品なんだ。それもとびっきりのね。勝手に持ち出したら地の果てまで追っ手が行くよ」
「そんな……」
「客も取れないこいつを一人前に育てあげてやったんだ。それを持って逃げようなんて許されるわけがないのさ」
「客が取れない?」
アメリアは気まずそうにするとママは頷く。
「こいつは極度の男嫌いでね。あてがった客を全員ぶっ飛ばしちまった。とんだおてんばさ」「ぶっ飛ばしたって……」
アメリアは顔を赤くして恥ずかしがる。
「し、仕方ないでしょ! 私はこれでも姫なんだから! 人間相手にはしたないことできないわ!」
ママは呆れて煙を吐いた。
「本当は小間使いとして売り飛ばすつもりだったんだけどね。踊らせたら中々上手いから、そっちで稼ぐことにしたのさ」
「だから踊りを……」
「買えないってのが逆によかったみたいで、今じゃ常連客までついた。そんな子を攫おうなんてしたら、どうなるか分かってるだろ?」
獣人を盗むのは重罪だ。
最悪命が危ない。
くそ。せっかくアメリアを見つけたのに。このまま帰ったらリズに顔向けできない。
「どうにかなりませんか?」
「どうもならないね。こいつは一生かごの鳥さ。それがこの街に連れて来られた獣人の運命だよ」
「運命って……。なんだよそれ……」
それはあまりにも惨いものだった。
だけどそれがまかり通るのがこの街で、異世界だ。
くそ。せっかく異世界にやって来たってのに、また縛り付けられる。
制度とか常識とか、そんなのはもうまっぴらだった。
なんとかしたい。
いや、するんだ。
「……なら、俺がアメリアを買いますよ」




