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 気が付くと俺は真っ白な空間にいた。

「あれ? ここどこだ? こんなエリアあったっけ? ああ。あれかな。新設エリアかな。これから棚が入るのか。また忙しくなるな」

 ぼそぼそと呟いていると異変に気付いた。

 体が軽い。

 あれだけ疲れていたのに全くそれを感じない。

「……なんだこれ? もしかして夢か?」

「いいえ。夢ではありません」

 独り言のつもりだったのに返事があり、俺は驚いた。

 びっくりして振り返るとそこには白い衣を着た金髪碧目の美女が立っていた。

 見たことがない人だ。

「…………どちらさまですか? あ。もしかして日雇いの人? それならあっちにQRコードがあるからそれをスマホで読み取ってもらえますか?」

「いいえ。私はスポットバイトで来た留学生ではありません。女神です」

「めがみ……?」

「そう。あなたは死んだのです」

「…………へ?」

 死んだ? 俺が? こんなに元気なのに?

「ど、どういうことですか?」

「説明してあげましょう。寺板省吾。あなたは倉庫で働いている途中に過労死しました」

「過労死? あれ? でも冷蔵庫は?」

「あれは手前に落ちました。しかしあなたは既に限界で、そのままお亡くなりになったのです」

「マジかよ……」

「ちなみに会社はあなたの死因を隠蔽し、帰宅後の突然死として偽装したため、労災はおりませんでした」

「ええ…………」

 ブラックだとは思ってたけどそこまでとは……。

 女神はわざとらしく悲しんだ。

「ああ。なんて不幸な人なんでしょう。学生時代は友達も恋人もできず、就職は失敗して派遣を転々とし、ようやく就いた倉庫でも過労死してしまうなんて……」

 女神は涙を流したかと思えば急に明るくなった。

「でもご安心ください。あなたには第二の人生が待っています!」

「え? それってもしかして異世界に転生するってやつ?」

「そうです。剣と魔法の世界ファンタージアにてあなたは人生をやり直すのです。女神の慈悲によって。ということで」

 女神はどこからか大きなガラガラを持ってきた。

 商店街とかで見るあれの巨大バージョンだ。

 女神は楽しげに両手を挙げた。

「スキルガチャターイム!」

「スキルガチャ?」

「はい。ファンタージアの住人はスキルを持つことあります。魔法に続き、冒険者には必須の才能です。今回は特別にそれをあなたに授けましょう!」

「マジかよ! じゃあ炎を出せたりするんですか!?」

「炎系のスキルが当たればそれも可能です。前回の人なんて大当たりでした。なんとSクラススキルの『ライトニング』を手に入れたんです。雷を自在に出すことができ、現在絶賛無双中です」

「すげえ……」

 なんかワクワクしてきた。

 炎が出せたらモンスターを倒しまくって、そしたらモテたりしてハーレムなんかできちゃうんじゃ。

 まずい。ニヤニヤが止まらない。

「ではこれを回してください」

「はい!」

 女神の言うとおりに俺は巨大なガラガラを回し始める。

 なにが出るんだろう? 

 水属性とかもいいよな。喉乾いた時とか便利そうだし。倉庫で働いてると水筒の場所まで戻るのも大変なんだよなぁ。

 女神は楽しげに手拍子した。

「なにが出るかな♪ なにが出るかな♪」

「炎! 水! 雷! この際なんでもいいけどかっこいいやつ来い!」

 俺は全力でガラガラを回し、そして遂に球が出てきた。

 それは銀色の球だった。

 球を見た時、女神は一瞬真顔になって「あ」と呟いた。

「え? えっと、なにが出たんですか?」

 女神はまた笑顔になり、カランカランと手持ちの鐘を鳴らした。

「お、おめでとうございまーす! Eクラススキルが当たりましたー!」

「Eクラス? え? 大当たりがSだからABCD……。上から六番目……。それってもしかしてハズレなんじゃ……」

「さあて、中身はなんでしょう? ドキドキの開封ターイム!」

「質問に答えてくださいよ!」

「安心してください。Eクラスでも使えるスキルはいっぱいありますから。問題は中身です」

「そ、そうなんですか? へえ。なにが入ってるんだろ」

 女神は銀色の球をパカリと開けた。

 すると光が出てきて、俺の体を包んだ。

「すげえ。これがスキル?」

 なんか力がわき出てくる……気がする。

 しばらくすると光は俺の中に吸収されていった。

 女神はニコニコしながら言った。

「ではあれやってみましょう」

「あれって?」

「ステータスですよ! そう言ったらあなたのスキルが分かりますから」

「あ。アニメとかで見たことある。え。でもいざ言うとなるとなんか恥ずかしいな……。俺、もう三十三だし……」

「恥ずかしがらずに言ってみてください。もしかしたらすごい便利なスキルかもしれません。空を飛べるものとかありますから」

「空!? そんなのもあるんだ。よ、よーし」

 俺はやる気を取り戻して深呼吸して口を開いた。

「ステータス!」

 お。言ってみると案外楽しいぞ。

 すると目の前に半透明な板が現れた。

 そこには日本語ではない文字で色々と書かれている。

「お。本当に出た。でも読めないな。なんて書いてあるんですか?」

 俺が尋ねるとさっきまでニコニコしていた女神が急に真顔になり、顔を背けた。

「………………まあ、色々と」

「いや! 読んでくださいよ! なんでこっち見ないんですかっ!?」

「最近の通販ってすごいですよね。買ったら次の日は届いてることとかありますし」

「話を逸らさないでくださいっ!」

「でも置き配するならチャイムくらい鳴らしてほしいなぁ」

「んなことどうでもいいんだよッ! こっちを見やがれクソ女神ッ!」

 女神は俺の言葉を無視してスタスタと歩いて離れていった。

 そして立ち止まると振り返り、ニコリと笑った。

「では第二の人生を楽しんでください♪ ゲート、オープン♪」

 女神がぽんと手を叩くと俺の足下が急になくなり、妙な渦巻きが現れた。

「へ? ええええええええええええぇぇぇぇ!?」

 俺の体は勢いよく渦巻きの中に落ちていく。

 穴の縁では女神がにこやかに微笑み手を振っていた。

「がんばれ~♪ ハズレスキルでも諦めなければなんとかなりますから~♪」

「やっぱりハズレなんじゃねえかああああああああぁぁぁぁッ!」

 俺の体は間もなくして渦巻きに飲み込まれ、そしてまた意識が途切れた。


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