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 街を歩くと時折他人からの視線を感じた。

 当たり前だ。

 俺の隣では獸人が歩いている。

 獸人を奴隷にしている人間は金持ちかそういう趣味の奴だけだ。

 みんな物珍しさや軽蔑の視線をこちらに向けてくる。

 普段だと俺のことなんか誰も見ないから少し緊張するな。

 すると一人の若くて目つきが鋭い男が俺を睨んできた。

「おい。おっさん」

「え? なに?」

「なにじゃねえよ。そんな危ないもん鎖も付けずになに野放しにしてんだよ」

 男はリズを指差した。

 まるで大型犬をリードなしで散歩させていたみたいな言いぐさだ。

 俺は苦笑した。

「そんなこと言ったって誰も襲わないよ」

「んなこと分からねえだろ? それともなにか? こいつが暴れたらおっさんが止められるのか?」

 俺はリズの戦闘を思い出してまた苦笑する。

 たしかに怪我をしていたリズでも俺より何倍も強いだろう。

 もし暴れたら止められる自信は微塵もなかった。でもそれを言うわけにはいかない。

「ま、まあ、これでも冒険者だから……」

「ああ? 見たことねえな? どこのギルドだ?」

「いや……、ギルドには入ってないんだけど……」

「んだよ。野良かよ。そんな雑魚が奴隷なんて飼ってんじゃねえよ」

 むかつくけどそう言われるのは当たり前だった。

 奴隷は高級品だ。

 野良の冒険者は普通手が出ない。

 男は俺を怪しんだ。

「なんか変だな。もしかして奴隷泥棒か? 通報してもいいんだぜ?」

「泥棒なんてするわけないだろ。言いがかりはよせよ」

 男はイライラしているみたいだった。

「なんだ? 口答えか? 言っとくけど俺はな――」

「やめるんだ。コール」

 男の言葉を遮り、聞き覚えのある声が聞こえた。

 声の方を向くとそこにはフリードが立っている。

「フリード……」

「ショーゴ。久しぶりだね」

 たった半年やそこらでフリードは勇ましくなっていた。

 新しいマントを着け、王者の風格が漂う。

 コールと呼ばれた男はびっくりしていた。

「え? フリードさんの知り合いなんすか?」

「うん。昔の仲間だよ。色々あって辞めることになったけど……」

 申し訳なさそうにするフリード。

 どうやら追放のことをまだ悪く思っているらしい。

 正直追放された本人でさえ仕方ないと思っているのに、相変わらず優しい奴だ。

「随分出世したな。聞いたよ。四天王に挑むんだって?」

「うん。準備が整ったらね。他のギルドとも協力するんだ。どうかな? ショーゴも。人が多ければ君の能力は役に立つはずだ」

 コールはまたしても驚いていた。

「マジかよ……。フリードさんに誘われるなんて……」

 きっと俺のことを凄腕の冒険者とでも勘違いしたんだろう。

 でも実際はただの荷物持ちだ。人が多いとその分荷物も多いんだろう。

 だけど今更戻るなんてできず、俺はかぶりを振った。

「遠慮しとくよ。俺なんかが行っても危ないだけだからな。それに」

 リズを見る。

 リズは不思議そうに俺を見上げた。

「他にやることができたからな」

 フリードは寂しげに微笑んだ。

「……そっか。また気が向いたら言ってよ。みんなは俺が説得するからさ」

「気が向いたらな」

 ありがたい誘いだけど、あんまり興味ない。

 今の俺がやるべきはリズの友達を探すことだ。

 それにフリードが頼んでくれたってミレーナやカレンのことを許したわけじゃない。

 まあ、あいつらが泣いて謝ったら考えなくもないけど、なにがあってもそんなことにはならないだろう。

「もう行っていいか? 買い物の途中なんだけど」

 俺がそう言うとコールは急に態度を変えた。

「え? お、おう……。すいません……」

 俺とリズが二人の横を通り過ぎるとフリードが忠告した。

「ショーゴ。獸人を連れて歩くならせめて耳は隠した方がいい。なにかとうるさいからね」

 それは今さっき身をもって知った。

 俺は前を向いたまま手を挙げる。

「そうする。がんばれよ。勇者様」

 本当は皮肉のつもりだったけど、もしフリードが四天王を倒したら本当に勇者になる。

 最強で、人気があって、みんなから尊敬される存在。

 それはまさに俺が目指していた異世界ライフそのものだった。

 まさに英雄だ。

 嫉妬がないと言えば嘘になる。

 選ばれなかったことを複雑に思いつつも、それでも与えられたのもでどうにかするしかない。

 俺は自分にそう言い聞かせながら歩き続けた。


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