14
少女は肩を押さえながら小走りでやってきた。
大きな胸が上下に揺れている。
俺が無事だと見ると安堵していた。
「よかった……」
こうして見るとすごい美少女だ。
今まで見た中で一番かわいい。
大きな目に薄い唇。白い肌。明るく肩まで伸ばした髪にはリボンが揺れている。
自然素材で作られたドレスはところどころ破れている。
そのせいで少し際どい格好をしていた。
少女は俺の近くまで来ると少し警戒しながら周囲を見渡した。
「魔犬はどこですか?」
「さあ? どこに行ったんだろ?」
「……なぜ助けてくれたんですか?」
「え? なんでって……。まあ、なんとなくかな」
俺が笑うと少女は益々不思議がった。
「なんとなくって……」
「いや、でも普通はそうだろ? 女の子が襲われてたら助けるよ」
「でも私は獣人で、あなたは人間です。人間はみんな私達獣人を襲ったり捕まえようとするのに……」
「いや、どっちかって言うと俺もそっち側だから?」
「そっち?」
「迫害される側かな。だから迫害されてる人の気持ちは少し分かる」
きっとだからだろう。
だから助けた。
それが今分かった。
「それにあそこで見て見ぬ振りをしたら後悔すると思ってさ。もうしたくないんだよ。後悔ばっかりの人生だったからさ。もっと勉強しとけばよかったとか、就活がんばったらよかったとか。色々さ。でも結局変われないままで、どっかで変わりたかったんだ。多分だけど」
全部転生する前の話だ。
この子には意味なんて分からないだろう。
だけどどこか共感しているようだった。
「……分かります」
「え?」
「わたしも後悔したくなくてもここまで来ましたから」
「……はあ」
どういう意味だろうか?
分からないけど事情がありあそうだ。
話をしたせいか少女の警戒は少し解けていた。
口元が微かに緩むと益々かわいく見えた。
「こんな話しても分からないですよね」
「まあ、それはお互い様かな」
「そうですね」
俺達は目が合うと互いに笑い合った。
すると少女が胸に手を当てて微笑んだ。
「わたし、リズーシアといいます。リズって呼んでください」
「リズ……。あ。俺はショウゴ。昔の仲間からソーコって呼ばれてた」
「ソーコさんですね」
「いや、それはあだ名なんだけど……。まあいっか」
からかわれていた時と違ってリズから呼ばれると悪くない。
笑顔を向けられるとある気持ちがむくむくと膨らんできた。
ああ。こんな子と一緒に居られたらなぁ。
楽しいだろうなぁ。
いや。いかんいかん。変な望みは抱くな。どうせ砕け散るだけだ。
俺はかぶりを振ると気を落ち着かせた。
するとリズは打って変わって真剣な表情に変わった。
「ソーコさん。あなたを信用できる人とお見受けしました。そこで折り入ってあなたに頼みがあります」
「頼み?」
リズは頷くと胸に手を当てた。
「わたしをあなたの所有物にしてくれませんか?」