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 リンゴロの実がなる木は森を探せば結構簡単に見付かる。

 理由は匂いだ。

 この時期は甘くて良い匂いがする方に行けば大抵実がなっているリンゴロの木に出くわした。

 だけど簡単に見付かるということは既に採られている可能性も高かった。

「ここもだめか……」

 森に入ってすぐのエリアはほとんど実が残ってなかった。

 冒険者達が食べたり、依頼を受けたりして採っていったんだろう。

 あるいは街の住人が少し足を伸ばして採りに来たのかもしれない。

 この辺りならモンスターも少ないし、出ても弱いから逃げられる。

 子供達がお小遣い稼ぎに来るくらいだ。

 ないなら街から離れた場所に行くしかない。

 だけどそれはリスクと隣り合わせだ。

 森の深い場所にはモンスターも多く、しかも強い。

 戦闘能力があるならさほど問題ないレベルだけど、俺にとっては死活問題だった。

「……仕方ないな」

 それでも日銭を稼ぐためには危険な場所にも行くしかない。

 俺は倉庫から虫除けの薬を取り出した。

 これを体に塗れば虫系のモンスターはあまり近寄ってこない。

 市場で買ったものだけど安いわりに中々効果はあった。

 ただ……。

「これ、くさいんだよな……」

 それでも虫系のモンスターの中には毒を持つものも多いから、対策はしておかないとな。

 死ぬ前はスズメバチでもビビッてたけど、ここにはメロンくらいのサイズを誇るキラービーがいる。

 針も太いのが二本も生えていて、しかもそれを飛ばしてくるとんでもないモンスターだ。

 あれの群れに捕まったら炎系の魔法が使えない限り殺されるだろう。

 そういうことにもならないために虫除けは倉庫に常備している。

 このスキルが便利なところは中のものが腐らないことだ。

 どういう原理か知らないけど時間が止まってるらしい。

 だけど制限がないわけじゃない。

 広いとはいえ、倉庫の容量には限りがある。だから家や山みたいに馬鹿でかいものは入らないし、中がいっぱいになったら空けないといけない。

 プレハブ小屋くらいのサイズまで対応できるから今のところそんなことにはなってないけど、いずれはそうなるかもしれない。

 それと生き物は入れられなかった。

 植物や果物、肉なんかは問題ないけど、生きているものを直接入れることはできない。

 それができたら冷蔵庫要らず便利だったのに、世の中上手くいかないものだ。

 かゆいところに手が届かないスキルだけど、運搬に関しては無類の強さを持つ。

 森の奥へ入っていくとしばらくして良い匂いが漂ってきた。

 モンスターに気を付けながら匂いのする方に向かうとリンゴロの木が数本生えていた。

「あった。お。まだ誰も採ってないぞ。二百個あるかな」

 俺は倉庫から梯子を取り出した。

 それを木に立てかけ、梯子を登っていき、リンゴロの実を一つ採ると囓ってみる。

 じゅぶりと音がして果汁が滴った。

「うま。保存食として何個か採っておこ」

 いざとなればこれを囓って飢えを凌ごう。だけどこの季節しか採れないみたいなんだよな。

 俺は実を囓りながら右手でリンゴロの実に触れていく。

 リンゴロの実はどんどん倉庫に入っていく。

 だけど二百個の収穫は骨が折れた。

 休憩を挟んで三時間ほどすると俺はステータスを開いた。

 そこにはいくつもの欄が並び、新たに追加されたリンゴロの実の名前と下に数が表示されている。

「215個か。ま、これくらいでいいだろ」

 俺は下に降りると梯子を倉庫に収納した。

 あとは帰るだけだ。

 幸運にも周囲にモンスターは見当たらない。

 ただ油断は禁物だ。、

 木の上からスライムが落ちてきて窒息死なんてこともあるからな。

 まったく。せっかく異世界に来たってのにこれだもんな。

 スキルで無双とか、ハーレムとか、憧れのスローライフなんて夢のまた夢だ。

 現実はいつだって厳しい。

 それは倉庫で働いてた時もそうだった。給料は上がらないのに仕事は大変で、常に閉塞感が漂っていた。

 だけど仕方ないよな。

 俺みたいな底辺がどれだけがんばってもなにかを手に入れられるわけがない。

 人並みでも大成功だ。

 だから高望みはもうしない。

 勇者だとか英雄だとか天才だとか。

 そういうのは俺には向いてないんだ。

 今は毎日食えて、なるべく安全で平和に暮らせたらいい。

 倉庫で働いてた時と一緒だ。

 結局俺はこういう生活が似合ってる。

 世界を救う勇者はフリードみたいな奴が適任なんだ。

 第二の人生だったけど、俺は既に諦めつつあった。

 せっかく手に入れたスキルも戦闘では微塵も使えないハズレじゃこうなっても仕方がない。

 ただ便利ではあったから、なんとかこれを活かして運送業でも初めてみようか。

 異世界に来てまで倉庫で働くなんてどんな人生だよ。

 なんて思いながら俺は森を歩いて行った。

 もうそろそろ安全なエリアが見えてくる。

 そんな時だった。

「誰かっ! 誰かいませんかっ!?」

 どこからか女の子の緊迫した声が聞こえてきた。


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