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俺は酔っ払いながらギルド本部に向かった。
冒険者として登録していれば本部が仕事を回してくれる。
単価は安いし手数料が高いし疲れるしで日雇い派遣みたいで大変だけど、あるだけマシだった。
俺はいつも仕事を紹介してもらう受付嬢マヤの元を訪ねた。
「久しぶり。なにか良い仕事ないかな? 一人でできて、楽なやつ」
「あ。ショーゴさん。顔赤いですよ。もしかして飲んできました?」
「まあな。で、どう?」
「安いのでいいならありますよ」
マヤは笑顔で答える。
それにしても受付嬢はみんな美人でスタイルがいい。
マヤもその例に漏れなかった。肩まで伸ばした茶髪の先に長い谷間が待っている。メガネも似合っていた。
噂では本部は美人を雇って冒険者に通わせているらしい。
俺はまんまと釣られてるってわけだ。まあいいけど。今じゃ俺と話してくれる女の子はマヤくらいだし。
マヤはたくさんある依頼票の中から何枚かを抜き出し、見比べた。
「ショーゴさんのスキル的に運搬系ですよね」
「うん。どんな重いものでも運べるよ」
俺はそこにあったペンを収納し、また出した。
俺のスキルを知っているマヤは驚きもしないで依頼票を見つめる。
「そういう依頼は来てないですね。ガードは付けますか?」
「そんなカネないって」
「ですよね。うーん。どれがいいかな……」
ガードとはボディーガードのことだ。
一人では危険な場所に行く場合も多く、そんな時は仲間と行くかボディーガードと行くことを推奨される。
最初は俺も仲間を集めようと考えたけど、無理だった。
俺みたいな奴を雇ってくれるギルドはないし、組んでくれる奴もいない。
当たり前だ。
俺は外様で、この世界の常識やルールもあまり知らない。
字だって最近ようやく簡単なのを読めるようになったくらいで、ろくに書けもしなかった。
仲間を組むには相手が信頼できないといけない。
でないと裏切られて報酬だけを奪われる羽目になる。
実際それで騙された奴を何人も見てきた。
最悪の場合殺されたり、ダンジョンに置き去りにされたりするらしい。
ギルドに入ってた時には他人事だったけど、今はそうならないよう神経を尖らせている。
第二の人生だ。簡単には死ねない。
特に俺みたいに非戦闘スキルしか持ってない奴はそうしないと生き延びられなかった。
だからいつも一人で受けられる依頼を選んでいる。
それもなるべく安全なのを。
しばらくしてマヤは一枚の依頼票をカウンターに置いた。
「これなんてどうです? リンゴロの実、二百個納品。報酬八千ゴールド」
「……安くない? リンゴロの実なら市場で一個百ゴールドだよ? せめて一万は欲しいな」
「子供達でもできる仕事ですからね。安くなるのは仕方ないですよ。この季節はよく出てますけど、大抵少数納品ですからこの数は珍しいんです。だからまだ余っちゃってて。あ。スイーツ屋さんで使うみたいです。そう言えばもうすぐリンゴロパイの季節ですね。わあ。楽しみー♪」
リンゴロの実は青リンゴみたいな果物で、マンゴーみたいな味がした。
森や林に自生していてよく見た。
家の庭に植えている人もいるメジャーな食べ物だ。
俺も腹が減った時はよく囓ってる。
採ってくるのはそれほど大変じゃない。数を集めるのは大変かもしれないけど、俺のスキルなら収納には困らなかった。
問題は報酬だ。
八千ゴールドは相場より少し安い。
だけど八千ゴールドあれば贅沢しなければ五日は暮らせる。
飲めば二日で消える額だけど。
「他によさそうなのはない?」
「そうですね……。あっても安くなっちゃうかなー……」
「……しょうがないか。それで頼むよ」
「了解しました。がんばってくださいね♪」
マヤは満面の笑みでギルド本部の判子を押した。
「では。冒険者様にご武運があらんことを」
最初に聞いた時はテンションが上がったこのセリフも今は仕事が始まる合図になり、うんざりしてしまう。
やってることはまんま日雇いバイトだ。情けない。
それでもギルドから追放された俺はこうやって食いつなぐしかなかった。